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忘れ去られた石菖[1]

~石菖との出会い~

石菖との出会い

石菖という植物の存在を、現代の日本人で知る人は少ないことでしょう。
かく言う私も数年前までは知らなかったのです。

2008年、別府大学100周年記念事業「匂い・香りの文化講座」で、香りの講演を依頼されました。
その時、別府市の鉄輪温泉にある「むし湯」を体験したのが、石菖と私の最初の出会いでした。



ここでは、石菖を使った芳香浴とでも呼べる入浴が体験できます。

▲ 大分県別府市鉄輪温泉 むし湯


鉄輪温泉のむし湯は、鎌倉時代に一遍上人が伝えたとされています。
以前のむし湯は男女混浴だったそうですが、流石に現在は男女別になっています。
それぞれ4人が入れるほどの狭い石室で、まるで横穴式石棺のなかに入るようです。
石室は地熱で60~70度とかなりの高温で、初心者にとってはかなり熱く感じるかもしれません。

▲ むし湯の入り口


床には石菖が厚く敷いてあり、施設で貸し出されている浴衣を着用し、横たわると、大粒の汗が噴き出してきます。
石菖の香りは、蒸気と溶け合って、沸かしたての麦茶と菖蒲の香りをたしたような、芳ばしい香りを醸し出しています。

▲ 現在のむし湯内部 石菖の香りが立ちこめている

鼻腔の奥の方に、熱とともに届く石菖の香りに、私は魅了されてしまいました。

一度、この香りの心地よさを知ってしまうと、何度でも来たくなる香りです。

野口雨情は、「わたしゃ鉄輪むし湯のかえり肌に石菖の香が残る」という詩を詠んでいますが、ここの石菖の香りは、むし湯を出てからもしばらく鼻の奥で残像のように残っているのです。
こんな不思議な香りの残香体験は、生まれて初めてのことでした。


【文】有限会社 香りのデザイン研究所 パフュームデザイナー
別府大学客員教授
吉武 利文(よしたけ としふみ)
http://www16.ocn.ne.jp/~kagunomi/

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