10歳代 女性
今春大学に入って1か月の時点で、彼女は「受業がつまらない」と言い、55年前の僕は「この学校は合わない」と思った。彼女は「そのうち価値ある講義が始まる」と期待を口にし、当時の僕は「こりゃあ、無理じゃ」と思った。
彼女は、血圧も測れないくらいやつれて学校に行きたいのに行けず、それでも本来的な頭脳に恵まれていて、理解度がそれをカバーしてくれて、国立大学の、それも担任の先生が絶対に無理と言い切った受験にこぎつけた。当時の僕は、浪人が決まったときからパチンコとタバコを始め、予備校も結局金を払っただけで行かなかった。
古都で新しい学生時代を始めた彼女は、オーケストラに入りチェロに挑戦するらしい。並行して軽音楽部にも入った。元々ピアノが出来るから、音楽は何でもできそうだ。当時の僕は、背が高いという理由だけで野球部に入り、中学生にも負けそうなチームでそれなりに頑張ったが、もともとやりたくもないものだったから、髪が肩まで伸びた時に辞めて、柳ケ瀬通いを始めた。
彼女はきっと大学時代を知的に過ごすだろう。多くの知識と経験を積んで社会に出るだろう。当時の僕は、大学時代を痴的に過ごし、薬以外の知恵を得た。
彼女は知性が邪魔をする不調に苦しんだ。僕は金がない不調に苦しんだ。彼女には漢方薬と言う味方がいた。僕には、下から上を見るという見方が味方した。前途洋洋を奪われそうになった若い女性を、お先真っ暗な人間がお手伝いした。「僕みたいになって、僕みたいになるな!」これが、彼女に対する僕のメッセージだったように思う。いや、現在、僕の漢方薬を服用してくれている多くの人に対するメッセージかもしれない。