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現代医療における東洋医学の役割

現代医療における東洋医学の役割

体調の改善にとどまらず疾患によっては西洋医学的治療にひけをとらない治療成績をあげるなど、その効果は幅広く、「癒しの医学」「養生の大切さを悟る医学」という独自性をもって西洋医学と十分共存し双補的(お互いに欠けているところを補いあう)役割を果たしています。

 

現代医療における東洋医学の役割

 西洋医学的疾患概念や病態の把握は東洋医学におけるそれとおおきく異なります。人間を臓器レベルはもとより細胞レベルさらには遺伝子レベルまで細分化して自然科学の手法で疾患のメカニズムを調べ、得た知見をもとに治療を組み立てていくことは無駄が少ないですし、すべての人にその結果を数量的に知らせることができるという利点があるため、西洋医学がこの200年余というほんの短い間に急速な進歩をつづけていることは周知の通りです。

 これに対し、東洋医学の大系は主に中国で発祥した概念や思想をもとに少なくとも3000年にわたる経験をひとつひとつ積み上げて、今日の医学をかたちづくっています。


 ひとりの人を診療するときの両者のアプローチの違いを述べます。西洋医学においては症状を出発点として生化学・生理学などいろいろな検査を経て集めた情報を病気ごとに診断基準というものに照らして診断を行います。病気の診断がつけばベテランであれ新米であれ皆その時々の学会基準が定める治療方針に基づき同じ一定レベルの画一的治療を選択することが可能です。

 東洋医学の場合においては同じく症状を出発点として、ひとりひとり微妙に異なる身体所見をその人の置かれている人間社会での状況や生活環境、気候条件、身体のみならず精神的・感情的偏りを考えあわせて、治療方針を治療者それぞれが得意とするやり方で選択します。

 患者さんの側からみますと、ある症状をとるためにその個性に応じた非常にきめ細かい方針が決定され治療がなされるわけです。治療方針はその人が知性と感情を持つそれぞれ異なる背景を背負った個別の人格存在であることを前提に個別に立てられます。このきめの細かさが癒しの医学としての東洋医学の特徴をかたちづくっています。これは大きな特徴でしょう。

 また、個別の医学という言い方でくくることもできるとおもいます。さらには治療者側の属する流派と個性によっても治療内容が異なってきます。個別性の重層構造です。

 次に「養生」の位置づけの独自性について述べます。東洋医学では成人病だけではなく、すべての病気に対し「養生」ということを薬の治療と同じくらい大切な役割を果たすと考えています。ひとりひとりに欠けている点を具体的に指摘して患者さんと相談しつつ実行可能な方向や方法を捜します。治療者は単に示すだけでなく、常に達成状況を患者さんとお互いに確認し軌道を修正してゆきます。

 次に治療自体がもつ西洋医学と東洋医学の際だった違いについて述べたいとおもいます。西洋医学においては治療の効果は臨床試験を経て疾患単位で数量的に評価されます。薬は大多数が単一の化学物質から成り、薬効は鋭い反面一定頻度の副作用があり、これを避けることはできません。場合によっては生命を損なう程の副作用があるものも薬物として日常的に使用されています。

 一方、東洋医学においては治療法のいかんにかかわらずその効果は個体差が非常に大きいのが特徴です。「その効(こう)、神(しん)の如し」という言葉があるように、薬効鋭い西洋薬をしのぐ場合も多々あります。しかし一般的にはその効果がでてくるのはゆっくりで治療には日数を要します。副作用や副反応が西洋医学の頻度と比べて格段に少ないし、少数の例外を除き程度も非常に軽いのがもうひとつの際だった特徴です。


 以上述べてきた二つの違いをみていくと東西の医学は十分共存し双補的(お互いに欠けているところを補いあう)役割を果たすということが分かるとおもいます。また東洋医学には先に述べた癒しの医学という独自性があるのを忘れてはなりません。

 現代医療における東洋医学の役割を、当施設が日常どのように担っているかを挙げてみます。

  1. 西洋医学的治療にひけをとらない治療成績の疾患。
  2. 患者側が新薬の副作用発現や長期に渡る悪影響を忌避して東洋医学に治療を求める場合。
  3. 西洋医学の通常の治療に適合しない例や難治例。
  4. 西洋医学に治療の決め手となる治療法が確立されていない疾患。
  5. 西洋医学の疾患分類で診断できない体調不良全般。

  以上のいずれの場合においても東洋医学的アプローチは多くの人に非常に役立っています。

 2については新薬を併用する必要があるかどうかをひとりひとりチェックして治療方針を決めます。新薬の使用を必要としない例も含め新薬の使用量を減らすことはかなりの場合可能です。

 1に関して。気管支喘息において、著者はこの2年間の42例中有効、著効、発作消失あわせて8割という好成績をおさめており、新薬治療の効きが悪い人がその中に多数含まれます。次回は2年前から我が東洋医学科内に開設した関節リウマチ外来の診療姿勢を例に挙げて具体的に述べたいとおもいます。


文:兵庫県立東洋医学研究所 兵庫県立尼崎病院東洋医学科 西森婦美子先生


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