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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

ノロウイルス下痢の漢方


1.ノロウイルス下痢(ウイルス感染性胃腸炎)

 ノロウイルス下痢は、嘔吐下痢(吐き下し)腹痛軽度の発熱を伴うノロウイルス感染による胃腸炎です。
 ノロウイルス感染の吐き下しは数日で軽減します。ノロウイルスに対する特効薬はありませんので、水分補給をしながら安静にして経過を見てください。

 激しい発熱と腹痛と吐き下しが数日以上続く場合は食中毒などの細菌感染症が疑われます。必要な抗菌薬を選んでもらうために医院を受診してください。

2.ノロウイルスの吐き下しに用いられる主な漢方方剤

 ノロウイルスによる吐き下しに用いられる主な方剤を図1にまとめました。便臭腹痛など随伴症状に応じて使い分けます。

 この中では五苓散(ゴレイサン)が初期の吐き下しの第一選択薬です。腹痛便臭のある下痢には黄芩湯(オウゴントウ)が適します。

3.五苓散(ゴレイサン):初期の吐き下し

 五苓散は、初期の嘔吐と便臭の強くない下痢に用いられます。口渴があり水を飲むと、噴き出すように嘔吐します。水逆(スイギャク)といいます。
 五苓散は、水(または重湯 オモユ)に懸濁させて少しずつ服用します。嘔吐のきっかけにならないようにする工夫です。

 本方は腸管内に停滞した水分(水滞 スイタイ)を血管内に吸収する4種の利水薬を含みます(図2)。

 投与後の次の一手では症状に応じて他剤と併用されます(図3)。

 なお五苓散は、熱中症や夏ばての非感染性の吐き下し霍乱 カクラン)にも用いられます。頭痛口渴小便の少ないことが目標です。霍乱を参照してください。

4.葛根黄連黄芩湯(カッコンオウレンオウゴントウ):初期の熱を伴う下痢

 は、初期の発熱、嘔吐、やや便臭のある下痢に用いられます。首筋から肩にかけての筋肉痛心窩部のつかえを伴う例に適します。

 本方は、方剤名の3生薬と甘草を含む方剤です(図4)。エキス製剤では葛根湯黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)を少量併用して代用します。

5.黄芩湯(オウゴントウ):亜急性期の腹痛、裏急後重を伴う下痢

 は、亜急性期の嘔吐、腹痛を伴い便臭のある下痢に用いられます。軟便であっても排便困難があり排便後のスッキリ感に乏しく残便感があり腹部が絞るように痛みます。裏急後重(リキュウコウジュウ:しぶり腹)といいます。

 本方は腹痛を軽減する芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)を含みます(図4)。本方の適応領域を広げるために、
 ・水様性下痢が顕著な時には五苓散平胃散(ヘイイサン)を併用し、
 ・吐き気には小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)と併用されます。

 胃腸炎に伴う炎症の程度は、五苓散葛根黄連黄芩湯黄芩湯の順に顕著になります。

6.ノロウイルス下痢の亜急性期以降に用いられる方剤

:ノロウイルスによる急性期の吐き下しが過ぎた亜急性期には和解剤(ワカイザイ)で体調を整えます。

(ハンゲシャシントウ)は、心窩部つかえ、吐き気、食欲不振、腹が鳴る軟便下痢のある状態に使用します。
過敏性腸症候群(2)胃食道逆流症(2)を参照してください。

(サイレイトウ)は、五苓散小柴胡湯(ショウサイコトウ)の合剤です。嘔吐が軽減し微熱が残り、吐き気食欲不振脇腹がつかえる時に使用します。

:平素から虚弱な人は吐き下しによって体力が低下します。
 ・食欲不振、胃もたれには、六君子湯(リックンシトウ)
 ・体力低下と下痢が続くようなら啓脾湯(ケイヒトウ)で体調を整えます。

 下痢後の倦怠感や手足のだるさには、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)で虚弱状態を改善します。

ちょっと一言:(トピックス)

ノロウイルスの吐瀉物の処理

 ノロウイルスは感染後1週間以上も便中に排出されますので二次感染予防が大切です。

・次亜塩素酸ナトリウムで消毒してください(泡ハイターなどの漂白剤)。
 アルコールや逆性石けんは消毒に適しません。
吐瀉物の付着した食器は、85-90℃のお湯で約90秒間加熱してください。
吐瀉物の付着した衣服は、次亜塩素酸ナトリウムで消毒後に洗濯し、
 スチームアイロンで加熱してください。

(2022年8月4日 改訂公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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