大阪市立大学皮膚科では、昭和50年代初め頃、故山本巌先生のご指導のもと石井正光現教授が難治の乾癬治療に漢方を用いられて以来、東西医学の融合が実践されていました。
												
 私は入局当初より、故山本巌先生に師事し現在、大阪府大東市で開業されている高橋邦明先生にお教えをいただきました。
											「漢方を役立てることはできないでしょうか」
											今回は入局後間もない私が病棟で担当させていただいたAさんのお話を紹介します。
											Aさんは、足にできた悪性黒色腫がすでに転移し3年来の治療にもかかわらず腫瘍が増えるばかりでした。病側の下肢は何倍にも腫れて重くなり、何よりも痛みをとることが必要でした。
												
内服鎮痛剤は効かず、硬膜外にチューブを入れ、ゆっくりと麻酔薬を注入しました。
												
 この方法も他の鎮痛処置も次第に効かなくなり、麻薬を使い始めたのは、入院4ヶ月後くらいでした。
												
しかし、一時的には効果がありそうにみえた麻薬も副作用が前面に出て、苦しいばかりでした。
											
											「漢方を役立てることはできないでしょうか」
											
高橋先生にうかがい、悪性腫瘍を一種のお血と考えて、駆お血剤を用いてはとお教えいただきました。
												
 なかでも通導散がよいが、体力が低下した状態にあるので、その用い方をかなり慎重にしなくてはならないとアドバイスをいただき、1日2g内服から開始し、少しずつ増量していきました。
												
痛みは次第に和らぎ、麻薬の必要もなくなりました。
											通導散を使い始めて1週間くらいたった頃でしたでしょうか、私は、Aさんから
											
												「これはいいわ。なんで、最初からこの薬を使ってくれへんかったん」
											  といわれました。
											
それから1ヶ月ほどの間、Aさんは痛みを訴えられることなく、さわやかなお顔で過ごされたのち、眠るように息をひきとられました。
											漢方薬は皆、同じ処方ではない
											通導散は、紅花、蘇木、当帰、甘草、枳実、陳皮、厚朴、木通、芒硝、大黄からなり、打撲傷や急性・慢性のお血と考えられる病態に、時にドラマティックな効果をみせてくれます。
											ただ残念なことに、悪性黒色腫を含む他の悪性腫瘍の方に用いても、Aさんほど明らかな効果は得られておりません。悪性腫瘍にも種類がありますし、同じ疾患でも、病期や既に用いられている西洋医学的治療の影響を理解した上で、異なる漢方を利用することを考慮しなくてはならないので、さらに慎重に検討したいと考えています。
											
												病気をただ敵とみなし、攻撃する一方の治療だけでなく、病いの人を元気づけ、病気の苦しい部分を少しでも小さくしていこうとするときに役立つ漢方があることを示されたAさん。
												 私に希望を与えてくださったことは確かです。
											 
											文:大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学助教授 
小林裕美先生 / 薬事日報 10056号 
 
										 
											
												
													 
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												一寸気分転換に私の経験談を述べます。 | 
											
											
												
													 
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												バランス感覚の難しい女性のからだに漢方的概念を取り入れ、忘れられない患者さんを探ってみませんか? | 
											
											
												
													 
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												病いの人を元気づけ、病気の苦しい部分を少しでも小さくしていこうとするときに役立つ漢方 |