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温かさが増して、体の働きが盛んになることは、
漢方では陽気が高まるとして解釈されます。
陽気はイメージの上だと、気がぐるぐると回転した状態
(及びその回転が速くなっていく様子)を連想させます。

回転している存在は、さまざまな力に縛られています。
ぐるぐると回転する運動には、慣性が働きますから直ぐには止まりません。
また回転した板の上に、モノを乗せると外に飛んでいくように、
回転する存在には、その回転から弾かれる力(≒遠心力)が発生します。
直ぐに止まれない。けれど、その場にも止まれず、弾かれてしまう。
陽気は、盛んになり過ぎるほどに、そうした傾向が強くなります。

人の体において、盛んになっていく陽気にも同様のことが言えますが
体は脇を固めることでそれに対応しようとします。
脇を固めるとは、遠心力で飛ばされるのを防ぐ
=その場に固定しやすくするとでも考えて頂ければ。

脇を固める事には、メリットと共にデメリットが発生します。
遠心力で飛ばされないということは
より速い回転に耐えられるということでもあります。
それは人の体にはあっては、陽気の増長をますます招くリスクを伴います。

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陽気は、気温の上昇に限らず、ストレスの影響によっても高まります。
無論、暑さにストレスを感じると、脇が固まっていく訳ですが、
ポイントは、暑さのみでは脇は固まらないのに対して、
ストレスの存在だけでも脇は固まってしまう点。
ストレスで体が緊張する(=強張る)したり、イライラしやすくなることは、
まさしく脇が固まることを指しているのだと思います。

「脇を固め過ぎた時」に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
心身の強い緊張(ときにストレスによる)を改善する漢方薬を意味します。
それには例えば、柴胡疎肝湯や大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、
あるいは小建中湯、抑肝散加芍薬黄連などに一服の価値があります。


季節外れの暑さを感じるかと思えば、暑さはまた鳴りを潜め、
あれやあれやと夜には肌寒さを感じるようになりました。
ここの最近の、暑さの変動には目を見張るものがあります。

暑い日が続くと、体の気血の巡りは盛んになり、
暑さに応じた体調になっていきます。
体が暑さを覚える、暑さに慣れるとはこの事を言うのだと思います。
けれどその狭間で、ふいに暑さが静まると、
盛んになった気血は行き場を失い、迷走します。

「暑くないのだから、引っ込んでおれ!」とはなりません。
自律神経による、ある程度のコントロールは可能でしょうが、
今まで暑さに応じた神経を、突然の肌寒さに対応させるというのは、
日本の公道運転に慣れている人間が、
アメリカ式の公道運転の訓練の最中に、
「すまんが今日は、日本式で走ってくれ!」と催促されるような話です。
そこで混乱が起きるのは当然ですが、今までの
癖のようなものが出現する点にも、注意が必要です。

それまでの気血の状態を引きずってしまう。
季節の変わり目にかぜを引きやすくなるというのは、
何となくわかる、経験があると思いますが、その多くは
温かさの急落(温かさの狭間の肌寒さ)に伴うものだと考えられます。
「温かさに慣れた一種のデメリット」とでも言いましょうか?

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漢方では、春は「陽長陰消の過渡期」と言われますが、
煽(おだ)てられた陽の勢いは、急には止みません。
そんな「陽」の手綱を握るのは・・・、
「陽中の陰」と称される肺か、はたまた「陰中の陽」の肝か。
イメージの話ですが、エンジンの回転数が上がっていく自動車を制御するのに、
トラクションを増やす、ダウンフォースを稼ぐというテクニックがあるように、
回転数が上がる陽の勢いにも、同じことが言えるのではないでしょうか?

「暑さの狭間の肌寒さ」に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
温かさ・暑さで盛んになっていく気血の巡りの脇を固める漢方薬を意味します。
それには例えば、桂枝加黄耆湯や防已黄耆湯、苓桂朮甘湯、
あるいは柴胡桂枝湯や逍遙散などに一服の価値があるかと思います。

本来の温かさを超える形で気温が上昇して、急に暑さを感じるようになりました。
日差しが強いと体も汗っぽくなり、それが気だるさに及びます。

漢方では、汗は心の液と言います。
暑さを感じるようになり、汗っぽくなるということは、
「心」が張り切って稼動して(=心の気を費やして)、
その「液」を生産すると解釈できる訳ですが、
その一方で、心の働きは「陽」を象徴したものでもあり、
心が張り切れば、心陽も盛んになっていきます。
逆に考えると、心陽が盛んになった分だけ、
よりたくさんの心気を費やすとも解釈できる訳です。

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暑さに体が追いつかない。まだ暑さに慣れていない。
それは心が間に合っていない
(=まさしく、心の準備ができていない)状態の現れだと思います。
漢方的な視点では、それは単なる精神論ではなく、
心気の充実が不十分で、日々盛んになっていく心陽に対応できない状態を意味します。
充実が不十分とは即ち、未熟なことでもありますが、
それには「一度にたくさんの汗をかくこと」への未熟(陽虚)と、
「続けて汗をかくこと」への未熟という(陰虚)の両面が存在します。

5月の汗っぽさに服んでおきたい漢方薬とは即ち、
心の気を充実させて、消耗を穏やかにする漢方薬を意味します。
それには例えば、補中益気湯や清暑益気湯、桂枝加黄耆湯や桂枝加芍薬湯、
あるいは生脈散や六神丸などに一服の価値があります。

めまいを漢字で書くと「目眩」。
目が眩(くら)むことに相当する訳ですが、
それは目そのものが眩む訳ではなく、
目に及ぶ感覚(位置感覚・平衡感覚)が眩む(≒惑う)ことに表現しています。
漢方では、「目は肝に属する」と考えますから、
目が眩むとは即ち、肝が惑うとも言える訳です。

春先の気温・気圧の急激な変動。それに伴う自律神経の変化。
もしくはそれを招くストレス障害など。
これらの要素が影響して、春先のめまいに及ぶケースが存在しますが、
そういった要素は同時に、肝を惑わす存在としても位置づけることができます。
またそれ以外の「頭位発作性」とか「内リンパ水腫」など、
めまいに及ぶ西洋医学的要因も、肝の惑いに影響を及ぼします。

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こういう形で説明すると、「肝が惑う」というのを、
何か物凄く悪い、マイナスな事に感じるかもしれませんが、決してその通りではありません。
どちらかと言えば、「緊張して鼓動が早くなる」ぐらい、身近な現象です。
むしろ問題は、それが及ぶ「頻度」と「程度」。
ひどく簡単に肝が惑うような状態。あるいは、ひどく盛んに肝が惑うような状態。
そういうものを背景に、めまいが病的な症状となって出現する訳です。

漢方では「肝は惑い過ぎると、内風を及ぼす」と言われます。
現代医学的には、内風は機能的な失調、感覚的な障害に推察されます。
また一方で、自然界の風が大気に影響を及ぼすように、
内風が体内の気の巡りに影響を及ぼす点にも、注意が必要です。
(体内の気が安定していないと、少しの内風にも抗えませんから)

春のめまいに服んでおきたい漢方薬とは即ち、
肝が惑うのを防ぎつつ、内風を解消する漢方薬を意味します。
それには例えば、釣藤散、抑肝散加陳皮半夏、七物降下湯、
あるいは半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、芎帰調血飲第一加減などに一服の価値があります。


気管・呼吸器官が弱い。
喉がデリケートで、不調が現れやすい。

喉とか気管の「強さ」を表すパラメーターが存在したとして、
その値が低い様を「喉が弱い」と解釈する場合もあれば、
その値が定らず、勝手にコロコロ変わる様も「喉が弱い」と解釈されます。
「喉が弱い」と一口に言いつつも、機能が弱いのか、
それとも機能が整わない(≒乱れやすい)のかで、その性質は異なります。

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機能の強さ・弱さを表すものとして、漢方には虚・実という尺度があります。
簡単に言うと、喉が弱いとは「喉が虚した状態」と見立てられます。
「虚」というのは、特定の性質が不自然に衰えた状態を表しています。
(衰えるからといって、年を重ねる=衰える=虚という訳ではありません)
また、このタイプの喉の弱さは、不快感とか違和感とか、
喉が正常に機能しないことによる不調を伴うケースが多くなります。

その一方で、機能の安定さ・不安定さを表すものとして、陰・陽という尺度があります。
簡単に言うと、喉が弱いとは「喉が陽した状態」と見立てられます。
「陽」というのは、特定の反応が不自然に盛んな状態を表しています。
このタイプの喉の弱さは、乾燥に弱いとか寒さに弱いなど、
特定の事象・行為に対して、不調を伴うケースが多くなります。
季節の変わり目になると「喉の弱さ」を感じるとか、
花粉や微粒子で「喉の敏感さ」を感じるのも、こちらのタイプが多いと思います。

以上のように、「喉が弱い」というのは漢方的に「虚」とか「陽」で表現される訳ですが、
漢方では「虚」は「陰」と、「陽」は「実」と結びつきやすい一面を持っています。
その為、「喉の弱さ」において虚と陽が合わさる事は、
それこそが厄介な様相(≒病気)で、互いの増長・増悪を招きます。
その影響は、症状の激化や、回復の遅延、
慢性的な継続に及ぶ場合が多く、適切な対処が必要になります。

「喉が弱い?」に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
喉の「虚」を補い、「陽」を鎮める漢方薬を意味します。
それには例えば、補中益気湯や玉屏風散、小柴胡湯や柴胡桂枝乾姜湯
あるいは柴胡清肝湯や響声破笛丸料などに一服の価値があります。



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