人間の成長、老化に腎が関与していると東洋医学では考えます。
東洋医学で言う五臓は、肝・心・脾・肺・腎の五つですが、腎は成長するのが、五臓の中では一番遅く、約二十年もかかり、その上衰退するのが一番早い臓器と考えています。
東洋医学の最古典・素問の上古天真論に年齢と成長過程の関係が書かれています。次に別記いたします。何しろ、紀元前の時代のものですから、現代とは相当かけ離れていると思いますが、現代医学の考え方と合うか、自分と比べてどうか。他人と合わせてどうかなど面白いものです。
一、永久歯が生え、髪が伸びる年。女は七歳。男は八歳。
二、女子は月経が始まり、男子は生殖能力が備わる。女は十四歳。男は十六歳。
三、知歯が生える。女は二十一歳。男は二十四歳。
五、顔にしわが生じ、抜け毛が始まる。女は三十五歳。男は四十歳。
六、白髪が出始める。女は四十二歳。男は四十八歳。
七、女は四十九歳で月経停止。男は五十六歳で全体が老化する。
八、男は六十四歳で歯も髪も抜けてしまう。
以上は腎の盛衰の状態を表していますが、平均的な話です。良く養生法を守れば、人間の寿命は百二十歳であると、素問には書かれています。
腎の発育を良くし、かつ老化にブレーキをかけるためには、一生涯を通じて足腰を鍛えることが一番大切なことです。車が普及した現代、足を使うことが少なくなりがちです。一日一万歩は、ぜひ実行したいものです。正しい食養や呼吸法(腹式呼吸)なども欠かせません。
交通機関の発達、インスタント食品の氾濫した現代社会では、生命力の乏しい人間が多くなる恐れがあります。最近町のあちらこちらで、若い学生たちが、男女とも道端に座り込んでいる姿を良く見かけます。私などから見ると、行儀が悪い、みっともないと思うのですが、高校や大学の先生に聞いてみますと、立っていられないから座り込んでいるんだそうです。これは東洋医学的に考えると、腎の状態が弱体化している現象です。今、漢方薬の補腎剤が注目され、よく市場で出荷されています。
補腎とは何か少し説明いたします。
東洋医学でいう腎の一番大切な働きは、人間の発育・生殖・老化に密接に関与していることです。不妊症、若い男性の精子の減少や奇形、若白髪、介護を要する老人の増加などが社会問題になっていますが、これは腎の働きが低下している減少なのです。
中医学では、これらの状態を「腎は精を蔵す」と言う腎の働きが衰え、「腎精不足」の状態になっていると考えています。
腎精は人間が生まれ、成長し、老化のすべてにかかわる大切なもの、すなわち「腎精=生命力」と考えてもいいでしょう。腎精不足は、日常足腰をあまり使わない、食養の誤りから起きていると東洋医学では考えています。腎精を補う代表的な漢方薬に「六味地黄丸」があります。
六味地黄丸はもともと、小児の発育不良のために考案された漢方薬で、小児のアトピーやぜんそくの基本処方として使用されますが、最近はもっぱら高齢者に使用されています。
解説:惠木 弘(恵心堂漢方研究所所長)