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伊吹山の薬草[2] -日本武尊は伊吹山の荒神にトリカブトで反撃されたか-

日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の伝説を記念して伊吹山山頂に石像が建立されています。

日本武尊の伝説は古事記(712)に倭建命(ヤマトタケルノミコト)による伊吹山の山神鎮定伝説があり、日本書紀(720)にも同じ記載があります。

「命」と「尊」はともに古代の敬称用語で、現代の「様」に相当します。
古事記には「命」が使われ、日本書紀には両方が使われています。

「尊」はこの上もなく貴い方の場合に用い、それ以外の場合は「命」を用います。
古事記に倭建命が出ていますが、これは日本書紀の日本武尊と同じ意味です。

伊吹山が歴史上での初見は古事記ですが、伊吹山の呼称には「膽吹山」、「伊服岐能山」、「夷服岳」、「伊布貴」、「伊福貴」、「五十葺」、「異吹」、「意布貴」、「伊夫岐」、「伊服岐山」など実に沢山あります。


著者が岐阜薬学専門学校に在学(1946-1949)の頃、植物研究部の植物採集活動で伊吹山に度々出かけました。先輩から日本武尊の石像についてよく受けた説明は「日本武尊が東征から都(当時は大和の国)に帰る途中、伊吹山の魔物を征伐するために伊吹山に来てみると、伊吹山を幾重にも大蛇が取り巻いていた。そこで日本武尊は大蛇を跨いで通り抜けようとした時、毒気に当たって高熱を出して倒れてしまった」というのです。

このころは縄文時代に当たり、東日流外三郡誌によれば日本列島の先住民族はツボケ族を中心に次々と漂着する中国系集団と共存していた時代でした。伊吹山山塊にも北方系の民族が北陸道を経て勢力を伸ばしていました。そのものを征伐するのであるから、かなりの抵抗が有ったのでしょう。日本武尊がそれらの豪族に立ち向かったので、彼らは特有のトリカブト毒で応戦したと思われます。豪族のトリカブト毒に犯された日本武尊は朦朧としながら山を退き、養生をするわけです。

やっとの思いで泉にたどり着き喉を潤すのですが、この泉が古事記には「居寤の清泉(イサメのシミズ)」(岐阜県不破郡関ヶ原町玉部落)と、日本書紀には「居醒泉(イサメガイ)」(滋賀県米原市醒ヶ井)との二説があります。玉倉部の「居寤の清水」は鍾乳洞に続き、伊吹山の清水を渾々と湧き出たせています。

一方の「居醒泉」から湧き出る水は清流となり、そこにはバイカモ(梅花藻)が群生し、現在は観光資源の一角を担っています。

その後、日本武尊は正気を取り戻し、岐阜県の養老を通り、三重県の能褒野で一羽の白鳥となり大和に帰って行ったそうです。

イブキトリカブトAconitum ibukiense Nakai(キンポウゲ科)

イブキトリカブトは伊吹山の比較的頂上付近に群落を作っています。
多年生の草本で、茎は直立し、枝分かれが少なく、高さは50〜150センチになります。

山頂部の風当たりのよい場所では背丈は低く、低木などの脇に生育する物は比較的高く伸びます。葉は厚く、やや角質で艶が有り、長さ幅とも10センチほどで、モミジ葉のように3〜5深裂しています。裂片には不整な鋸歯があり、葉両面の脈上に曲毛があります。8〜9月に開花します。花序は密な散房状で、兜状の青紫色の花冠を付けます。

伊吹山にはイブキトリカブトの他にキタヤマブシ、ヤマトリカブトなども見られます。
トリカブトの仲間で薬用に利用されているのは中国原産のカラトリカブト(ハナトリカブト)Aconitum carmichaeli Deb.の塊根で、日本では北海道にて栽培が見られます。

トリカブトの仲間の成分には毒作用が強いので、薬用に用いるときは減毒(塩漬け、焙じたり、加圧して蒸したりする)され、そのままでは用いられません。減毒調整されたトリカブトの塊根(烏頭、附子)は強心、強壮、利尿などの強い作用があります。

文:岐阜薬科大学名誉教授 水野瑞夫先生

先生の紹介

プロフィール

岐阜薬科大学名誉教授 水野瑞夫先生
岐阜薬科大学名誉教授
水野瑞夫先生

略歴

  • 1929年5月8日岐阜県に生まれる
  • 岐阜薬学専門学校卒業(1956) 薬学博士
  • 岐阜薬科大学に奉職(1956)−−教授(生薬学教室)、学長(第7代)
  • 岐阜薬科大学名誉教授(1997)
  • 中国薬科大学及び中国科学院武漢植物研究所客員教授
  • 自然学総合研究所会長
  • 日本食品研究振興財団理事、三栄源エフエフアイ有用植物研究所顧問
  • 伊吹山薬草サミット実行委員会顧問
伊吹山に関する著書
  • 『伊吹山の薬草−基礎と応用−』(1997)
  • 『春日村の薬草−伊吹山の薬草利用−』(1998)
  • 『薬草の宝庫伊吹山』(1999)

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