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雨の日に溢れる湿気
梅雨時期の体は、その湿気に影響され(≒襲われ)ますが、
寒い場所で冷たい物を摂るとさらに寒く感じるように
湿気が強い時期に湿気を抱えると、その影響もまた増幅されます。
逆も然りで、元から湿気好き(?)の人は
湿気が強くなる時期に惑されるケースが多くなります。

漢方では、外界の湿気を「外湿」、体の内側の湿気を「内湿」と呼び分けます。
湿気が強くて急激な程、その影響が及びやすくなるのは外湿に通じる話。
それに対して、湿気による影響が尾を引くとか
湿気に反応しやすくなるといった話は、内湿に通じる話です。

また重みという点からすれば、
湿気を含んだ分だけ空気は軽くなります(それで上昇して、雲になる訳ですから)。
にも関わらず感覚の上では、湿気が強くなると何となく重さ(気だるさ)を感じてしまいます。
そうした感覚には、自律神経が大きく関与しますが、
体に抱えた内湿もその働きに影響を及ぼします。

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漢方では、自律神経系の作用を「気の働き」として解釈しますが
湿気の存在は、その気(の働き)を緩める(≒気を抜く)方向に作用します。
人の体の働きや感覚は、気で支えられますから、
気が緩むことは、支えが弱くなることに通じ、
それが独特の繊細さや不安定さとなって現れます。
そして内湿を抱えた方は、そうした繊細さを強く意識したり、
常に伴うような感覚になる訳です。

雨の日に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
自律神経系に関わる気の働きをサポートして、
気の「締まり」や「張り」を助ける漢方薬を意味します。
それには例えば、苓桂朮甘湯や香蘇散、五苓散、香砂六君子湯
あるいは桂枝加苓朮湯や五積散などに一服の価値があります。

人の体は汗をかくと
体内(≒血液)の水分と一緒に、体力を消耗していきます。
この体力は発汗の為に注がれる存在なので、
言葉を変えると発汗力(≒汗をかく為の機能)を消費していくとも言えます。

発汗力が一番消耗している瞬間は、そのものずばり「汗をかいた直後」ですが、
消耗の急激度や急速度は暑さの程度と共に、発汗力のポテンシャルによります。
わかりやすく言うと、その人がどれだけ健全な発汗力の持ち主かという話です。

発汗の程度が同じ場合、発汗力が健全な人の方が、長い時間に渡って汗をかけます。
だけど、長時間に汗をかくいうのは、裏を返せばその分だけ消耗も進行する訳ですから。
(その消耗に耐えられるとしても、それが「消耗」であることに変わりありません)
それこそ長い間に渡って汗をかけるから、
(短時間に)沢山の汗をかいても大丈夫という訳でも全くありません。
「消耗」という点では、沢山&長時間汗をかける方が、
発汗による消耗は激しくなる為、適度な発汗コントロールも必要になります。

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無自覚に汗をかいている(≒汗をかきっぱなし)場合ほど、
汗をかいた後の消耗は体内に浸透&蓄積しています。
その消耗は発汗力だけに限らず、体液循環や
抵抗力、あるいは内蔵機能など、他の部分にも影響を及ぼします。

漢方では、発汗の為に注がれるエネルギーを営気や衛気と呼びます。
これら2つを合わせて営衛と呼びますが、
健全な発汗力の維持は、この営衛の調和によって発揮されています。

汗をかいた後に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
営気や衛気の消耗を補い、営衛の調和を整える漢方薬を意味します。
それには例えば、桂枝加黄耆湯や帰耆建中湯、
あるいは生脈散や白虎人参湯などに一服の価値があります。

気象や天候の変化(急変)に伴って、症状が現れたり悪化したりする。
それらは俗に気象病と呼ばれ、近年認知が増えつつある病態です。

気象病の範囲には、痛みやめまい、低血圧、ぜんそく、うつ病などが含まれ、
季節的には春から晩秋にかけて出現しやすくなり、
梅雨や台風のシーズンに悪化するようになります。

ちなみに、気象病とは別に「季節病」と呼ばれる病態も存在します。
代表的な季節病といえば花粉症ですが、
季節病は季節という「長い時間幅」で出現するのに対して、
気象病は天候の変化という「短い時間幅」で出現する点に違いがあります。
ただしそうして考えると、季節病と気象病の特性を合わせ持った病態が
出現しても、何ら不思議はありません。

そんな気象病ですが、近年の研究で原因として挙げられるのが
①内耳の気圧センサーが非常に敏感に反応してしまう点と
自律神経系のアンバランスが及んでしまう点です。
早い話、気象の変化に対して体のセンサーが鋭敏に反応してしまう、
(センサーがそういう状態に陥っている)という訳です。

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漢方では内耳のトラブルを、内耳を満たす
体液の偏在・停滞(水毒や痰飲)として捉えます。
内耳にある水の存在が、気象の変化という影響が加わることで、心身に変調を招く。
水毒の存在が、自律神経系に代表される気の働きに影響を及ぼす(=気に障る)。
漢方の世界ではしばしば、「病は気から」と言いますが
気象病に関しては「病は水から」と言えるのかもしれません。
…尤も、内耳の水の偏在をもたらすのが気の不調と言われると、
結局は「病は気から」となる訳ですが。

気象病に用いる漢方薬とは即ち、
①気象変化の影響が及びやすい「水」を改善する漢方薬
②変化に伴って障りやすい「気」を整える漢方薬を意味します。
それには例えば五苓散や沢瀉湯、半夏白朮天麻湯、あるいは
抑肝散や釣藤散、柴胡疎肝湯などに一服の価値があります。


春は気温の上昇と共に、呼吸器も温まり、
寒冷によるせきや呼吸障害は穏やかになっていきます。
実際、COPDを抱えた方でも、
「春は呼吸が楽になる」、「発作の薬に頼る機会が減った」と言われます。

また、気温が穏やかになれば、寒さ(=冷たい空気)で咳き込む機会も減少していきます。
そのこと自体は、のどにとってプラスですが、
その過程で出現する寒暖差がアレルギーのように作用して、せきに及ぶケースがあります。
冬場のせきは、寒冷・乾燥を刺激として発生するのに対して、
春に起こりやすいせきは、気温の急落に誘発されて出現する点が、大きな違いです。
言いかえると、強い刺激に誘発されて起きるか、
刺激に対する感受性・反応性が高まって(=敏感になって)、症状に及ぶかの違いです。

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漢方では、呼吸器(=肺)が敏感になって、せき・たんに及ぶ状態は、
肺が不安定で、不和を起こしている(=肺の気が乱れている)と見立てます。
この場合の不和には、虚(抵抗力の低さ)を反映する面もあれば、
実(安定を阻害する存在・性質の多さ)を反映する面もあります。
そして両方に影響を及ぼすのが、痰(漢方でいう水の停滞)の存在です。
痰が気を塞ぐと、それだけ気は乱れ、不和に及びやすくなります。
(その不和が、また痰を呼び込むという悪循環・・・)

一般的な「たん」は喉に不快感を与え、それを出そうとしてせきを起こします。
それに対して漢方の「痰」は気を滞らせ、それを解消しようとしてせきを起こさせます。
そうして考えると、「たん」というのも痰で滞った気が姿を変えたもので、
それを出そうとして、せきに及ぶとも言える訳です。

春の「せき・たん」に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
痰の存在を抑え、肺の気を整える(≒不和を解消する)漢方薬を意味します。
それには例えば、小青竜湯加杏仁石膏、苓甘姜味辛夏仁湯、柴朴湯、
あるいは玉屏風散や荊芥連翹湯に一服の価値があります。

長い緊張を強いられる。
気を使い過ぎて、精神的に参った(疲弊した)。
忙しすぎて、気が回らない。

気を使い過ぎたということは、気が足りなくなる訳だから、
気を補給すれば良いのでは?と思うかもしれません。

半分正解で、半分誤り。一口に「気」といっても、
体を動かしたり、積極的な活動で消えていくのは「表側」の気。
それに対して、気を揉んだり、精神面に活動で消えていくのは「裏側」の気。
心と体は繋がっていると言われますが、
それは「表側と裏側の気がお互いに通じ合う様」を物語っています。
ですから、体が疲れての精神的な充足感は、
①表の気が消費される②それを補う最中に、裏の気が盛んになったことの現れ
なのに対して、体が疲れての精神的な疲弊は
①表の気が消費される②それを補う最中に、裏の気も尽きてしまうことの現れです。
表の気・裏の気から考慮すると、空元気の大切さも何となく理解できると思います。

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そして、「精神的に気を使い過ぎた」とは、
表の気が消費されないにも関わらず、裏の気だけが盛んになり、過剰に消費されていく
という、一見して不自然で、異常な状態によるものです。
裏の気は表の気を陰から支える一方で、
消耗したからとすぐに補うことができません。
逆に言えば、気を使い過ぎ、心を砕くというのは、それだけ特殊な場合とも言えるわけです。
ちなみにそういう場合は、表の気を裏の気に還元することで対処します。

表の気は、言葉を変えれば体の外に出て行く気のこと。
それは漢方で言うところの、消費や排出、代謝、分泌に関わる「陽」の気を指します。
対して裏の気は、体の内を満たす気のこと。
それは漢方で言うところの、貯蔵や吸収、栄養、内分泌に関わる「陰」の気を指します。
気を使い過ぎた後に服んでおきたい漢方薬とは即ち、
表の気を裏の気に還元して、この「陰」の気を補う漢方薬を意味します。
それには例えば、四君子湯や帰脾湯、天王補心丹、、柴胡桂枝乾姜湯、
あるいは四物湯や十全大補湯などに一服の価値があります。



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