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御影雅幸先生の漢方あれこれ

明代の名医李時珍(2)

『本草綱目』

 中国の明の時代,医師になることを決意した李時珍は熱心に学んでみるみる腕を上げ,20歳代後半には名医と呼ばれるようになり,遠方からも患者がやってきたと伝えられています。34歳の時にはいよいよ宮廷からも請われて都に上りますが,同僚の保身的な治療に嫌気がさして1年余りで辞退してふるさとに戻ります。帰り道には遠回りをして患者を診ながらの旅をします。貧しい人には無料で診察する代わりに,その地方の民間療法(単方)を教えてもらいました。裕福な人には蔵に眠っている医書などを見せてもらいました。

 こうして自らの足で稼いだ知識をもとに,20数年を費やして『本草綱目(ほんぞうこうもく)』という全52巻に及ぶ膨大な薬物書を完成させました。

 薬物を自然分類により16の部(綱)と60の類(目)に分けたことから書物のタイトルが付けられました。本草とは中国では生薬を意味します。従来の本草書では,過去の文献をそのまま記載した後に自注を書き加える方法がとられていたのに対し,李時珍は自ら各地を見聞して得た知識と鋭い自然観察力によって,先人の記載内容の追加,削除,訂正を行ないました。このことに対しては賛否両論がありますが,書き替えられた部分を読み解けば明代の生薬事情を知る上で非常に役に立ちます。

 本書は出版後すぐに日本にも伝えられ,強く影響を及ぼしました。日本でも何度も印刷されており,全訳本もあります。

 現代中国でも,薬学系の大学や生薬関係企業には必ず李時珍の像があるほどその業績は高く評価されています。

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