三、夏の食物
暑い間は野菜が少なくなり、ナス・キュウリ・トマトと言ったものが多くなります。
漢方的には陰性の強い物で、殊にお盆を過ぎて秋口に入ってから紫色の増したナスは美味しさも格別ですが、「秋茄子は嫁に食わすな」というくらいで、冷え性や流産の原因になります。
○ソーメン・冷やむぎ
暑いときには食欲が無くなりがちですので、あっさりして水気の多いソーメン・冷やむぎなどが好まれますが、これが案外不良消化なのです。胃下垂・胃アトニ-などの方は気をつけてください。
○飲みもの
夏はなんと言ってもビールや清涼飲料水が好まれます。まず暑いからと言って、ガブガブ水を飲むと、汗がたくさん出て体力を消耗するばかりか、胃腸を弱らせたり、心臓を弱めたりします。殊に、夏になったら太る人には禁物です。
その上、市販の清涼飲料水には、砂糖がたっぷり入っていて健康上よくありません。飲むなら番茶(薄めの塩味)・麦茶・玄米茶・クコ茶などが良いでしょう。
運動する人も十分気をつけましょう。運動の試合前などは熱い渋茶を少し飲むのが良いとされています。昔の人力車の車夫さん達は炎天下を汗を出して走りますが、塩茶の熱いのを少しずつなめるように飲んでいたそうです。冷たいものをガブガブやっては、暑い中を走ったり出来ないことを体験上知っていたのでしょう。
○果物
南の暑い国では、年中果物が屋台に満載されて、夜でも売っています。常夏の国では、果物は必須の食物ですが、日本ではそれほど沢山の果物は出来ません。日頃冷え症ぎみの方は、果物は食べ過ぎないように注意しましょう。
四、砂糖を甘く見るな
夏は暑くて疲れやすく、とかく甘い物が欲しくなりますが、漢方でいう甘味は白砂糖ではなく、黒砂糖や蜂蜜を指しています。
サッカリンやズルチンなどの人工甘味料が砂糖に変わってから、日本人の砂糖の消費量は増大しています。
精製度合いの強い白砂糖は肥満のもとになるばかりか消化吸収にビタミン、カルシウムを必要とするため、ビタミン、カルシウム不足のもとになるとして、食養生では敬遠されています。
カルシウムの不足は、骨粗しょう症で子供たちの骨折が多くなったり、神経のイライラや精神不安が起こってきたりします。
杉靖三郎先生は、「白砂糖にはビタミン類が含まれていないために、体内で不完全燃焼して、体内の細胞の活力を衰えさせる。その結果、健康を害し、成長を悪くし、老化を早める。」と言っています。白砂糖の消費の増大は、生活習慣病が子供にまで広がってきている原因のひとつと指摘されています。
戦後、良識ある少数の医学者は、砂糖の害を実際に証明して警告しました。兎に白砂糖を与えると、聴覚障害で、脳水腫の兎が生まれてきます。数年も経つと、その兎の子孫は殆ど脳水腫と耳の聞こえない兎ばかりになるそうです。生まれつき聴覚障害のある人の母親を調べてみると、皆、砂糖の過食者であったという報告もあります。
砂糖は食べ過ぎると虫歯になることは良く知られていますが、リウマチ・心筋梗塞も砂糖の摂取量と平行して多くなるという調査が出ています。
砂糖は体内でブドウ糖と果糖に分解され、この果糖が中性脂肪を体内で増やす原因となっています。心筋梗塞が死亡原因の上位を占めている現状も砂糖の摂取と大いに関係があります。
図で示すように一日五十グラム以内の砂糖であれば、血液中の中性脂肪はほぼ正常内にあります。
五十グラムの砂糖は、大体茶さじ八杯ぐらいです。アイスクリームが茶さじ五~六杯、板チョコ七杯半、パイ(普通の分量)十一杯ですから、これ位の間食で許容量ぎりぎりです。
むろん、パイやアイスクリームを毎日食べるわけではないでしょうが、これらのお菓子が氾濫している時代、食べ過ぎないように注意しましょう。
とはいえ、白砂糖の働きを見てみると、胃腸に働きかけて痛みを緩和させる作用があります。中医学では、精製していない砂糖はアカザトウ(紅糖)といって、治療に用いています。
これは、日本で黒砂糖と呼ばれているものです。
解説:惠木 弘(恵心堂漢方研究所所長)