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明治の漢方医、浅田宗伯が記した古方薬議の中で、
薬用人参の薬能は次のように記されています。

味甘温、微苦。渇を止め、津液を生じ、能く諸薬の力を達する。

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渇とは文字通り「渇き」のことで、喉の渇きや皮膚の乾燥を指します。
最近ではドライマウスやドライアイのように、「ドライ何某」と呼ばれますが、
この 渇き に対しても薬用人参は用いられ、
白虎加人参湯や小柴胡湯、生脈散等の方剤に含まれています。

漢方では、身体の渇きは 津液不足 によっておこるとされています。
津液は体液のこと。この津液は身体の活動を通じて作られるのが基本です。
その逆に、身体の機能が乱れたり衰えたりして、
津液が安定的に作られなくなる(分泌されなくなる)と、身体は渇きを訴えます。

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例えば、緊張すると喉が渇く。あるいは口が苦く感じる。
之は、腎の液である「唾」が滞っている状態。
また手の平には汗びっしょり。
之は、心の液である「汗」が溢れている状態。
あるいは下痢が起こりやすくなる。
之は、脾の液である「涎」が溢れた状態。


①体調が乱れるとき、その裏では②内臓の機能が乱れる。
そのとき同時に③内臓がもたらす体液も乱れるというのが、漢方の考え方です。
そして人参は、身体の機能を整えることによって、体液の分泌を整えていきます。

また体液の材料は、飲食物を材料にしてお腹(脾)で作られ、
それを分配するのも脾の働き(=脾気)の一部です。
この働きがおろそかになると、渇きとは正反対に 津液の停滞(痰湿)を招きます。
痰湿というのはやっかいな存在で、停滞したり痞ええたりして、
単純なむくみとは異なり、尿としてあまり排出されません。
そして、お腹で痞えると食欲不振や消化不良、胃痛や胃炎を招き、
呼吸器官で痞えるとアレルギー性鼻炎や気管支喘息をもたらします。

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薬用人参をお勧めする理由(4)リンク でも話しましたが、
人参は脾の働きを高める(脾気を補う)働きがあり、同時に痰湿も解消していきます。
「渇」にも「痰」にも等しく用いられる。
之もまた、薬用人参の秀でた薬能と言えるでしょう。

5月としては比較的暑い日々が続きますが、
薬用人参はその 暑さ にもお勧めです。
実際、夏バテ・暑気あたりに用いられる漢方方剤、
清暑益気湯や生脈散にも人参は含まれます。

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漢方の古典「医学六要」には
夏月には病むことがなくても、只だ宜しく補剤を服すべし。
陽気は悉(ことごと)く外に発するに以り、からだの内が虚する也

と記されています。

陽気にはいろいろな解釈がありますが、ここでは 活発さ が適しているかと。
すなわち暑い時期の身体は活動が活発ですが、同時に活発だからこそ消耗が激しく、
その消耗は身体の消耗、身体機能の消耗、そして気の消耗へと通じていきます。

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例えば、暑さが激しくなると身体は汗をかきますが、汗をかくことは脱力感も伴います。
汗は体液が転じたものですが、之をかく(=発汗する)のは身体の機能。
そして身体の機能が活発になるときは、裏では気(=エネルギ)も消耗しやすく、
(ちなみに、汗をかくときに消耗するのは心気)、
それに対して、人参の出番という訳です。


人参は夏の暑い時期に用いれば、
活発な陽気(=身体活動)の裏で消耗していく気を補います。
ですが一方で、冬の寒い時期に用いると、気を養い、寒さで弱まる陽気を高めます。
そのようにして、かたや虚損を防ぎ、かたや拡充を図るのが人参の働きです。

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ちなみに東洋思想には
陰が極まれば陽に変ず、すなわち陰中の陽。
陽が極まれば陰に変ず、すなわち陽中の陰。

という考えがあります。
当然に東洋医学も、この考え方を継承しており、
活発さにあって消耗していくことはその陽中の陰に、
低調さにあって盛んになることは陰中の陽に当たります。
そして人参はそんな「陽中の陰」と「陰中の陽」を支えるという面からも、
とても重要な働きを持っています。

身体に良いというイメージが強い薬用人参ですが、この生薬は用いる人を選びます。
誰にでも同じように作用するわけではありません。

前回の薬用人参をお勧めする理由(7)リンク で触れましたが
人の身体は気を益す事で、上向きの力が働きます。
この上向きの力というのは、「身体が軽く感じる」というだけに限りません。
身体の軽さと同様に体感しやすいのが、身体の温かさ
あるいは、寝起きの爽快さ低血圧の改善など。

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眠っていたものが起き上がる。血圧が正常に上がる。
確かに、どちらにも 上がる ということが共通しています。
この上向きにかかる力を増進するのが、気を補う薬用人参の働きです。

その一方で、薬用人参はときに高血圧の人に不向きとされます。
たしかに血圧が一方的に上がってしまうなら、
高血圧気味では今まで以上の血圧上昇を招くとも解釈できます。
実際、薬用人参の血圧上昇は議論のあるところです。

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もっとも、薬用人参は万事が弱々しい人に用いる、元気を補う薬物です。
対して高血圧気味の方には、
身体ががっちりしている、万事元気旺盛な人も少なくありません。
そのような人に、虚証に用いる薬用人参はそもそも適しておらず、
体力が充実した実証タイプの人が之を用いると、
血圧上昇のほか、のぼせや興奮、不眠、頭痛を誘発する可能性もあります。
不適なものを服すれば、ときに実害を生じるのは、
薬用人参に限らず、全ての漢方治療に共通する注意点です。

また、薬用人参は数ある生薬の中で上薬に分類されるものです。
長く服用しても障りがなく、からだを正常にするものが上薬の共通点。
実際の臨床試験では、通常の服用量であれば、
長期服用(2ヶ月~5年)でも血圧に大きな変動はない
という結果も報告されています。

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一方的に上げるだけではなく、ときには下げる。
それも上薬たる薬用人参の薬能です。
そんな薬用人参だから、薬用人参をお勧めする理由(1)リンク のように
服用する時間帯によって、正反対の働きを示す訳です。

薬用人参を服用した方から
しばしば耳にするのが 身体が軽い という感想。

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かの神農本草経には、薬用人参について次のような記載があります。
久しく服すれば身を軽くし、年を延ばす

身を軽くするとは、文字通り 「身体が軽くなる」 という体感に通じます。

身体が重く感じるとき、そこには下向きの力が作用しています。
ただそれは、下に強く引かれているのでなくて、
上に持ち上げる力が不足しているために起きています。

気球をイメージすると良いかもしれません。
気球には常に、熱した空気の上へ上昇する 上向きの力 と、
おもりの下降する 下向きの力 が働き、
気球はそれでバランスを取り、高さを維持しています。
このとき上向きの力が不足すれば、気球は下降していきます。

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ここで注意したいのが、上向きの力を戻すだけでは、
元の高さには戻らないという点。それ以上、下降しないだけです。
一旦下降したものを、上昇して元の高さに戻すには、
より多くの上昇力が必要となります。
この「より多くの・・・」というのが、漢方の気を補うという事に当たります。 

また、大気は熱すると軽くなり、上昇していきます。
この熱することも、漢方では気を補う事、気が益す事に通じます。
人の身体は気を益す事で、上向きの力が働きます。
逆に気が不足して、相対的に下向きの力が大きくなれば、
脱力して身体を重く感じたり、横になっていたいと思うようになります。
もちろん身体が急に重くなっているわけではありません。
いつもより重く感じてしまう訳です。

この いつも通り とは、難しい言い方ですが恒常性(ホメオスタシス)と呼ばれます。
そして薬用人参には、この「いつも通り」を支える=恒常性を保つ働きがあります。

さまざまな薬用植物をまとめた古書、神農本草経には
薬用人参について次のような記載があります。

味甘微寒。・・・(中略)・・・精神を安んじ、魂魄を定め、驚悸を止め、
・・・(中略)・・・心を開き、智を益して、気を主る。

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精神や魂魄、心、智などいわゆる無形のものを整えるのも、
人参の薬能の一つとされ、その働きは養心安神と呼ばれます。
 
漢方では、「気を患うことで、精神は乱れ病む」という点から、
精神や心の不調は、気症(気の道症)と呼ばれます。
現代でいえば、種々の神経症や更年期障害、自律神経失調症、
また原因が不明瞭な不定愁訴も、この気症に該当します。

漢方では精神や心など目に見えないものは、身体の機能に宿ると考えます。
俗にいう心に宿るのではなく、身体の機能に宿るというところがミソです。
そして身体の機能が乱れると、それに宿る精神も乱れてしまう。
人参には身体の機能を整えて、そこに宿る精神を安定する働きがあります。

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ちなみに漢方では、身体の機能は内臓が発揮すると考えます。
内臓が身体の機能を発揮する。その身体の機能に精神が宿る。
そうして身体の機能を介して、内臓と精神がつながる。
之もまた、漢方独特の考え方です。


前回の薬用人参をお勧めする理由(4)リンク でも紹介しましたが、
人参は「中」を整える漢方処方に用いられます。
身体の機能にとっての中心は、それに宿る精神にとっても同じく中心的存在です。
精神的不調に処方される漢方薬に人参が
欠かせないのには、そういう背景があります。


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