慢性炎症性疾患で寛解と増悪を繰り返し、日常生活が障害されることにより生活の質(QOL)が低下することが問題視されます。
最近では、腸内フローラ(腸内細菌叢の乱れ)や腸管バリアの障害(腸もれ、リーキーガットとも呼ばれる)とアトピー性皮膚炎を含む慢性皮膚疾患、全身性炎症性疾患との関係も指摘されるようになり、皮膚を健康に保つためのプレおよびプロバイオティクスを使った研究も盛んに行われています。
今回の患者様は、幼少期からアトピー体質で、長年抗アレルギー薬やステロイド薬を使用されていました。しかしなかなか改善せず、クリニックで生物学的製剤の使用を勧められ、その前に漢方薬をまず試してみたいとご来店されました。
その治療開始から寛解に至るまでの経過と考察を記したいと思います。
相談担当/執筆:入多先生
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経過
患者
40代女性 身長163cm 体重53.0㎏ BMI 19.95
初来店時
主訴
アトピー性皮膚炎、蕁麻疹
症候
現在:
・痒みがひどく、透明の分泌液が出ることもある
・皮膚乾燥。寝ていてかきむしり、出血することも
・耳など皮がむけているところもある
平素
・幼少期よりアトピー体質で、ここ2,3年で症状が悪化した
その他
・夏、春秋とリラックス時、入浴後に症状が悪化する傾向にある
・緊張時はかゆみを忘れる
・ブタクサ、スギにアレルギー
・口渇、咽喉乾燥あり 水分摂取:1日1000mlほど(ホットコーヒー、ルイボスティー、麦茶)
・便通:2、3回/日
・尿:4、5回/日
・精神:イライラ
・睡眠:寝つきが悪い、夜間覚醒
・冷え:足
・持病:子宮筋腫
・体質:アトピー体質
・家族歴:ガン(母、姉、祖母)
評価
・脈中、実大4/5弦4/5
・心下痞鞕、胸脇苦満はない
・小腹不仁
・舌質中、鮮紅色、歯痕あり
・苔中、薄白黄
体質
・地黄-石膏
・柴胡(腺病質)
漢方薬
・煎じ薬:消風散、十味敗毒湯
2回目
・全身のかゆみ落ち着いてきたので、睡眠が良くなってきた
・頭皮は乾燥してかゆいが、改善もしてきている
・足に小さな水疱ができたが、1週間ほどで改善
・肛門部、外陰部にかゆみ。少し改善してきたが、まだある
・コレクチム、ステロイド軟膏を一時的に使用。タクロリムスは顔に使用中
・一時的に便が緩くなり、体重が1㎏減少した
・子宮筋腫は5cmくらいと細長く痛みは皆無、経過観察中
・生理量は減少してきている
漢方薬
煎じ薬:消風散、十味敗毒湯
3回目
・全体的に痒みが減ったが、寝ている時はまだ手を掻いている
・服用後に皮が剥ける様子は今のところない
・肛門部の痒みも少し減少、外陰部はまだ痒い
・乾燥した頭皮が少し潤ってきた
・ヒルドイドやボディクリームはしっかり使用
・生理痛が以前より軽快している
漢方薬
顆粒剤:荊芥連翹湯、温清飲
4回目
・皮膚科に行くとディピクセント皮下注射を勧められたが8万円するし完治するかわからないので躊躇しているそう
・生理が明らかに軽くなり、バファリンも不要だったこともあり漢方薬の効果を実感できているとのこと
漢方薬
顆粒剤:荊芥連翹湯、温清飲
5回目
・左額、頭皮などにまだ乾燥がみられるものの、痒みはほぼなし
・陰部も同様に乾燥はあるが、痒みなし
・皮膚科で勧められたディピクセント注射は使用せず
漢方薬
顆粒剤:当帰飲子
⇒体調が落ち着いているため、そのまま漢方治療卒業
考察
1、2回目
・かゆみが強く、透明の分泌液が出てジュクジュクして皮膚は乾燥傾向にある
・気温上昇時、体温上昇時、リラックス時に症状悪化する
・睡眠の質が良くなく、イライラしがち
→これらの症状から地黄-柴胡体質であると考えられ、また、かゆみが強く、口渇もあることから石膏証が出ている様子でした。
まずは清熱、解毒を優先した方がよいと判断し、消風散と十味敗毒湯を選択。
3、4回目
・強いかゆみは減少が、外陰部などにはまだかゆみがある
・もともとアトピー体質で頭皮などが乾燥気味
→このフィードバックから、石膏証は消失したと判断しました。
ここからは慢性炎症改善を目的として荊芥連翹湯と温清飲に変更。
5回目
・頭皮や外陰部のかゆみはほぼなく、乾燥のみ
→炎症は徐々に改善していると判断し、補血、活血をメインに当帰飲子のみで様子見することに。
総評
先述したように、アトピー性皮膚炎は、アトピー素因、あるいは皮膚バリアの機能低下など多くの要因があった上で、アレルギー性・非アレルギー性の炎症症状がおこる皮膚炎や湿疹であり、慢性化して増悪や寛解を繰り返すことが特徴です。
漢方治療としては、今現在現れている症候はもちろん、その患者さんの体質をよく観察・分析し、最も体に合っていると考えられる漢方薬・生薬を選択していきます。
この症例では、約4ヶ月間の漢方薬の服用で皮膚の痒み、乾燥などの症状がほぼ寛解しました。
それに伴い、病院で勧められていた生物学的製剤の使用には至りませんでした。また、かゆみが落ち着いたことで、睡眠の質も向上し、QOLの上昇に繋がりました。
漢方を頑張って続けたことと、肌を刺激すると考えられる食事を自主的に控えていたことが長年お悩みだった症状の早期改善に一役買ったのだと思われます。
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【参考資料】
漢方求真 許志泉著 桐書房 pp.77, 78, 153, 177.
漢方診療医典 第5版 pp.311
病気がみえる vol.14 皮膚科(第1版) アトピー性皮膚炎
MSDマニュアル プロフェッショナル版 アトピー性皮膚炎(湿疹)
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Britta De Pessemier et. Al. Gut-Skin Axis: Current Knowledge of the Interrelationship between Microbial Dysbiosis and Skin Conditions. Microorganisms 2021, 9, 353