病気の悩みを漢方で

１．人参養栄湯（ﾆﾝｼﾞﾝﾖｳｴｲﾄｳ）の意味
　･･･人参を含み栄（ｴｲ：栄養機能）を養う方剤

　人参養栄湯の養栄（ﾖｳｴｲ）は栄（ｴｲ）を養うことです。栄は栄養機能を担う血（ｹﾂ）に相当する機能です。現代中国では栄は営の字が用いられています。
　人参養栄湯の名は消化吸収機能を調える補気薬（ﾎｷﾔｸ）の人参（ﾆﾝｼﾞﾝ）を含み､栄（栄養機能≒血）を養う補気補血剤（ﾎｷﾎｹﾂｻﾞｲ）を意味しています。

　なお､現代の栄養は食物を摂取して消化吸収し､体の栄養機能を維持する意味です。前半の下線部分は補気､後半の栄養機能維持は補血･養栄に相当します。

２．人参養栄湯の適応･･･疲労倦怠感､咳嗽､不安

　人参養栄湯は､疲労倦怠感､食欲不振､顔色不良､皮膚乾燥､貧血傾向などの虚弱状態に用いられます。
　適応病態は十全大補湯（ｼﾞｭｳｾﾞﾝﾀｲﾎﾄｳ）と同様ですが､長引く咳嗽､不安､不眠などにも適することが異なります。

３．人参養栄湯 の配合生薬（十全大補湯､帰脾湯との比較）

3.1）十全大補湯は倦怠感を改善する四君子湯（ｼｸﾝｼﾄｳ）と顔色不良を軽減する四物湯（ｼﾓﾂﾄｳ）を含む補気補血剤です。漢方薬名の意味：十全大補湯を参照してください。

　人参養栄湯（12味）は十全大補湯（10味）の川芎（ｾﾝｷｭｳ）以外の９生薬を含む関連方剤です（図１）。

　人参養栄湯を十全大補湯と使い分ける時に指標になる配合生薬は､不安や不眠を軽減する安神薬（ｱﾝｼﾝﾔｸ）の五味子（ｺﾞﾐｼ）と遠志（ｵﾝｼﾞ）です（図２）。

　五味子と遠志は咳嗽を軽減する化痰薬（ｹﾀﾝﾔｸ）です。この薬能が高齢者の慢性閉塞性肺疾患（COPD）の咳嗽や虚弱状態を軽減すると考えられます。

　COPDは長引くとフレイル（栄養不足を伴う虚弱状態）になります。人参養栄湯は食欲を増してCOPDに伴う虚弱状態と咳嗽を軽減します。COPDを参照してください。

　遠志は抑うつ感や不安や不眠の軽減に寄与します。　

　なお､認知症に伴うBPSD（行動･心理症状）の神経の高ぶり､いらだち､怒り､興奮には抑肝散（ﾖｸｶﾝｻﾝ）が適します。
認知症の漢方（３.アルツハイマー型認知症）を参照してください。

3.2）帰脾湯（ｷﾋﾄｳ 12味）は貧血傾向の虚弱状態と不眠や不安､動悸に用いられます。心身が疲れ､抑うつ傾向の人に適します。漢方薬名の意味：帰脾湯を参照してください。

　帰脾湯と人参養栄湯は共に補気補血安神剤（ｱﾝｼﾝｻﾞｲ）です。
　帰脾湯は､補血薬の熟地黄（ｼﾞｭｸｼﾞｵｳ）を含まず､その代わりに補血･安神薬の酸棗仁（ｻﾝｿｳﾆﾝ）と竜眼肉（ﾘｭｳｶﾞﾝﾆｸ）を含みます（図３）。
　熟地黄による乾燥を潤す効果は人参養栄湯より劣りますが､熟地黄による食欲不振や胃部不快感などの副作用はありません。

　人参養栄湯と十全大補湯君と帰脾湯を比較しました（図４）。

　３方剤は倦怠感､顔色不良などの適応症状は共通です。人参養栄湯と帰脾湯は十全大補湯の適応病態に精神神経症状の軽減効果を付与した方剤です。
　・人参養栄湯は意欲低下や不安と長引く咳嗽や息切れに適します。
　・帰脾湯は心配性の人の心身の疲れや抑うつ傾向､不眠に適します。