私達人間いや動植物すべてが太陽エネルギーをエネルギー源として利用して生きています。
このエネルギーを取り入れる入口が主として脾(胃腸)であり、取り入れたエネルギーを人間の生命エネルギーに転換して利用するのが肺の働きなのです。
東洋医学では、人間の臓腑を五臓六腑に分け、それぞれが独立的に機能しているのではなく、相互関連して自然と調和して機能していると考えています。
秋は肺が一番活動している時期です。
臓腑と季節の関係をわかりやすく言えば、各季節の始まる前の十八日間を土用と言い脾が一番働いています。
脾は自然のエネルギー(太陽エネルギー)を食の形で体内に取り入れる働きをしています。
秋は肺が一番活発になる時期で、脾が取り入れたエネルギーを人間が使用しやすい生命エネルギーに変換して、次に、そのエネルギーを冬に腎が働き腎の中に精(ホルモン)の形で蓄え、春になると肝が働いて活動を活発にします。
夏になり心が一番活発に働き人間としての活動を旺盛にすると考えています。
以上のように、まずエネルギーを取り入れる入口が食ですので、食事が大切で、肺の機能を活発にさせる運動が大切な養生法であり、正しく続けることが何よりも大切なことなのです。
また、体内に取り入れたエネルギーは生命活動に利用され、あまりは腎(五臓の一つで、西洋医学の副腎に相当)に蓄えられます。
中医学では「腎は精を蔵す」と言って、腎に蓄えられたエネルギーを「精」と言っています。
精を西洋医学では成長ホルモンと言っています。
「精」が十分あれば、子供の成長は健やかになり、生殖機能も健全になります。
また、「精」は老化にブレーキをかけ寿命を長引かせるだけでなく、健全な老後の生活を楽しむもとになります。
また、腎の成長は五臓の中でも一番時間がかかり約二十年かかりますが、また衰えるのは早い臓器と考えられています。
腎が精を蓄えるには時期では冬、一日では夜の十時から夜中の二時までです。
大事なことは、この時期は体を休め、睡眠をとることです。
睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があります。
レムとはREM(Rapid Eye Movement)と言って眼球が急速に運動している状態を指します。
レム睡眠の時は、寝返りを打ちながら夢ばかり見て、1時間おきに目が覚めます。
この時、脳はずっと働き続けているのです。
これに対して、寝入りばなのノンレム睡眠は、こうした眼球運動が一切ない、泥のように眠っている状態です。
もちろん脳は完全に休息していますし、夢も見ません。
じつはこの熟眠時間の時に精が蓄えられているのです。
睡眠は長くとればいいわけではなく、この時間(夜の十時から夜中の二時)に睡眠をとることが必要なのです。
睡眠が大事だからと言って「明け方に寝て、お昼過ぎにようやく目が覚める」という睡眠のとり方が体にいいと思いますか?
もちろんそうは言えないでしょう。
大切なことは「時間」ではなく「質」だからです。
自分も十時過ぎには寝て三時過ぎに起き、朝ひと仕事するという習慣です。
人間の一生を健康に過ごすことを考えると腎の機能増進をはかることが大切です。
それには睡眠のとり方と足腰を鍛えるしか方法がありません。
文明の発達した現代では、足を使わなくても自由に移動が出来、食べ物も豊富で、不自由なく生活できますが、健康維持の面から考えるとこれでよいのでしょうか。
昨今の少子化傾向は社会経済的に子供を作らないだけでなく、「精」の不足で子供ができない場合が多々あるのではないでしょうか。
現代の若い人たちは、体格は立派に見えますが、体力・生命力の面から見ると昔よりも衰えているのではないかと案じています。
次の事柄をチェックしてみましょう。
一、食生活…日本人は穀類(米)を中心に野菜や小魚を副食にして、よく噛み(一口三十回)、腹八分を守りましょう。
二、運動…適度な運動を続ける。一日一万歩歩きましょう。
三、睡眠…早寝早起き。腎が精を蓄える時間、少なくとも夜の十一時から夜中の二時頃までは熟睡しましょう。
四、平常心…イライラしないこと。七情(喜・怒・思・憂・悲・恐・驚)は病の本です。
解説:惠木 弘(恵心堂漢方研究所所長)