病気の悩みを漢方で

１．顔色不良を伴う疲労感

　顔色不良を伴う疲労感は血虚（ｹｯｷｮ）の主な症状です。血虚は栄養不良の病態です。皮膚乾燥､眼の疲れ､めまい､こむらがえり､爪がもろい､集中力の低下､過少月経を伴います。血虚は気虚（ｷｷｮ：消化吸収機能の低下）と併発します。
　疲労感に用いられる補血薬（ﾎｹﾂﾔｸ）と補気剤（ﾎｷｻﾞｲ）の四君子湯（ｼｸﾝｼﾄｳ：人参､白朮､茯苓､甘草）を組み合わせた方剤を解説します（図１）。

　図１の安神（ｱﾝｼﾝ）は心神不安（ｼﾝｼﾝﾌｱﾝ）を軽減する薬能です。心神不安は「こころ」を含めた生命､精神､思惟活動の根源的な力（神 ｼﾝ）の不調です。安神薬には図１に例示した生薬の他に大棗､人参､茯苓（寧心 ﾈｲｼﾝ）も含まれます。
　心神不安の症状は心煩（いらだち､不安､落ち着かない､焦り､胸苦しい）抑うつ感､動悸､息切れ､多夢､不眠､物音に過敏などです。これらは気滞や気逆（ｷｷﾞｬｸ）の症状に類似します。疲労感（１）も参照してください。

２．十全大補湯（ｼﾞｭｳｾﾞﾝﾀｲﾎﾄｳ）と関連方剤

2.1）十全大補湯は､補気剤の四君子湯と補血剤の四物湯（ｼﾓﾂﾄｳ）を含む補気補血剤の基本方剤です（図２：黄色枠の10生薬）。

　十全大補湯は気虚の食欲不振､胃腸虚弱と血虚の顔の色つやが悪く､皮膚乾燥傾向を伴う疲労倦怠感を改善します。漢方薬名の意味：十全大補湯や夏やせを参照してください。
　医療用の十全大補湯製剤は、病中病後の体力低下や倦怠感を軽減する領域で活用されています。がん（１）を参照してください。

2.2）人参養栄湯（ﾆﾝｼﾞﾝﾖｳｴｲﾄｳ）は､十全大補湯と同様に顔色不良､皮膚乾燥などを伴う疲労倦怠感に用いられる参耆剤です。漢方薬名の意味：人参養栄湯を参照してください。

　本方は､十全大補湯の９生薬と安神薬の五味子（ｺﾞﾐｼ）と遠志（ｵﾝｼﾞ）を含みます。不安､不眠､長引く咳嗽にも適することが十全大補湯との相違点です。
　この両生薬の薬能を活かして本方は長引くCOPD（慢性閉塞性肺疾患）に伴う虚弱状態､倦怠感と咳嗽を軽減します。COPDを参照してください。

2.3）帰脾湯（ｷﾋﾄｳ）は､熟地黄を含まない補気補血剤です。本方は､遠志と補血安神薬の酸棗仁（ｻﾝｿｳﾆﾝ）竜眼肉（ﾘｭｳｶﾞﾝﾆｸ）を含みます（図３）。
　この３生薬が心身が疲れて血色の悪い人の不安感､意欲低下､不眠､動悸､抑うつ傾向に適します。とくに寝付きが悪い､眠りが浅く途中で目覚める､夢が多い､寝起きがすっきりしないなど眠りに関する訴えが多いことが使用目標になります。

　本方と人参養栄湯の比較は､フレイル（６）を参照してください。
　医療用の帰脾湯製剤は､がん治療中の不安と抑うつ感を伴う倦怠感の軽減を目指して活用されています。がん（２）を参照してください。

2.4）加味帰脾湯（ｶﾐｷﾋﾄｳ）は､帰脾湯に柴胡（ｻｲｺ）と山梔子（ｻﾝｼｼ）の加味された方剤です。漢方薬名の意味：帰脾湯を参照してください。
　本方は帰脾湯の適応病態に､のぼせ､ほてり､煩躁（いらだち､不安､焦燥）の加わった時に用いられます。過換気症候群（２）も参照してください。

※ 十全大補湯と人参養栄湯､帰脾湯の使い分けの目安を以下に示します。
　・十全大補湯は顔色不良､栄養不足を伴う疲労感の第一選択薬です。
　・人参養栄湯は十全大補湯の適応に咳嗽､息切れを伴う場合に適します。
　・帰脾湯は十全大補湯の適応に不安､不眠､抑うつを伴う場合に適します。
　この３方剤はフレイル（３）でも比較しています。