病気の悩みを漢方で

１．関節の腫れ（水滞）と冷えと痛み

　体内や関節に水が停滞し､そこに寒冷刺激が加わると､関節が冷えて痛み､しびれます。この病態は寒邪（ｶﾝｼﾞｬ）と湿邪（ｼﾂｼﾞｬ：水滞ｽｲﾀｲ）が引き起こした「しびれ」なので寒湿痺（ｶﾝｼﾂﾋ）と言われます。痺は気血が通じないためしびれて痛むという意味です。

２．薏苡仁湯（ﾖｸｲﾆﾝﾄｳ）…関節の腫れ（水滞）を伴う関節痛

　薏苡仁湯は､関節や筋肉の腫れや痛みがあるときに用いられます。本方には関節に溜まった水（水滞）を軽減する麻黄（ﾏｵｳ）､蒼朮（ｿｳｼﾞｭﾂ）と薏苡仁（ﾖｸｲﾆﾝ）という利水薬（ﾘｽｲﾔｸ）が含まれています。

　さらに本方には冷えを温める散寒薬（ｻﾝｶﾝﾔｸ）の桂皮（ｹｲﾋ）と当帰（ﾄｳｷ）､筋肉痛を 緩和する芍薬（ｼｬｸﾔｸ）と甘草（ｶﾝｿﾞｳ）が配合されています。薏苡仁にも筋肉の緊張を 緩和する作用があります。

　本方と麻黄と薏苡仁が共通する関連処方の麻杏薏甘湯（ﾏｷｮｳﾖｸｶﾝﾄｳ）は､本方より初期の関節痛に適します。

３．防已黄耆湯（ﾎﾞｳｲｵｳｷﾞﾄｳ）…水太り（水滞）を伴う膝関節の腫れと痛み

　防已黄耆湯は､筋肉にしまりのない水肥りで､疲れやすく汗のかきやすい傾向がある人の関節の腫れ・痛み､むくみに適する処方です。正座できないという悩みの人に用いられます。変形性膝関節症に用いる基本処方です。

防已黄耆湯には､関節の水が溜まって痛む水滞を軽減する防已（ﾎﾞｳｲ）や白朮（ﾋﾞｬｸｼﾞｭﾂ）などの利水薬（ﾘｽｲﾔｸ）が配合されています。

　また防已黄耆湯の適応する人は､胃腸虚弱傾向（気虚：ｷｷｮ）が背景にありますので補気薬（ﾎｷﾔｸ）の黄耆（ｵｳｷﾞ）や大棗（ﾀｲｿｳ）も配合されています。白朮も補気の効能を持っています。

４．桂枝加朮附湯（ｹｲｼｶｼﾞｭﾂﾌﾞﾄｳ）…冷え（実寒）と浮腫（水滞）を伴う関節痛

　桂枝加朮附湯は､体力が低下し､全身や手足の冷えが顕著な人の関節の痛みや腫れに適する処方です。冷えを伴う三叉神経痛や関節リウマチにも用いられます。

　本方の基本は､強い冷えを軽減する附子（ﾌﾞｼ）や桂皮（ｹｲﾋ）という散寒薬（ｻﾝｶﾝﾔｸ）と､関節の腫れ（水滞）を軽減する利水薬の蒼朮（ｿｳｼﾞｭﾂ）です。附子にも利水の効果があります。

　なお､朮（ｼﾞｭﾂ）には蒼朮と白朮（ﾋﾞｬｸｼﾞｭﾂ）がありますが､江戸時代に本方を創案した吉益東洞（ﾖｼﾏｽﾄｳﾄﾞｳ）先生は､本方に蒼朮を配合したそうです。

５．冷え症に伴う関節痛に用いる３処方のまとめ

　ここで例示した３処方を適切に使い分けるためには､むくみ・腫れ（水滞）に加えて全身の貧血傾向（血虚ｹｯｷｮ）､疲労傾向（気虚）､顕著な冷え（実寒）という漢方医学の病態を判断することが必要になります。

　３処方の中で､桂枝加朮附湯が最も冷えて痛みの強い病態に用いられます。防已黄耆湯は､汗かきで水肥で疲労を感じる傾向の人の膝の痛みが使用目標になります。

　このような使いわけをするために､冷えと関節痛以外の､疲労感､皮膚の湿潤や乾燥・色つや､疲労感､食欲の程度などをくわしく話してください。