慢性疲労症候群(CFS) は、原因不明の強い全身倦怠感が長期間続き、健全な社会生活に支障をきたしている病態です。主な症状として、強い倦怠感、微熱、頭痛、筋肉痛、精神神経症状などがあります。
近年、明らかとなってきたメカニズムとして、次のモデルが提唱されています。様々なストレスによって体の中の神経系、免疫系、内分泌系のバランスが崩れ、免疫力(NK 細胞活性) の低下が起こります。それに伴い、体内に潜伏していた種々のウイルスが再び活動します。すると、ウイルスをもう一度元に戻そうとするために免疫物質(インターフェロンなど) が増産されてきます。この増加が脳に悪影響を及ぼしてしまい、特に前頭葉の機能障害を引き起こし、疲労感・倦怠感が増してしまいます。
日本では、1990 年よりCFS に対する研究が本格的に行われています。2004 年に行われた調査では、対象とした一般地域住民のうち、6 割近くの人が疲労を感じ、約4 割の人では半年以上続く慢性的な疲労を自覚していることが明らかとなりました。さらに慢性的な疲労を感じている人の半数近くが日常生活に何らかの支障をきたしていることが分かりました。疲労は身体の異常や変調に対するアラーム信号として重要なシグナルですが、過剰にはたらくと疾病状態に陥ってしまいます。
<不況の一因かも!?>
疲れがたまってくると、生活が楽しくない、仕事がはかどらない等と感じられることがしばしばあります。疲労が社会に与える影響について、経済損失として算出したところ、年間で約1.2 兆円にも及ぶと推定されました( 文部科学省)。慢性的な疲労への対応は、社会が取り組むべき大きな課題と言えるでしょう。
慢性疲労症候群の治療と予防
<大きくは内科的治療、精神科治療>
一般的には認知行動療法、段階的運動療法などの非薬物療法に加えて、症状に応じた薬物治療が行われます。例えば、疼痛に対しては非ステロイド性抗炎症薬が、うつ症状には抗うつ薬、不安症状には抗不安薬、不眠には睡眠薬が用いられます。また、疲労や不眠に対する効果を期待して、ビタミンC やビタミンB12 等も処方されます。さらにそれぞれの症状に適した漢方薬の使用も取り入れられています。
<心掛けたい食習慣>
疲労感の少ない人の食習慣が調べられ、疲労対策のいくつかのポイントが分かってきました。まず主食としてお米が食べられていました。これは、米食主体により副菜の種類が豊富となり、疲労回復に役立つビタミンB1、C 等の栄養素も増えたためと考えられています。さらに摂られていた食材では、野菜、きのこ、果物などが多いことが分かりました。また、疲労感高い人ほど欠食率が高く、夜9 時以降に夕食を摂る率が高いことも明らかとなりました。
以上から、疲れにくい体づくりのためにも、バランスのいい食事を規則正しく摂ることを心がけたいものです。
<プラスアルファの生活習慣>
さらに誰にでもすぐにできる予防策として、「笑い」と「プラス思考」が挙げられています。笑いは免疫力のひとつであるNK 細胞活性を高めることが実証されています。
また、プラス思考によって意欲の低下、疲労の悪化を防ぎ、免疫力の低下も予防できます。
東洋医学にできること
東洋医学では、身体は陽気( 気) と陰液( 血・津液) から成り、これらがバランスをとって生命活動が営まれているととらえられています。精神的あるいは肉体的な疲れ・無力・倦怠の場合、陽気と陰液が不足した状態によって引き起こされていると考えられ、身体的な特徴の把握によって適切な方剤が選定されます。特に、補中益気湯については臨床検討が行われ、西洋医学的にも有効性が報告されています。
方 剤 効 能・効 果
補中益気湯
体力中等度で、ときに脇腹( 腹) からみぞおちあたりにかけて苦しく、食欲不振や口の苦味があり、舌に白苔がつくものの次の諸症:食欲不振、はきけ、胃炎、胃痛、胃腸虚弱、疲労感、かぜの後期の諸症状、体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒
十全大補湯
体力虚弱なものの次の諸症: 病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
八味地黄丸
体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿でときに口渇があるものの次の諸症: 下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善( 肩こり、頭重、耳鳴り)、軽い尿漏れ
小柴胡湯
体力中等度で、ときに脇腹( 腹) からみぞおちあたりにかけて苦しく、食欲不振や口の苦味があり、舌に白苔がつくものの次の諸症:食欲不振、はきけ、胃炎、胃痛、胃腸虚弱、疲労感、かぜの後期の諸症状
柴胡加竜骨牡蛎湯
体力中等度以上で、精神不安があって、動悸、不眠、便秘などを伴う次の諸症:高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜泣き、便秘
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意識は五臓(肝・心・脾・肺・腎)のひとつである心によってコントロールされています。心は陰陽のうちの陽に属するので、陽気が盛んな日中では心の機能は活発であり意識は明瞭で眠ることはあまりありません。一方、陰気が盛んになる夜間では心の機能が安静になり意識は沈潜し眠りに入ります。しかし、安静になるべき夜間に何らかの原因で心のはたらきが乱されると不眠が生じます。漢方では、ヒトそれぞれの体質、症状などのタイプに対応する方剤を選び、血行動態、自律神経系、胃腸障害を調節して改善をはかります。
タイプ別漢方方剤 血色がよく、のぼせ気味で、気分がイライラして落ちつかず興奮しやすい方。高血圧症、更年期障害などでみられる不眠にも。便秘があれば三黄瀉心湯を用いる。 ・・・・黄連解毒湯、三黄瀉心湯など 大病後あるいは仕事で無理が続いて、疲れ、神経過敏になっている方。些細なことに神経を使って眠れないもの。 ・・・・温胆湯など 胃腸が弱く、顔色すぐれず、腹にも脈にも力がない方。貧血、健忘、動悸、神経過敏、 不眠などで物忘れして困るというものによく、この症状があって眠れないものに用いる。 ・・・・加味帰脾湯など 心身が疲労して眠ることのできないものに用いる。慢性病、老人の方で、夜になると目がさえて眠れないというものによい。 ・・・・酸棗仁湯など 神経過敏で不眠を訴える、一見して丈夫そうな肥満体質の方。上腹部が膨満し、胸脇苦満があり、臍部で動悸が亢進し、便秘の傾向がある場合に。 ・・・・柴胡加竜骨牡蠣湯など |
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更新日: 2013/04/08 |
まだまだ 寒さが残っています。 「冷え」対策!
上原薬局 (東京都小平市)
大雑把に捉えると「冷え症」の原因は、気血の不足(気虚・血虚)、気血水の滞り(気滞・.血・水滞)の2つに大きく分けることができます。前者はエネルギーの足りないタイプで、後者はエネルギーの循環がうまくいかないタイプです。
だるさ、気力の減退を感じる場合は、気血を補い、体を温めるような食材を使った食養生が大切です。お肉を取ることは、冷え症解決のひとつの手段です。赤みのお肉は、脂肪分も少ないので、コレステロールが気になる方にも適しています。ねぎ、にら、生姜、にんにく、唐辛子などの野菜を上手に組み合わせると、おいしく温まることができます。漢方薬では、気血を補う方剤がよく使われます。代表的なお薬は、十全大補湯、人参養栄湯などです。 気血の巡りが悪い時は、気・血の巡りをよくする方剤が効果的です。また、生活上の養生として、適度な運動(気軽な散歩)をすることや、楽しいこと(集まって楽しくお話をするなど)をすることも大切です。 |
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更新日: 2013/04/08 |