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あーだ、こうだの爽快!植物学

お屠蘇って何?何で飲むの? ~お父さんのお楚楚じゃありません~

お正月にお屠蘇を飲まれましたか?

 そもそもお屠蘇とは、何故、正月に飲むのでしょうか。
お屠蘇

 お屠蘇とは、「屠蘇散」あるいは「屠蘇白散」といい、実は、れっきとした漢方処方なのです。

 中国の三国時代(魏,約1700年前)の名医「華佗」の作で、811年(弘仁2年)に、唐から博士「蘇命」が来朝し、「屠蘇白散」という薬を嵯峨天皇に献上して以来、天皇が元日から三日間、お神酒に浸して用いたのが始まりと言われています。


屠蘇という名は、
お屠蘇

  • 「鬼気を屠絶し、人の魂を蘇生す」
  • 「蘇とは魏鬼の名、この薬が鬼を成敗した」
  • 「屠蘇という名の草庵の住人が、里人の健康を守るため除夜ごとに薬を配って元旦に服用させた」

ことに由来するとか言われますが、「屠」とは一年中の邪気を払い、「蘇」とは病を避け、長寿延命や無病息災を願うことです。

 「一年の計は元旦にあり」で、お屠蘇は新年の大事な行事です。正月の三が日は衣装を正して東方を拝み、「一人これを呑めば一家病無く、一家これを呑めば一里病無し」と唱えながら、年少者から飲むのがしきたりとされますが、中国では年配者から飲むと言われています。

お屠蘇

 江戸時代には幕府や民間でも、お屠蘇を飲むようになりました。一般的には、紅色の三角の布袋に入れ、井戸の中の水毒を防ぐために、除夜から井戸の中に吊るし、元日の朝にお神酒(清酒、味醂)に浸けます。雑煮を家族が頂く前に飲み、新年を祝すのが仕来たりで、松の内が過ぎるとその残り粕は井戸の中に投じられます。しかし今は井戸が少なくなり寂しい感がします。

 また、江戸時代には、門外不出の家伝秘法の屠蘇散が記されています。
現在の屠蘇には決して入っていない「細辛」(サイシン;ウスバサイシンの根茎)・「大黄」(ダイオウ;カラダイオウの根茎)・「烏頭」(ウズ;トリカブトの塊茎)など、作用の強い生薬が入れられた処方もあったらしく、そのため時には事故もあり、

「加藤佐渡守の包丁、常に少し医薬を好みしが、古方の屠蘇を製して天明三年正月二日、その屠蘇酒を温めて同役と呑みしが、暫時にして舌縮みて、腹腸苦痛悶絶して両人とも死せり、彼の屠蘇方書を見しに、烏頭あり、烏頭の毒に中り(あたり)しにやと同家のものの談なりき、本草綱目中の屠蘇に烏頭入りたり、怖れるべきことなり」

と安斉随筆に記されています。


 現在の一般的な屠蘇散は「延寿屠蘇散」といわれ、

  • 白朮(びゃくじゅつ)」(キク科 オケラの根茎:健胃、利尿)
  • 桔梗」(キキョウ科 キキョウの根:鎮咳、去痰、排膿)
  • 山椒」(ミカン科 サンショウの果皮:健胃(香辛料)、駆虫、殺菌)
  • 防風」(中国産 セリ科 トウスケボウフウの根:解熱、解毒。日本に自生する浜防風が代用)
  • 桂皮(肉桂)」(中国産 クスノキ科 シナニッケイの樹皮:健胃(香辛料)、発汗、解熱)
  • 陳皮」(ミカン科 ウンシュウミカンの果皮:健胃)
  • 丁字」(インドネシア産 フトモモ科 チョウジの蕾み:健胃(香辛料)、駆虫、殺菌)

から構成されています。

屠蘇

いずれの処方も香気生薬や健胃作用を持つ生薬で、配合香気で邪気を払い(祈祷,呪術)、脾胃に作用して食欲を増し、気を巡らせることを目的としています。

 京都、八坂神社の大晦日の「オケラ火」も香リによる厄払いなのです。どちらかと言えば、治療を目的とした処方でなく、予防薬的な効果を期待したものです。


 江戸時代の庶民生活における屠蘇散に纏わる面白い川柳がたくさんあります。江戸の庶民の屠蘇散は、医者から御歳暮代わりに貰っていた様で、「歳暮には酒で用いるのを呉れる」とあります。

 これは医者への治療費は薬札と称し、盆と暮のニ期に支払うふうであり、しかも医者の方から請求すべきものではなかったために、支払いを済ませると医師から「来年は元気でいろよ」と言うことで、領収書代わりに屠蘇を渡していたようです。支払いに来ないと「いけずるいやつに一ぷく屠蘇をくれ」とあり、領収書代わりの屠蘇を先に渡して、薬札を催促することを諷しています。

 この他、払いに行かずに「呑み逃げをして薬種屋で屠蘇を買い」、“ただ飲み”しようものなら「呑み逃げを生薬屋へも言い聞かせ」と、薬種屋にまで手をまわして屠蘇を買うことを不可能にし、お正月気分を台無しにしてやろうと医者が頑張っている様子も伺えます。

ただ、我々が願うのは、「薬種屋で屠蘇を買うのは無病なり」でありましょう。

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