80歳代 女性
もう既に痴呆の診断を受けてから6年経っているのに、初めてお嬢さんからお礼めいたものを聞いたような気がする。と言うのは、漢方薬を取りに来た時に様子を尋ねたのだが「寒い寒いと言うばかりする」と教えてくれたからだ。
寒いと言うことは、寒いと分かっているからだ。また、寂しいと言う言葉もよく口にするらしいが、これは日中お嬢さんが仕事に出かけているから一人家にいたら「寂しい」のは当然だろう。
どちらも極めてまともな反応だ。ただ多くのことは的外れだから、正真正銘の痴呆なのだが、お嬢さんがお礼を言ってくれたのは、想像以上に進行しないからだろう。近所の高齢者がどんどん痴呆で追い越していくらしい。お母さんは、後から痴呆になった人のスピードに比べたら断然進行が遅いみたいで「漢方のお陰のようにお思う」と言ってくれたのだ。
お嬢さんが孤立してはいけないと思い、1週間分しか漢方薬を作らず、来た時には必ずお茶を飲んで帰ってもらうことにしている。そうしてお嬢さんの苦労を慰めて、結果的には、お嬢さんからお母さんに良い気を送り続けてもらえているのかと思っている。
漢方薬が効いてもいいし、お嬢さんの優しい気持ちが効いてもいい。