80歳代 男性
大袈裟ではなく、背中中に大きくて黒いいぼが数えることも出来ないくらい出来ていた。シャツを上げて患部を見せてもらった時には思わず「これはすごい」と本人の前で言ってしまった。
〇〇から牛窓に移り住んで、毎日のように海辺で日光浴をしていたらしい。何十年後かにその時の免疫破壊のせいで無数のいぼが出て、皮膚がかゆくて仕方がないのだろう。どんな飲み薬も塗り薬も効かないから、総合病院を掛け持ちしている。
その職業ではかなり有名な方みたいで牛窓の薬局など目もくれなかったのに、漢方薬を作ってと言って来た。年老いたからかつての勢いはなかったが、それでも仕事で〇〇に行くくらいだからしゃんとしている。
飲み薬も塗り薬も効かないから、寝る前には冷たい風呂に入り裸で寝るらしい。皮膚表面を冷やさないと眠りにつけないらしい。
僕の漢方薬を真面目に飲むのだろうかと疑問に思いながら2週間したら、意外にも漢方薬を取りに来た。背中を見ると何か変化しているように感じた。ところが当人はそんなことは認めない。
毎回毎回容態を尋ねても全否定。ところが明らかに痒みは弱くなっているのを奥さんが一度だけ指摘した。そして結局今日、最後の薬を取りに来たと言うから様子を尋ねると、「全然痒くない」そうだ。3か月半で完治。お礼の一言も結局言われなかった。
僕が漢方薬を送っている人達の中に〇〇の方もいっぱいいるが、少しの好転でも「お陰様で」と言ってくださる人も多い。別にお礼を言ってもらいたいわけではないが、経済力故に失くした(だろう)品格に触れるのは心地いいものではない。やはり僕は庶民のお世話をするのが好きだ。大学を卒業してすぐの失意のうちの帰郷も、今思えば何かの導きだったのだと思う。