当時の人間なら、皆がそう思っていたのかもしれないが、漠然と仕事は５５歳で引退すると考えていた。
　そのうち世の常識が、６０歳になり、６５歳になり、今では７０歳と言う声が大勢を占めるようになった。まったく世の流れに沿って僕も仕事を続けてきたが、今は７５歳をイメージして毎日働いている。
　人は生きた年数に比例して色々な経験をする。幸か不幸か薬局をやっていたら、自身が経験した体調不良は役に立つ。教科書よりリアルだから。そしてそれを克服した経験はさらに役に立つ。所詮薬局の守備範囲は軽医療だから、日常しばしば遭遇する体調不良を克服できればいい。そしてもしそれが漢方薬みたいに自然原料のもので克服できればさらに良い。
　こうした理由で、７５歳までは仕事をしようかなと思っている。目の前に現れる方の訴える不調が年とともに理解しやすくなるから。もう数年はお役に立てれるのかなと思う。ただ僕の場合は、商品を手渡すのではなく、薬局製剤と言う漢方薬を作るから、意外と肉体労働的な要素も含んでいて、立ったりしゃがんだりが多い。手元の作業も必須だから、肩も首も凝る。元々鍛えた体ではないから、よほどメンテナンスしないと、頭より先にそちらの方が悲鳴を上げそうだ。
　そのためにウォーキングとかストレッチを欠かさないが、この寒さでその効果など吹っ飛んでしまいそうだ。温暖な晴れの国で育ち、一時期岐阜で過ごした後、帰ってきたから、北国の人のように強靭な体力や意志は持ち合わせていないが、身体が風雪に晒されなかった恩恵だけは残っている。意図して境遇を変える機会も動機もなかったが、その恩恵だけを頼りに、あと数年頑張らせてもらおうかと思っている。

５０歳代　男女　
ワクチンを打たない。マスクをしないで頑張っていたが、遂に兄弟からうつされたみたいだ。今は周りにコロナ患者はウジョウジョしているから、移るのが当たり前くらいだ。
自然派の方だからコロナも漢方薬で治す。熱　のどの痛み　倦怠感の症状があったが、3日でどちらもほぼ治った。ただ珍しく二人とも薬局に入ってこずに、3日前も今日も外でおとなしく待っていた。「自分達にも、わきまえがあったんじゃあ！」と誉めておいた。

８０歳代　女性　
年末に、腰と股関節が痛いと言って漢方薬を所望されてきた。フラフラするめまいが治ってとても快適に過ごしていただいていたが、息子さんの農業を少し手伝ったみたいだ。2週間後の今日、ほとんどよくなったけれど、もう少し飲んでおきたいからと注文があった。
けっして痛み止めではないけれど、自然治癒力を増す漢方薬は、90歳に手が届く方の身体の痛みでもしばしば解決してくれる。
田舎の薬局は、こうした働き者のご老人の要望にこたえなければならない。

６０歳代　女性　
３年前に竹のことワラビを食べた時から始まって、病院で治療を受けているが全く治らない。飲み薬と塗薬で、何とか痒みを我慢するだけで過ごしてきた。紹介されてやって来られたが、一言で言うと「気の毒なくらい」の症状。顔、首、両腕、両足が、現役の湿疹と、嘗ての湿疹が混ざり合い、とても人様には見せれないだろう。
１２月の初旬に治療をはじめ、１か月目の今日の評価は、８割治って残り２割だそうだ。お子さんたちが家に来たときに「お母さん掻くばっかりする」と注意を受けていたそうだが、今年の正月は誰にも言われなかったそうだ。とてもとても喜んでくださった。

７０歳代　男性　
総合病院である病気の手術を受けて退院した人。痰がのどにへばりついて不愉快だから病院で薬をもらって飲んでいる。僕の薬局で処方箋調剤しているから何を飲んでいるか分かるが、それでは効かないから漢方薬を作ってと頼まれた。処方箋を受けている立場だから勝手に漢方薬を作るわけには行かないと断ると、薬局で出してもらう漢方薬だったら何を飲んでもいいと言われているらしい。僕が漢方薬を勉強し始めた４０年前には考えられないような変化。当時は「漢方薬なんか・・・」と医師には馬鹿にされ禁止された屈辱の日々だった。