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御影雅幸先生の漢方あれこれ

生薬の品質

~経験に裏打ちされた漢方医療~

 一般的には、クスリの品質とは薬効の強弱であると考えられます。しかし、生薬の品質となるとそう単純なものではありません。

 「生薬」(しょうやく)とは天然に産する物質で、そのままかあるいは簡単な加工を施して、病気の予防や治療に用いられるものを言います。しかし、天産品であるがゆえに、その性質は化学的に製造された医薬品と違い、品質にばらつきがあります。例えば、同じ銘柄米でも産地やその年の天候によっておいしさが違うように、生薬も採取した土地やその年の天候によって品質に差が出てきます。

 また、同じ植物でも葉、茎、根など、部位によっても薬効が異なります。この他にも新旧や採集後の加工調製方法の違いなど、漢方生薬の品質は様々な要因で変化します。これらの品質の違いを、古来、人々は色や香りなど、五感によって生薬の品質評価を行なってきました。

表:ヤマトシャクヤクの加工調整方法毎の含有成分量等の比較
調製方法 乾燥減量
(%)
灰分
(%)
酸不溶性
灰分(%)
ペオニフロリン(%) アルピフロリン(%) タンニン
(%)
皮付き 湯通し無 天日 10.2 5.4 0.07 2.67 0.74 2.20
温風 9.9 5.1 0.07 2.77 0.47 2.05
皮去り 湯通し無 天日 9.4 5.3 0.02 2.16 0.19 1.14
温風 9.0 4.6 0.02 2.48 0.10 0.93

調製方法 乾燥減量
(%)
灰分
(%)
酸不溶性
灰分(%)
ペオニフロリン(%) アルピフロリン(%) タンニン
(%)
皮去り 湯通し有 温風 9.1 4.6 0.01 1.60 0.16 0.88
湯通し無 10.1 5.6 0.01 2.38 0.41 1.44

芍薬[シャクヤク]
芍薬
左:皮去り後温風乾燥
右:皮去り湯通し後温風乾燥

野口衛他 第18回和歌山県公衆衛生学会 講演要旨(1998.10.11)より引用
 食べ物の品質がカロリーだけで計れないのと同様、生薬の品質もある種の成分の多い少ないだけでは計ることができないのです。生薬の品質は最終的には薬用効果の強弱にあるはずですが、多くの生薬においてその有効成分が未だ科学的に解明されていません。生薬の品質評価に関しては、当分はまだ五感に頼る時代が続きそうです。とは言え、経験に裏打ちされたその手法が、これまでの漢方医療を堅持してきたことはまぎれもない事実です。

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