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新しい生活環境。新しい職場。新しい学校。新しい対人関係。
春の神経症は、そうした存在を背景に
ストレス障害として発生するケースが増えています。
けれど一方で、春は気の緩みから、
自律神経系の不安定さが増える(=安定性が欠けやすい)時期でもあります。
精神面が不安定なところに、上乗せの形で緊張やストレスが伴う。
そうして、反応が大きくなるのが、春の神経症の実態です。

ただし、ストレスが存在する事=悪行ではありません。
「良い緊張感」という表現があるように、
新生活に対する期待感は、プラスの要素をもたらします。
(逆に、不安が強くなると、マイナスの効果が強くなりますが…)
精神面が不安定なところ(=自律神経系が不安定なところ)に、
良い緊張感が加わることで、安定性が補完されるようになる訳です。
(逆に、悪い緊張感が加われば、更なる不安定に及びますが…)

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けれど一方で、ストレス(=刺激)を支えに安定性を保ち続けていると、
その刺激が消失した途端、安定性が大きく揺らいでしまう場合があります。
そういう状態は、「燃え尽き症候群」とか「五月病」と呼ばれますが、
強く偏った刺激ほど、それだけに頼ると、逆に安定性を欠くリスクは高まります。
また、そうした存在に頼って安定させるほどに、
体には余分な力がかかっていく(=力んでいく)ようになります。

漢方では、体の様々な安定性(不安定性)は、
①本来持っている素養(=裏側の気)が
②外部から及ぶストレス・刺激(=表側の気)に感化され、発揮されると考えます。
自然な状態では、「表側」と「裏側」は互いに支え合い、高め合う相乗的な関係にあります。
けれど、そこに何らかの理由で、壁や隔たりが生じると、
本来あるべき繋がりが失われ(=表裏の不和)、
ストレス障害、神経症といった病態を招くようになります。

春の神経症に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
表裏の不和を防ぎ、調和を高める漢方薬を意味します。
それには例えば小柴胡湯や柴胡桂枝湯、桂枝加芍薬湯
あるいは柴胡疎肝湯や逍遥散などに一服の価値があります。

春の訪れは、しばしば心身に緩みを及ぼします。
緩むことで体は温まり、心は開放的になりますが、
その一方で、寒い時期の緊張が解けることで
妙に浮ついたり、本来の安定を欠いたり、
弛(たる)むことで、滞りを招く面もあります。

体の緩みは、春に生じる自律神経系の乱れにも影響を及ぼします。
春に緩むこと自体は、副交感神経を優位にしますが、
その事は逆に、不意の瞬間(突発的)に交感神経が優位になるリスクも含んでいます。
そうして、自律神経の揺れ幅(落差)が大きくなり、
波風のように揺れ動いたり、舞い上がりやすくなる。
そうして、自律神経系は本来の安定性が弱くなり、
不安定さが増長していきます。

漢方では、緩みはある種の気虚として見立てられます。
気虚=虚弱とか元気がない、エネルギー不足と一般的には解釈されますが、
虚というのは、文字通り「虚ろ」な訳ですから、
本来持っている安定性が虚ろ(=不安定)という面を反映する訳です。

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この話は、天秤に例えて考えると、わかり易いと思います。
大きな(=物が沢山載せられる)天秤と、小さな(=物が少ししか載せられない)天秤。
同じ物を載せた場合、小さい天秤の方が揺れは大きくなります。
けれど一方で、同じ大きさ(=載せられる量が同じ)の天秤でも、
腕が長いものと短いものでは、腕が長い方が揺れは大きくなります。
揺れが大きくなる=不安定さが増すという点では、
天秤が小さいことも、そして腕が長いことも同じく「虚」という訳です。

春の緩みに服んでおきたい漢方薬とは即ち、
体の安定性が虚に陥るのを防ぐ漢方薬を意味します。
それには例えば、苓桂朮甘湯や桂枝加黄耆湯、香蘇散
あるいは補中益気湯などに一服の価値があります。

期待と不安は表裏一体。
良くも悪くも、心煩い(心患い)を起こすという点では同じですが
期待と不安では、煩いの方向性が違います。
簡単に言えば、期待は五臓の肝が温まる方向に、不安は肝が冷える方向に向かいます。
不安を感じること、恐がることを
「肝を冷やす」と表現するのは、正にこの事を表しますが、
肝(≒自律神経系)は本来、「温まりにくく、冷めにくい」という性質を持ちます。
けれど期待や不安が大きくなるほどに不安定になり、
温まりやすく、冷えやすい状態が際立っていきます。

ただし、温まりやすく、冷えやすい状態とは言っても、
物理的に「熱い・寒い」とか本人が「暑がり・寒がり」という意味ではありません。
肝を冷やせば、体を温めれば良いという訳でもありません。
肝の冷えやすさは、肝本来の柔軟さを欠いた状態(=肝気虚)。
肝気虚に陥れば、体の巡りは柔軟さを欠き、
極端に緩んだり、強張った状態を招いてしまいます。

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強い感情は、それによる弊害も然ることながら、
感情によって平常の気(≒平常心)を欠くという点が問題だと感じます。
期待や不安を抱くこと自体は、悪行ではありませんし、
期待が良い感情、不安が駄目な感情という訳でもありません。
いかなる大きな感情であっても、それを善行として留め置くのは、平常心がなせる業です。
それこそ、平常心が強くても、人の心は期待もするし、不安も感じます。

不安を感じる時に服んでおきたい漢方薬とは、
不安で肝気虚に陥るのを防ぐ漢方薬、肝の平常の気を保つ漢方薬を意味します。
それには例えば、桂枝加竜骨牡蛎湯や半夏厚朴湯、甘麦大棗湯、
あるいは温胆湯、抑肝散加陳皮半夏などに一服の価値があります。

期待と不安は表裏一体。
期待で胸が高鳴るのと、不安で胸が怯えるのは、
表面的な面では違いがありますが、良くも悪くも
心を煩わす(患わす)という点で、本質的にはよく似た状態でもあります。
期待で胸躍る。聞こえは良いですが、
その実、躍らされる(そう仕向けられる)ことも少なくありません。

陽極まれば、陰となる。
善とされる期待も、極まれば強い不安に転げるリスクが強くなります。
特に周囲の人からの期待は、適度なものなら高揚感を与えますが、
過度になると振り回され、プレッシャーとなり、逆に当人を押し潰します。
そういう面でも、期待と不安には明確な境界が存在しません。
今感じている感覚は、単なる期待なのか、
それとも期待から緊張、あるいは不安へと転じているのか。
そういった事には、感情(=期待)の大きさと共に、
当人の精神面(=メンタル面の強さ)が寄与しています。
感情が膨らみすぎると、精神面は及ばなくなりますが
一方で精神面が未熟だと、一時の感情に振り回されるリスクも大きくなるという訳です。

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漢方では、人を動かすエネルギーには3種類があると言われます。
即ち、精、気、神。合わせて三宝。
この内、今回の話に関わるのは気と神です。
簡単に言うと、気の動きは期待に動く心身の反応を、
神はそうした気の動きをコントロールする精神面を意味します。
そして期待で胸躍るとは、気が昂ぶりすぎて、
神のコントロールが及びにくい状態と推察されます。

なお、そうした状態に表現したものに「武者震い」があります。
強い興奮や期待による気の昂ぶりは、余剰なエネルギーを生み、
行き場がないエネルギーは、体を不自然に震わせてしまいます。

期待で胸躍る時に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
期待によって生じた余剰なエネルギーを緩和する漢方薬、
あるいは、期待で神が緩みすぎるのを防ぐ漢方薬を意味します。
それには例えば、抑肝散加芍薬黄連や酸棗仁湯、柏子養心丸
あるいは桂枝加竜骨牡蛎湯や牛黄清心丸などに一服の価値があります。

新生活が始まる時期。一人暮らし。社会人デビュー。
多くの方は、期待と不安が半々の、複雑な心境かもしれません。
それだけを切り取って見ると、不安定な状態にも見えますが、
その不安定さは、貴方一人だけが感じるものではありません。
新生活を始める方であれば、多かれ少なかれ伴う現象です。

しばしば「期待と不安は、表裏一体」と言われます。
漢方でいう表裏一体は、陰陽の関係を指しますから、
さしずめ、期待を陽(の感情)とするなら、不安は陰(の感情)。
ですから、期待と不安が入り混じること自体は悪い現象ではなく、
むしろ自然なこと(=陰陽を伴うこと)、人間らしいことにも感じます。

ただし一方で、物事の「不安定さ」と「危うさ」も、また表裏一体の関係にあります。
不安定でも、それをコントロールするだけの能力があれば、危うさは十分に小さくなります。
けれど一度コントロールが及ばなくなると、不安定な心は途端に危うさが増幅されます。
そのきっかけは必ずしも特別なものでなく、新社会人にありがちな失敗、
自信の喪失、仕事とプレイベートの板挟み、一人暮らしの寂しさなど。
新社会人や新生活には、そうした存在が及びやすい点も、また事実かもしれません。

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漢方の視点で考えると、期待と不安が入り混じった心境は、
肝の不穏によると見立てることができます。
「妙にそわそわする・・・」、「あぁ、不安になってきた・・・」なども、
肝の不穏を反映したものです。
一方で、そうした心境に及ぶ危うさは、
肝を取り巻く腎・心の不和と見立てられます。
五行説では、腎は水、心は火を主る部分であり、
腎と心の関係が乱れると、それに挟まれる肝(木)に被害が及ぶという関係にあります。

新生活に服んでおきたい漢方薬とは、
肝本来の健やかさを養い、腎と心の良好な関係を保つ漢方薬を意味します。
それには例えば、柴胡桂枝乾姜湯や桂枝加竜骨牡蛎湯、
あるいは逍遥散、苓桂朮甘湯加牡蛎、六味丸などに一服の価値があります。


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