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漢方薬名の意味

抑肝散(ヨクカンサン)

1.抑肝散(ヨクカンサン)の意味:肝気の昂ぶりを抑える

 抑肝散抑肝(ヨクカン)は肝気(カンキ)の昂ぶりを抑える(鎮める)薬能です。いらだち怒り抑うつ情緒不安定不眠など肝気鬱結(カンキウッケツ)や肝陽上亢(カンヨウジョウコウ)を軽減します。気滞(キタイ)と気逆(キギャク)に相当する病態です。
 この肝気は(現代医学の肝臓の機能ではなく)心身の機能とくに自律神経系の機能調整に相当する漢方用語です。五臓を参照してください。

 なお原典に例示された本方の適応は、虚熱(チク:ひきつけ)、咬牙(歯ぎしり)、睡臥不安などです。虚熱は、(ケツ)や津液(シンエキ)の不足した病態が背景にあることを示唆しています。

2.抑肝散の適応:神経の昂ぶり、怒り、いらだち、不眠

 抑肝散神経の昂ぶり怒り不眠性急を目標にして使用されます。いらだち抑うつが併存する場合もあります。
 本方は小児の夜泣き、ひきつけなど疳の虫(カンノムシ)と言われる興奮症状やチックに用いられてきました。人格形成過渡期の小児は肝気が失調しやすいのです。

 現在では小児に限らず神経の昂ぶりを伴う成人や高齢者にも使用されています(図1)。図1の右側のをクリックすれば当該項目を参照できます。

 抑肝散の認知症の行動・心理症状(BPSD)の軽減効果は、4論文をメタ解析して検証されています。メタ解析は、過去に独立して行われた複数の臨床研究データを収集・統合し、統計的方法を用いて解析した系統的総説です。

 医療用の抑肝散の認知症患者の行動心理症状 (BPSD) に対する有効性に関する論文(4試験:106名、平均年齢 78.6歳、平均試験期間6週間)のメタ解析:
 抑肝散は、BPSDの妄想、幻覚、激越・攻撃性において通常治療より有効であり、日常生活動作(ADL)を改善させた。

Human Psychopharmacology. 2013; 28: 80-6.

3.抑肝散の配合生薬

 抑肝散の配合7生薬の薬能をまとめました(図2)。

 抑肝散の主要な配合生薬は、柴胡(サイコ)と釣藤鈎(チョウトウコウ)と当帰(トウキ)と考えられます(図3)。

 当帰は、肝血虚(カンケッキョ)を補い柴胡理気疎肝 リキソカン)と釣藤鈎平肝熄風 ヘイカンソクフウ)の作用に協力します。

 柴胡は、精神的ストレスによる肝気鬱結気滞膨満感痞塞感抑うつ感)を軽減します。
 気滞は、肝血虚を誘発し、肝陽上亢神経の昂ぶりのぼせ頭痛いらだち不眠)や肝風(カンフウ:めまい動揺感痙攣)の原因になります。

 釣藤鈎は、肝陽上亢内風を鎮めます。

4.抑肝散の関連方剤

(ヨクカンサンカチンピハンゲ)は、抑肝散化痰薬(ケタンヤク)の陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加えた方剤です(図4)。抑肝散の適応病態に吐き気胃もたれ膨満感などの痰飲(タンイン)症状が加わった病態に適します。

(チョウトウサン)も釣藤鈎を含む熄風剤です。陳皮半夏を含む理気化痰剤二陳湯(ニチントウ)を含みます(図4)。

 釣藤散は、気滞肝陽上亢痰飲によるのぼせ午前中の頭痛めまい、眼の奥の痛みを軽減します。高血圧傾向、気むずかしい中高年に用いられます。倦怠感や食欲不振のある時にも適します。緊張型頭痛を参照してください。

 釣藤散抑肝散は、認知症(5)でも比較しています。

(カミショウヨウサン)は、抑肝散と同様に自律神経失調症の不定愁訴に用いられる柴胡を含む理気剤です。さらに、いらだちを鎮める山梔子(サンシシ)と血行を整える牡丹皮(ボタンピ)を含む理気降気活血剤です。

 両方剤の特徴を図5にまとめました。不眠(2)も参照してください。

 ・加味逍遙散は、冷えのぼせなど愁訴が多彩で主訴が変化する病態に用いられます。のぼせ抑肝散より顕著で感情的です。

 ・抑肝散神経の昂ぶり怒り興奮不眠加味逍遙散より顕著です。

5.抑肝散の応用展開

 抑肝散四逆散(シギャクサン)と併用されることがあります。これは煎剤療法の抑肝散加芍薬の経験を再現する試みです。

 芍薬を加味するために四逆散との併用を推奨するのは、芍薬甘草湯を併用すれば甘草の重複量が多くなり副作用発現の危険性が高まるためです。

ちょっと一言:(トピックス)

抑肝散の子母同服(シボドウフク)

 子母同服は、患児の治療薬を母にも同時に服用させることです。
 イラストのように母親のいらだちが子どもの疳の虫の誘因になります。
 子母同服は、患児と母親の「こころ」を同時に和らげるための臨床上の工夫です。

 なお、同服は、同じ方剤でなくても、異なる方剤を同時に服用させる場合もあります。

(2022年8月30日 改訂公開)


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