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個人の(体の特徴や状態)を重んじる漢方では、
男性と女性、若人と老人、子供と大人は別の存在(別の証)として扱います。

存在(証)が異なるならば、それぞれに合った漢方治療・漢方薬を選ぶ。
それが漢方の基本的な考えですから、そうした世界には例えば、
男性に合った薬、女性に合った薬、子供に適した薬というのが存在します。
言いかえれば、男と女、若人と老人、子供と大人では、服むべき薬は異なり、
その「違い」を大切にするのが東洋医学という訳です。
なお、この考えを同一の人物に当てはめると、
若い時と老いた時、健やかな時と病んだ時、
さらには朝と夜でも、「その時々で服むべき漢方薬が変わる」という話に導かれます。

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朝は目覚めと共に、体を動かす(活力を発揮する)ことが求められ、
夜は就寝と共に、体を休ませる(活力を回復する)ことが求められる。
それぞれの目的に即した漢方薬はさしずめ、
一日の始まり/終わりに服むべき漢方薬となります。

一日の始まりに服むべき漢方薬。それには例えば、
体を温め、血流(動脈血)を盛んにする桂枝湯や麻黄附子細辛湯、五積散、
血圧を高め、心身の立ち上がりを促す香蘇散や苓桂朮甘湯に、一服の価値があります。
一日の終わりに服むべき漢方薬。それには例えば、
体を温め、血流(静脈血)を回復する四物湯や芎帰調血飲
緊張を緩め、自然な寝入りを促す柴胡疎肝湯や逍遥散に、一服の価値があります。

就寝時の寒さには、それ相応の防寒対策が必要ですが、
温め過ぎは、反って眠りづらさを招くケースがあります。

本来、体を温める必要があるのは、目覚めている時や活動する時。
この点は漢方も同じで、麻黄や乾姜のような辛味を活かした漢方薬は本来、
日中活動時に寒さを訴える人が用いるべき存在です。

一方で、寝ているときの体は、生命活動が一番の下火になります。
本来はこの下火が働いて、体の「冷えにくさ」を支えますが、
下火の状態で冷えを起こすのは、下火が弱いことを意味しています。

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そして同じく生命活動を象徴する火でも、
活動中に赤く燃え上げる火は陽に、休息中に灯す青い火はに相当する存在です。
西洋医学的に言えば、陰火は副交感神経の働き、
及びそれに支配された睡眠状態(深部体温や血流)を象徴します。

就寝中の冷えには、陰火の規模(大きさ・勢い)が深く関わります。
なお漢方では、日中の活動を支える心・肺は陽火に、
夜中の回復を支える肝・腎は陰火に味方すると考えます。

寝冷えする時に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
肝腎の働きを養い、陰火の勢いを整える漢方薬を意味します。
それには例えば、肝に作用して血行を促す当帰芍薬散や芎帰調血飲第一加減、
腎に作用して腰痛・腰冷えを改善する八味地黄丸や真武湯に、一服の価値があります。


お腹が緩くて、軟便になる。お腹を冷やして、下痢を繰り返す。
緊張を起こすと、お腹がキューッとなる。

慢性的な下痢に悩む人が、共通して抱えるのが、
いつ、どこで、下痢に襲われるのかという問題です。
激しい下痢に襲われる人ほど、この悩みが大きくなります。

一方で、このタイプの下痢を繰り返す人は、
有効な対処法(いわゆる下痢止め)の所持と共に、
下痢を引き起こす原因のコントロールが大切になります。
漢方では、感染性を除く急激な下痢症状は、の失調を反映すると考えます。
肝は、体の消化・排泄を機能を正常にコントロールする部分ですが、
何らかの理由でその働きが乱されると、消化・排泄が円滑に行われず、
消化器系にさまざまな障害が出現します。

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急性の下痢は特に、肝の(異常な)、亢進を伴って起こります。
精神的な緊張やストレス、プレッシャー。お腹を冷やす行為。
あるいは下痢に伴う腹痛や痙攣、冷や汗。これらは全て、肝の亢進を伴います。
また、便意を我慢すること(肛門を緊張させること)も、更に肝の亢進を招きます。

また、下痢には突発的な症状だけでなく、
軟便のごとく、穏やかに慢性化するタイプも存在しますが、
このタイプの下痢も、肝の失調(慢性的な減退)を反映しています。
慢性的に続く肝の失調は、症状の誘発だけでなく、
ボディー・ブローのように、少しずつ胃腸機能の消耗・疲弊を招いていきます。

慢性的な下痢に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
①肝の(異常な)亢進を未然に防ぐ漢方薬
②胃腸機能(脾胃)の疲弊を立て直す漢方薬を指します。

①には、筋肉の過緊張を抑える四逆散や逍遥散、
お腹を温め、筋肉の強張りを解く人参湯や桂枝加芍薬湯、
②には、胃腸の水捌けを整える平胃散や五苓散、
胃腸虚弱を改善していく参苓白朮散、補中益気湯などに、一服の価値があります。


洟(鼻水)が何度も垂れる。鼻水の切れが悪い。鼻汁で塞がり、息苦しい。

鼻の潤いは、寒冷・乾燥から鼻を守るのに対して
鼻水には、鼻から障害を排出する役割があります。

この「障害」には、花粉やハウスダストによる刺激(それに伴うアレルギー反応)に加え、
化膿に伴う老廃物(白血球の死骸など)の排出反応、
寒冷に伴って起きる鼻腔内の血管運動なども含まれます。

一方で鼻水の性質や特徴、例えば、さらさらしているか、粘っこいか
透明か、黄色く濁っているか、漏れ出やすいか、切れが悪いかなどは
鼻(鼻腔粘膜)の状態を反映しています。

この「状態」には、寒性(冷えている)や、熱性(熱を帯びる)、粘膜の充血や浮腫、水腫
さらには、感覚・反応の鋭敏さ(すぐに洟垂を起こす)や鈍さ(回復が遅い)が含まれます。
なお、鼻水の切れが悪い状態は、鼻の水捌けの悪さを反映しています。
水捌けの悪さは、鼻に浮腫や水腫を招き、
またそれらが粘膜を弛緩させることで、鼻の感覚・反応を鈍らせます。

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漢方では、鼻水や汗などの分泌物は、肺が蓄える気や水が姿を変えたものと考えます。
厳密に言うと、肺は体に有害な存在を、気・水と一緒に鼻水という形で排出します。
そして鼻水の切れが悪い状態は、
●障害や負担が続いて、肺が疲弊している状態、
●肺が緩弱して、気や水が垂れ流しの状態   
のいずれかを象徴しています。

鼻水の切れが悪い時に服んでおきたい漢方薬とは即ち
①肺への障害を減じる漢方薬②肺の回復を促す漢方薬を意味します。
①には、充血を伴う分泌異常を改善する小青竜湯合麻杏甘石湯や柴苓湯
あるいは、呼吸器に生じた浮腫・水腫を解消する六君子湯や苓甘姜味辛夏仁湯
②には、粘膜の収斂・弾力を回復する補中益気湯や桂枝加黄耆湯に一服の価値があります。


立春を迎えた頃から、三寒四温の傾向が強くなります。
温かくなったかな?と思ったら寒くなり、
寒さが続くなと思ったら、ふと温かくなる。その連続です。
寒さに慣れた体は、降り注ぐ日差しの暖かさに暑さや熱感、のぼせを訴え、
逆に暖かさに慣れた体は、降りかかる寒さに対して
過剰な反応(蕁麻疹やアレルギー)を起こします。

西洋医学的には、三寒四温を通じた体調の変化は、
自律神経の揺さ振りを招くと言われます。
けれどその揺さ振りが、盛んに行われる寒暖の変化による弊害か、
体の不安定さを反映したものかで、対処法は異なります。
簡単に言えば、前者は自律神経の回復が、後者は自律神経の強化が必要になる訳です。


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漢方では、三寒四温に伴う体調の乱れは、
体調を整える気(正気)の繊細さ・鈍重さを反映すると考えます。
繊細さが強まると、小さな変化でも体調を乱すようになり、
鈍重さが強まると、複雑な変化に対して柔軟に対応するのが難しくなります。
なお、繊細さは気虚・気鬱(気が虚ろで、虚ろな為に憂う)を、
同じく鈍重さは憂鬱・痰飲(気が憂い、憂う為に湿って重くなる)を反映した病態です。

寒暖差が大きくなる時期に服んでおきたい漢方薬は、
①気を高める漢方薬②気を淀みなく巡らせる漢方薬
③痰飲を除いて、気を軽やかにする漢方薬を意味します。

例えば①は、気が奮うのを助ける補中益気湯や小建中湯、気を穏やかに高める四君子湯、
②は、気の内向を防ぎ、外向を促す香蘇飲や桂枝湯、川芎茶調散
③は、気を塞ぐ痰飲を排除する苓桂朮甘湯や香砂六君子湯、
あるいは痰飲で萎えた気を回復する半夏白朮天麻湯や温胆湯に、一服の価値があります。



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