健康トピックス 「漢方薬こぼれ話」

吉野といえばといって・・・・・・誰もが思いつくのが・・・
そう サクラの吉野山。そして、吉野葛(よしのくず)ですよね。

葛菓子やくずきり、葛湯など食された方も多いのではないでしょうか。
めちゃめちゃ好きな人もいらっしゃるでしょうね。

葛は日当たりのよい森林のへりや川の土手に群生する つる性の多年草で、
吉野だけでなく全国あっちこっちに自生しているようです。

で、近所で見つけました。何と徒歩1分の川の土手で開花していました。
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きれいな花でしょ。(9月23日撮影)

漢方としては有名な葛根湯に配合される葛根も食材として使用される葛も
この植物の根を使います。
夏から秋にかけて根を掘り取るのですが、
無理に引っ張ると繊維に沿って裂けるので、
周囲を十分掘って(重機が必要な場合もあります)から掘り出します。
これは、経費がかかりますよね。

この掘り出した根を「吉野晒し」という手法で根からデンプンを取りだしたのが
いわゆる、吉野自慢の吉野葛です。
最近は吉野葛といっても、実はジャガイモデンプンが混じっていたり、
外国モノだったりすることが多いようで、
100%吉野葛というのは本場でないと入手困難ではないかと。

この葛デンプンはジャガイモデンプンなどと比べて細かい粒子で、
口に含むとサッと溶けるので、ジャガイモデンプンとは一線を画する代物です。

また、根を乾燥してサイコロ状に切ったのが漢方薬の葛根です。
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有効成分としてイソフラボン、サポニンなどが同定され、
解熱作用・鎮痙(ちんけい:けいれんを抑える)作用などがあり、
発汗解熱・首の凝りなどに他の薬剤と合わせて処方応用されます。
葛根湯は まさにその代表処方です。
風邪の初期・肩こり・皮膚病・下痢・鼻炎などに応用します。
しかし、この処方は体力の低下した人や虚弱な人が服用すると動悸がしたり
余計に体が弱ってしまう場合がありますので、安易に服用するのは危険です。
専門家に相談の上、お求め頂くのが賢明かと思います。

福田漢方 TEL;0746-32-4568

 

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鳴り響くほら貝の音 山伏姿の修験者 一歩そしてまた一歩 山道を行く。
吉野地方は山岳信仰の聖地 大峰山系に抱かれた歴史の故郷でもある。
殊に山上ヶ岳は今なお女人禁制を貫く厳しい修行の山であり
体をロープで結えて命を確保し切り立った頂近くから 
はるか真下を覗いて一心に拝む「西の覗き」行は実に恐ろしい。
私も30年以上前に体験したが、未だに鮮明に記憶に残っている。

そんな修験道の開祖 役行者(えんのぎょうじゃ)が民を救うために
創製したとされるのが吉野に自生していたミカン科の落葉高木 キハダの樹皮を
煎じたエキスを主成分にした陀羅尼助丸(だらにすけがん)である。
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                        旅先に携行するのに便利な包入りタイプもある

陀羅尼経というお経を読むとき この丸薬を口に含んで眠気防止に使ったという事から
陀羅尼助丸という名前がついたとか。
このキハダ 漢方では黄柏(おうばく)といい、漢方的には熱を冷まし解毒するとされる。
その薬効は苦味健胃 整腸 抗炎症作用 抗菌作用 抗潰瘍作用 などが報告されている。

陀羅尼助丸は若いころ暴飲暴食の際、結構お世話になった思い出があり、
今なお子供達には健胃整腸の目的で少量継続服用させている。
吉野ではそれこそ一軒にひとつ置いてあるというくらいメジャーな和漢薬である。
少なくとも私は副作用報告を聞いたことなく、旅行代理店の人曰く、
「海外にも持って行けてお客様の要請に安心して渡せるのがいいです」
 
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                            刻んで煎じ薬調剤用にした黄柏

そして黄柏はというと黄色の染色材料としての顔もあり
染色して写経用紙や保存文書に用いたり、
外用薬として粉末を酢などで練って布に延ばし
打ち身に使ったりと用途はいろいろある。

吉野固有のものではないキハダではあるが、
こうして見ていくとやはり吉野と切っても切れない縁なのだと思う生薬である。

 

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青丹(あおに)よし 寧楽(なら)の京師(みやこ)は咲く花の
                        におうがごとく今さかりなり

万葉集に登場する有名なこの歌。
当時、九州の太宰府にいた詠み人が奈良の都をしのんでつくった歌です。

ここでいう「あおによし」は奈良の枕詞で、
青=碧色、丹=朱色で奈良の昔の建物などに
見られる柱の朱色が実は丹色であると
小学校の遠足で教わったことを未だに覚えています。

この丹色の「丹」こそが奈良・吉野地方で出土した水銀を多く含んだ鉱物の丹砂であり、
漢方でいう「朱砂」のことで古くは中国最古の薬物書「神農本草経」にも
記載があります薬物で辰砂ともいい、
漢方では不安・不眠・動悸・めまいなどの精神神経症状に用いられてきました。
代表処方は「朱砂安神丸」という有名な処方ですが、
残念ながら、私は一度も使った事がありません。
というのも水銀含有ということで、日本では使用禁止になったと聞き及び
使う機会に恵まれなかったのです。
(現在も使用禁止なのかは確認できていません)

ただ、この朱砂が出土したことを意味するであろうと思われる
丹生(にう)・丹治(たんじ)といった地名が近隣に残っていますし
丹生川上神社という立派な神社もあります。
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現在の丹生川上神社上社の様子

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立派なお社です。
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丹生川上神社上社からの山並み(自然に抱かれている感じが心地よい)
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当時の人々がこの吉野に特別の思いを抱いていたのは天皇の度々の吉野御幸でも推察されます。
おそらくは神仙郷のような位置づけであったのかもしれません。

今年は平城遷都1300年の年にあたります。
もし、平城京跡に行かれる機会がありましたら、
その柱の「丹色」の美しさに当時を思い浮かべて、
吉野にも足を延ばしていただけるとありがたいです。
当時の人の心をとらえたものに出会えるかもわからないですから。

 

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