夏の暑さを楽しんで、元気に過ごすために漢方薬の立場から少しお話ししたいと思います。
奈良時代の昔から夏には元気をつけるために鰻(うなぎ)を食べるとよいといわれ「万葉集」にもそのようなことが書かれています。
しかし、夏バテで食欲もなく、鰻どころでは無いという方もいらっしゃいます。
漢方では、脾(五臓の一つで、消化機能を指します)の機能低下の状態で、「脾虚(ひきょ)」と言っています。
この脾虚の症状を改善できるのは人参(にんじん)・白朮(びゃくじゅつ)・炙甘草(しゃかんぞう)などの補気薬(ほきやく)といわれる漢方薬の独壇場であり、西洋薬では真似の出来ない働きです。
四君子湯(しんくんしとう)・六君子湯(りっくんしとう)・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などが使用されています。
ここで問題なことは、処方名が同じならば、どこのメーカーが作っても効果は同じと思いがちですが、漢方薬は西洋薬のような合成品ではなく、原料生薬は天然品であるということです。
どこで、何時採集されたかが問題ですが、実際には明らかにされておりません。
主薬の人参にいたってはピンキリの差が非常に大きく(数千円から上は十八万円まであります)、品質の良い製剤を内服して、初めて漢方薬のすごさを体験することが出来ます。
東洋医学の立場から、非常に大切なことは水分を取りすぎてはいけないと言うことです。
夏は汗をよくかくので、体内の水分が少なくなり、喉が渇くために、水分をつい多目に飲んでしまいます。
これは正常な体の反応ですが、ほとんどの人が水分を必要以上の何倍も飲んでいます。
冷たい水やビールなど咽の爽快感がいいものですから、ついもう一杯と必要以上の何倍も飲んでしまうのです。
五臓の「脾」は、冷えと湿気を嫌い消化機能の低下を招いてしまいます。
人間の体は、口から入った水分は、何らかの方法で、体外に排泄しなければなりません。
しかし、子供は別として、大人になると、腎臓の働きは年齢とともに低下して、尿として排泄するには限りがあります。
すると余分な水は体内の組織に溜まってその結果、手足がむくんだり、異常な汗かきになり、体が重だるく感じたりします。
このような場合には飲めば飲むほど、汗が出たりむくんだりし、しかもかえって咽が渇き、余計に水分を取る、というように悪循環を繰り返すようになります。
これは体内の水分機能が異常になって起こる現象で、体は重だるく非常に疲れやすくなります。
現代医学でいう心不全の一歩手前の状態です。
これは夏場によく起こることで、特に湿度の高い日本では発生しやすいようです。
ですから、夏場は水分の摂取を控えなければなりません。
どうしても咽が渇いて我慢が出来ない人は、漢方薬の五苓散(ごれいさん)がお助け薬となります。
五苓散は消化器官や組織に余分にたまった水分を血液中に取り込み(喉の渇きが治まります)、尿として排泄する量を増やす働きがあります。
幼児によく起こる、嘔吐下痢症は消化器官に水分があふれ、血管中に水分が足りない状態です。
五苓散の一服で、嘔吐下痢が治まります。
解説:惠木 弘(恵心堂漢方研究所所長)