治療例集 不妊(Part14) 鹿児島 漢方専門厚仁堂薬局
29歳、女性。身長158㎝、体重45㎏。
<主訴>
不妊。25歳で結婚。一年ほど前にようやく自然妊娠したが9週目で流産。以後妊娠しない。子宮筋腫・内膜症、高プロラクチン血症などいずれもない。Hb値が下限ギリギリ。月経周期30日、経期7日間、経痛(-)、経血量は流産後やや減少、血塊(-)。基礎体温表は現在つけていないが、以前の記録では二層に分かれ、排卵はあった。病院治療は受けていない。クラミジア等の感染症の履歴もない。
ご主人の検査はしていない。
<全身症状>
寒熱:冬は冷え症で特に足が冷え、同時に冷えのぼせもある。
二便:大便2~3日に1回。便秘しがち。
小便:1日5~6回、清長。
飲食:食欲(平)
飲水(平)
全身:疲れやすい。容易感冒(-)
浮腫:無
睡眠:良好
心身:上り症
汗:手掌・腋化に汗が出やすい。緊張するとこの傾向が強く、このときのぼせ感と動悸を伴う。
胸腹:胃脘痛(-)、経前乳脹(微)
目耳鼻:特記なし
口唇・咽喉:口唇乾燥(-)
面色:萎黄・白
舌:舌質(平)、舌苔(微白)
体型:痩せ型。下腹墜脹あり。
皮膚:しもやけ(-)
<治療方針>
子宮筋腫など器質異常がないことから、機能的な不妊と考えられる。
月経の周期が安定し、排卵があることから、ホルモンに極端な乱れはないと考えられる。
漢方的には、「冷え(陽虚)」・「のぼせ(気上衝)」・「つかれ(気虚)」などが考えられる。
しかし、流産後を経ていることから、「流産による血瘀」を取り除くことが最優先課題と考え、芎帰調血飲第一加減を2~3か月ほど用い、その後状況に応じて「陽虚」「気上衝」「気虚」の治療を併用することにする。
なお、今後「基礎体温表」をつけるよう指導。さらに「腰湯」の励行も指導。
<経過>
初診・・・芎帰調血飲第一加減 14日分
2診・・・芎帰調血飲第一加減 14日分
3診・・・月経あり。周期31日目。経期7日間。経血の増加あり。それまでなかった月経中の腹満あり。月経最終日に茶色の液体が出た。
芎帰調血飲第一加減 14日分
4診・・・高温期に入ったが36.5前後。
芎帰調血飲第一加減 14日分
5診・・・月経あり。高温期は結局11日間ほぼ36.5前後で経過。経血量更に増加。月経痛?(大便排泄時に月経痛様の下腹痛が起こり排便後は消失)。「血瘀」に加えて「気虚」も治すことにする。
芎帰調血飲第一加減合補中益気湯 14日
6診・・・朝の元気が出てきた。
芎帰調血飲第一加減合補中益気湯 14日分
7診・・・月経あり。高温期は8日間でそのうち36.7以上は3日間のみだった。黄体機能不全が基礎にあるものと考え、その原因は「冷え」と判断。
芎帰調血飲第一加減合当帰四逆加呉茱萸生姜湯 14日分。
Hb値低めのことから牡蠣肉エキス併用
8診・・・高温期に入ったが36.8前後で経過。体も今までになく温かい感じ。
芎帰調血飲第一加減合当帰四逆加呉茱萸生姜湯 14日分
牡蠣肉エキス併用
9診・・・妊娠確認。
当帰芍薬散 14日分投与(妊娠中も安胎のため継続服用を指導)
牡蠣肉エキス(妊娠中も安胎のため継続服用を指導)
<考察>
芎帰調血飲第一加減の主な使用目的は①出産直後の諸症状、②出産以後に起こった諸症状の二つがある。①は、悪露が出ない・止まらない、腹痛・頭痛、抑鬱・不眠・狂乱、足腰が立たない、母乳が出ない、だど。②は「二人目不妊」、頭痛・肩こり、月経の不調、リウマチなどの膠原病など。ちなみに②でいう「出産以後」は出産してから死ぬまでをいう。流産や中絶以後に妊娠しない場合は②に該当するものとして芎帰調血飲第一加減を基本に用いている。流産や中絶時に生じた毒素(血瘀・古血)をはじめに取り除かなければ何を与えても効果は上がらないように思う。これに「疲れ」などの顕著な場合は補中益気湯を、「冷え」の顕著な場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯を合わせて用いることが多い。牡蠣肉エキスは血液(赤血球)の活性化を目標に併用した。
更新日: 2014/01/29 |
治療例集 №19 不妊(Part12) 鹿児島 漢方専門厚仁堂薬局
35歳、女性。身長162㎝、体重52㎏。 <主訴> 二人目不妊。第一子は自然妊娠。二人目がなかなかできず、病院にて、排卵誘発剤-hCG-プロゲステロンをはじめ様々な治療を二年ほど行うが結果が出ない。子宮筋腫、子宮内膜症、卵管閉塞などの器質的異常はない。ご主人の方の精子の検査結果も異常なし。基礎体温表は、二層に分かれ排卵は確認できるが、排卵後高温相への移行に4日ほどかかる。高温相は36.7前後で経過するが途中陥落する日があり、高温相持続日数は8~9日ほど。これらより黄体機能の弱さがうかがえる。 <全身症状> 寒熱:手足ともに冷える。特に膝から下が冷える。冬は靴下二枚履きで寝ている。冷えのぼせなし。 二便:大便2日1行。 小便1日5~6行、夜間1行、色は水様で量は少ない。 飲食:食欲(平)、飲水(平) 全身:平素より疲れやすい 浮腫:下肢に顕著 睡眠:良好 心神:良好 汗:平 頭・項:良好 口唇・咽喉:平 経行:周期(30日)、経期(5日間)、経痛(なし)、経血(暗赤色、血量は出産前に比べて減少)、血塊(なし)。 舌:舌質:舌質胖・嫩、舌苔微白・潤 体型:中肉 嗜好:飲酒(-)、煙草(-)、嗜好品(-) 血圧:102-64 脈拍:69/分 <分析及び治療指針> 黄体機能不全はやや見受けられるものの特に大きな矛盾点はないようである。このように、目立った病変が見当たらない不妊も『二人目不妊』の特徴の一つである。漢方的には冷え症・むくみ・倦怠・経血の減少などから水毒の貯留と血の不足が基本にあるものと考えられる。そこで、芎帰調血飲第一加減合当帰芍薬散および胎盤エキスを投与。 <経過・結果> 14日分を二回服用ののち妊娠成立。 妊娠後も当帰芍薬散と胎盤エキスは継続服用を指示。 【考察】 『二人目不妊』の治療には基本に芎帰調血飲第一加減を用い、その不足を他処方で補うようにしている。また、黄体機能不全や35歳以上の場合は胎盤エキスを配合することで治療成績が向上することを多く経験している。 |
更新日: 2013/05/16 |
治療例集 №18不妊(Part11) 鹿児島 漢方専門厚仁堂薬局
28歳、女性。身長160㎝、体重51㎏。 <主訴> 不妊。妊娠歴はない。病院にてクロミット・デュファストン療法を試みること6か月、よい結果は出ていない。子宮筋腫・内膜症・卵管閉塞など器質的病変はない。基礎体温表においては、二相に分かれ、排卵はおよそ14~16日目あたり。排卵後は高温相に移行するまで4~5日ほどかかり結果、高温相が短い。高温相は連続しているものの平均36.6℃くらいでやや低めで経過している。 <全身症状> 寒熱:手足ともに冷える。足は特につま先と足首が冷える。冷えのぼせあり。 二便:大便1日1行。 小便1日5~6行、夜間0行、色・量ともに平。 飲食:食欲(平)、飲水(平) 全身:平素より疲れやすい 浮腫:なし 睡眠:良好 心神:良好 汗:自汗の傾向 頭・項:月経前に頭痛を起こすことあり。 口唇・咽喉:唇の乾燥(+) 経行:周期(30~32日)、経期(6日間)、経痛(下腹部、開始1日目。→カイロをあてると軽減する。)、経血(暗赤色)、血塊(直径20㎜×2~3個)。 舌:舌質:赤紫、舌苔:無 体型:中肉 皮膚:しもやけが手指・足指ともにすこしずつあり。またアトピー性皮膚炎(以下AD)が左右の手掌(魚際部)にあって発赤・ほてり・かゆみがある。つまり、指先は冷えて冬季はしもやけができるが、手掌はアトピーのためにほてる。 嗜好:飲酒(-)、煙草(-)、嗜好品(-) 血圧:89-64 脈拍:68/分 <分析及び治療方針> 月経の状態(経痛、血色、血塊)、舌質赤紫、冷えのぼせ、などから血瘀が顕著にあるものと思われる。また、唇の乾燥と手掌のADとは連動して発症したもので、血瘀から派生した乾燥状態と考えられる。血瘀・冷え・乾燥を治すべく温経湯を投与。 <経過・結果> 服薬後、最初の基礎体温において、排卵後翌日には高温相へ移行。高温相も36.8で経過。結果、漢方薬服用後月経を迎えることなく妊娠成功。漢方薬服用期間28日。以後は安胎のため紫蘇和気飲を服用してゆくことにする。 【考察】 温経湯が著効を示した例である。冷え症・月経痛・冷えのぼせなどは当帰四逆加呉茱萸生姜湯の適応症状と非常によく似ているが、後者は冷えるのみでほてることはない。 |
更新日: 2013/03/25 |
治療例集 №17不妊(Part10) 鹿児島 漢方専門厚仁堂薬局
30歳、女性。身長159㎝、体重51㎏。 <主訴> 不妊。過去2回流産あり。多嚢胞性卵巣症候群(以下PCOS)と診断されている。 <全身症状> 寒熱:手冷(-)、手掌煩熱(-)、足冷(+)。 二便:大便2日1行。 小便1日5~6行、夜間0行、色・量ともに平。 飲食:食欲(平)、飲水(平) 浮腫:夕方、膝以下に少しあり。 睡眠:良好 心神:良好 汗:平 頭項:経前に頭痛あり。 胸腹:良好 腰・四肢:肩こり、右下肢のしびれあり。 目耳鼻:良好 口唇・咽喉:唇の乾燥(++) 経行:周期(32~42日)、経期(5日間)、経痛(下腹部、開始1~2日目)。経血(量:平、色:濃)、血塊(微量)、基礎体温表はつけていない。不定期の子宮出血(少量)あり。 面・舌:面色:微黄、舌質:淡・嫩、舌苔:微白、左舌辺に2㎜ほどの瘀点が2個ある。 体型:平 嗜好:飲酒(-)、煙草(-)、嗜好品(-) 血圧:105-67 脈拍:57 <分析及び治療方針> 流産後の不妊には2段階の治療戦略をとるようにしている。まず第一段階として流産によって生じた血瘀を取り除き、第二段階として適宜本来の体質に基づいた薬方を用いる。 その第一段階として芎帰調血飲第一加減をもちいることにする。 <経過・結果> ★芎帰調血飲第一加減を4か月間投与。その間、月経周期は42日目(経痛なし、血量多)→28日目(経痛あり、血量少)→45日目(経痛なし、血量多)と一定しない。基礎にPCOSがあるため排卵が安定しないものと思われる。ただ全体的には元気が出て来て、下肢の冷えも軽くなってきている。また排便も毎日あるようになってきた。 ★そこで、第二段階として、月経周期の不定・唇の乾燥・経痛から「瘀血在少腹不去」と考え温経湯を投与。14日分×2回で妊娠成功。その後は安胎のため紫蘇和気飲に変更。また、病院にてデュファストンが投与され、これと併用することとなった。その後予定より5日ほど遅れて出産。安産なり。 <考察> 流産を含めた産後の病変には芎帰調血飲第一加減が著効を発揮する。今回も二段階の戦略がうまくいった。温経湯は月経周期の異常を伴う不妊に好んで用いている。『金匱要略』に言う「崩中去血、或月水来過多、及至期不来」の応用である。また、これに「唇口乾燥」あるいは「手掌煩熱」を伴うことも多い。今回の場合は「手掌煩熱」はなかったものの「唇口乾燥」が顕著にあった。 |
更新日: 2013/03/22 |
治療例集 №16不妊(Part9) 鹿児島 漢方専門厚仁堂薬局
28歳、女性。身長156センチ、体重44キロ。 <主訴> 不妊。結婚2年。産婦人科の検査では器質的異常はないとのこと。基礎体温表は二層に別れ、月経開始14日目前後に体温陥落日があり二層に分かれることなどから排卵はあるものと考えられる(現在産婦人科にてクロミット内服およびHCG注射を受けている)。ただ、排卵後高温期への移行に4~5日かかり、結果高温期が短い。これらのことから黄体の機能が弱いことが考えられる。 <全身症状> 寒熱:手足は冷え性。冬は靴下寝。冷えのぼせ(+)。 二便:大便1日1行、。 小便1日6~7行、夜間1行、色平・量平。 飲食:食欲(平)、飲水(熱飲を好む) 浮腫:なし 睡眠:平 心神:平 汗:平 胸腹:平 腰・四肢:平 目耳鼻:平 口唇・咽喉:慢性扁桃腺肥大あり 経行:周期(28~30日)、経期(7日)、経痛(腰・下腹、月経開始1~2日目、痛みの程度は強くロキソニン使用、寒冷時増悪傾向)、経血(暗赤色)、血塊(10mm×2~3個) 面・舌:面色萎黄。舌質胖大、舌苔微白 体型:やや痩せ型 皮膚:平 血圧:116-72 脈拍:58/分 <分析及び治療方針> 冷え性、脈遅から「虚寒」が考えられる。また、強い経痛、暗赤色の経血、血塊などから「血瘀」が考えられる。多くの場合、「虚寒」と「血瘀」とは独立して存在することはなく、互いに影響しあって病態を形成している。よって本件の主たる病変は「虚寒+血瘀」であり、不妊はこれに由来するものと考えられる。 <経過・結果> まず芎帰調血飲第一加減(活血化瘀)+五積散(温経散寒)、28日分投与。結果、元気がついてきた感じがある、冷えは感覚的には減少してきたが実際の体温表では高温期の弱さはあまり改善がない、とのこと。このまま様子を見ることにし上記処方を更に4ヶ月継続服用したが妊娠にいたらず。冬に入り、四肢例(↑)、経痛(↑、カイロをあてると軽減)となる。このことから、上記処方では冷えに十分対処できていなかったものと判断し、五積散+当帰四逆加呉茱萸生姜湯に変更。この処方に変えてから「手足の冷えが俄然よくなった、おなかが温まる感じがする」とのこと。この処方に変更後、1ヵ月後に妊娠成功。 |
更新日: 2012/09/03 |