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キノコと抗癌作用

キノコと抗癌作用
ここではアガリクスを中心にキノコ由来の抗ガン剤について説明します。 
 

 マツタケやシイタケなどの菌類は、胞子を散布するための生殖器官として子実体を形成します。

 この子実体のことを一般にキノコと呼んでおり、大部分の担子菌類のほかに、子のう菌と不完全菌の一部が含まれます。通常は菌糸体と言われるカビのように菌糸を伸ばした状態で生息しています。菌糸体の状態から一定の条件になると子実体を形成するようになり、キノコとして私達の目にとまるようになります。

 最近、アガリクスをはじめとして、種々のキノコ類が抗ガン作用を期待した健康食品として市販されています。

ここではアガリクスを中心にキノコ由来の抗ガン剤について説明します。


アガリクスとは

 アガリクスは、アメリカ南部からブラジルにかけて分布する、ハラタケ科(Agaricaceae)のAgaricus blazei MURILLの子実体または培養菌糸体から調製される健康食品素材の通称です。ヒメマツタケ、カワリハラタケの別名もあり、食用とされるマッシュルーム(シャンピニオン)に近縁のキノコです。

 1960年代にブラジルに自生していたものの胞子が日本に持ち込まれ、栽培化されました。歯ごたえはよいが美味とは言えず、日持ちも悪いため、食材として市場に出ることはありませんでした。その後、健康補助食品の素材として生産されており、キノコ関連健康食品の中では最も知名度が高く、年間200~300億円の市場を形成していると言われています。

 アガリクスの用途としては、ほとんどが抗がん関連の効果免疫力強化の目的で用いられます。その品質としては、子実体は路地栽培されたものもあるが、多くは菌床栽培品です。また、菌糸体については、タンク培養されたものが多く流通しております。

アガリクスの含有成分

 アガリクスの含有成分としては、子実体から多糖類としてFlo-a-β[分子量50万、β-(1→6)分岐を持つβ-(1→3)-D-グルカン]、FA-a-α(分子量200万、酸性ヘテログルカン)、FA-a-β(分子量200万、酸性ヘテログルカン)、FⅢ-2-b[分子量1~5万、β(1→6)-D-グルカン-タンパク質複合体]、FⅣ-2-b(分子量1~5万、ヘテログルカン-タンパク質複合体)、AB-P(グルカン-夕ンパク質複合体)が分離されています。

 菌糸体の多糖類としては、ATOM(分子量10~1,000万、グルコマンナン-タンパク質複合体)、 菌糸体培養ろ液の多糖類としては、AB-FP(分子量10~1,000万、マンナン-タンパク質複合体)が分離されています。

 また、RNA-糖-タンパク質複合体のFA-2-b-β(分子量1万)やレクチンNA-aff-ABLA-aff-ABL(分子量64,000、糖タンパク質)のほかにエルゴステロール誘導体 1) およびブラゼイスピラン、プロトブラゼイスピラン誘導体のblazeispirol A、XおよびYが単離されそれぞれ構造が決定されています(図1)。2)

blazeispinol類の化学構造

薬効について

 アガリクスの多糖類や核酸複合体は、腹腔内投与または経口投与でSarcomal80マウスに顕著な宿主介在性抗腫瘍効果を示すと言われております。しかし、アガリクスの抗腫場活性の知見は、いずれも公開特許公報で述べられているにすぎず、臨床治験の報告も十分でないように思われます。

 アガリクスについては、「レーガン元大統領が治療に使った」とか「がんの特効薬」などと喧伝されており、抗がん作用のイメージが先行した健康食品ともいえます。今後の詳細な抗腫蕩活性に関する学術論文や臨床治験成績が報告されることを期待したいと思います。


 元来、シイタケ、エノキダケなどの食用キノコ類は、伝統医学において薬用とされることはなく、さしたる薬効も伝承されておりません。1960年代になって、キノコ類に抗腫瘍作用のあることが国立がんセンターなどから報告されました。 3)

 すなわち、マウスの腹部にSarcomal80固形癌細胞を移植し、24時間後からキノコ類の熱水抽出エキスを10日間にわたり腹腔内投与(200mg/㎏)します。移植後1週間ごとに腫瘍の大きさを測定し、5週間後に腫瘍を摘出して重量を無処理の対照群と比較して抑制率を明らかにした結果、表1に示すようにメシマコブなどの薬用菌類をはじめ、シイタケ、エノキダケ、ナメコなどの食用キノコにも顕著な抗腫瘍効果があることが明らかになっています。3)

表1)各種キノコの水抽出エキスのSarcoma 180に対する抗腫瘍活性

和名

腫瘍の完全退縮

平均腫瘍重量

腫瘍阻止率

試料

対照群

試料

対照群

(%)

コフキサルノコシカケ

5/10

0/10

2.4

6.9

64.9

カワラタケ

4/8

0/7

1.5

6.4

77.5

アラゲカワラタケ

2/10

0/9

4.0

11.5

65.0

オオチリメンタケ

1/10

0/10

5.0

9.8

49.2

カイガラタケ

0/8

0/8

10.6

13.9

23.9

チャカイガラタケ

4/7

0/8

4.1

13.9

70.2

ベッコウタケ

3/10

0/10

5.2

9.4

44.2

オオシロタケ

0/7

0/5

3.3

5.9

44.8

ウスバシハイタケ

1/10

0/10

5.4

9.8

45.5

メシマコブ

7/8

0/8

0.2

6.8

96.7

シイタケ

6/10

0/10

2.2

11.4

80.7

エノキタケ

3/10

0/10

2.1

11.4

81.1

ヒラタケ

5/10

0/10

2.3

9.4

75.3

カンタケ

0/8

0/9

2.3

8.3

72.3

ナメコ

3/10

0/10

1.4

10.4

86.5

マツタケ

5/9

0/9

0.76

9.3

91.8

キクラゲ

0/9

0/9

4.9

8.3

42.6

(文献論文3からの抜粋)

 その後、これらの菌類から抗腫瘍活性成分として多糖体類が分離されております。

 今日、抗癌剤として用いられているキノコ由来の医薬品としては、次の3種が知られておりますが、いずれも当初認可されていた単独使用での抗癌効果はないことが判明し、他の抗癌剤との併用時の効果のみ認められています。

lentinanの化学構造レンチナン(lentinan)
 マツタケ科シイタケの食用部分である子実体を熱水抽出して得られる高分子glucan(D-glucoseから成る多糖体)で図2に示す構造を有する。
 生体防御機構の賦活により、抗腫瘍活性を発現するとされ、胃、大腸癌に対して化学療法剤との併用で有効。手術不能または再発胃癌患者に対するテガフール経口投与との併用による生存期間の延長が認められている。4)

シゾフィラン(sizofiran)
 シメジ科スエヒロタケの菌糸体が培養濾液中に産生する分子量45万程度の多糖体で、3個のβ-(1→3)-D-glucopyranosyl部分に1個のβ-(1→6)-D-glucopyranosyl部分が結合した4糖の繰り返し構造を有する。
 子宮頸癌における放射線療法の直接効果を増強する作用があり、肺癌への適用拡大が進められている。5)

PS-K(クレスチン)
 サルノコシカケ科カワラタケの菌糸体から得られβ-1,4-D-glucanが主体の多糖体で、 蛋白質と結合して存在する(糖蛋白)。
 消化器癌、肺癌、乳癌に適用され、胃癌、結腸および直腸癌患者における化学療法との併用による生存期間の延長と小細胞肺癌における化学療法との併用による奏効期間の延長が認められている。

 文献
  • 1) H.Kawagishi et al.,Phytochemistry, 27,2777 (1988).
  • 2) M..Hirotani et al.,Tetrahedron Lett., 40,329 (1999), 41,5107 (2000).
  • 3) 前田幸子 他,蛋白質,核酸,酵素 ,21,425 (1976).
  • 4) G.Chihara,Int.J.Tissue Res., 4,207 (1982).
  • 5) K.Okamura et.al.,Cancer, 58,865 (1986).

アーユル・ヴェーター医学 ア-ユル・ヴェ-ダは「生命の科学」とか「寿命の学問」と和訳されています。
キノコと抗癌作用 アガリクスを中心にキノコ由来の抗ガン剤について説明します。

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