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80歳代 女性 
 隣町から20分、90歳代のおじいさんが、80歳代のおばあさんを軽四トラックに乗せてやってくる。農家には必需品の車で、運転席の真下も見えるほどだから運転はいたってしやすいが、ぶつかったら即死だから僕なんかこわくて乗れない。ただこのあたりの農家や漁師の家では必需品だ。もっとも牛窓町内は、制限速度が30㎞のところも多いから、ぶつかっても死なないとは思うが。
 二人はまだまだ現役で、イチゴ農家の息子さんを助けている。90歳前後の夫婦がどのような作業を受け持って手伝っているのかわからないが、しばしば腰を痛めて漢方薬を取りに来る。しかし長年農業で鍛えているからだろうが、回復力もまだまだ十分あって、今回も2週間分で7割くらい改善して、あと3割治すために今日もまた漢方薬を持って帰った。
 ここまではいつもながらの光景だが、今日はここから一つの小さな物語が待っていた。
 僕は夫婦が出て行ったあとすぐに、県外に郵送する漢方薬を作り始めていたのだが、何やら娘夫婦が薬局の外で老夫婦と話をしていた。そして婿が薬局に入ってくるなり、車の整備工場に電話をしていた。なんとエンジンがかからなくなったそうだ。
 10分くらいして我が家がお世話になっている整備工場の方がやってきて、あっという間にエンジンを始動させてくれた。どうしてそれができたのかわからないが、あっという間だったらしい。 
 ずっと調剤室にこもっていたので成り行きはすべて妻から教えてもらったのだが、整備工場の方はお金を頂くようなことはしていないと言って帰ろうとしたらしい。ところがそれでは気が済まないご夫婦は代金を教えてほしいと迫ったが結局は提示されなくて、仕方なく1000円受け取っていただいたみたいだ。
 その後ご夫婦が薬局に入ってきて、今度は整備工場に電話をしてもらった電話代を払うと言われた。もちろん家族のだれもいただくことはできないと断ったのだが、これもまた気が済まないみたいで、押し問答していた。結局妻が、携帯電話で整備工場には電話をしたと言うことにして、安心して帰ってもらえた。
 僕はこうした人たちに支えられ、こうした人たちのために勉強をし、こうした人たちのために働いて来たんだと改めて気付かされた。とても自分に合っている職業とは思えなくて、仕方なく牛窓に帰ってきたが、今思えば田舎の善良な方に育ててもらい、幸せな薬剤師人生だったと思う。
 いみじくも昨日、ある30年来の常連の女性に「楽しそうじゃん!」と言われた。そんなことを平気で言えるような関係があるにしても、そんな風に見えているんだと興味深かった。「へーえ、そんな風に見えるの?」と答えたが、その通りで45年間楽しかった。失意のうちに牛窓に帰ってきたのに、今思えばその失意はほとんど帰ったその日だけだったと思う。
 人口数千人の町でつぶれない理由は、毎日、薬局の中でこうした小さな物語が生まれているからだと思う。ありがたいことに、心優しき出演者が何千人もいてくれる。


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