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あーだ、こうだの爽快!植物学
- 「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」
(万葉集巻8第1537番)- 「萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴 朝がほの花」
(万葉集巻8第1538番)
山上憶良(やまのうえのおくら)が「万葉集」で詠んだこの歌2首が「秋の七草」の始まりです。
秋の七草?安芸の七癖?
私の娘に「秋の七草は?」と聞いたら、「それ何、七癖?」なんて返ってきました。
ちなみに、「春の七草は?」と聞くと、
「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ春の七草」
と、間髪を入れず答えました。
秋の七草となると最初に「え~っと」が入らないにしても、
「萩の花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花、また藤袴、朝がほの花」
万葉集にみられる順で、言える人は何人いるでしょうか。
私なんぞ、言い終わるまでに、どこかで「え~っと」がはいってしまうか、思い出せない時すらあります。
秋の七草は、日本人の心と感性 侘びさびの世界
七草粥として、日本の行事に、合せて用いられてきた春の七草とは対照的に、秋の七草は控えめな花たちを愛で親しんできた日本人の心、行く花の季節を惜しむ日本人の感性が作り出したもので、秋咲く花全てに対する名残りの気持ちを、七つの草を代表させたのでしょう。
侘びさびの日本的世界であり、その意味では、日本人の生活に、個々に深くかかわってきた植物です。
それを証拠に、源氏物語でも親しまれています。
萩の花(はぎのはな)
草ではないようにも思いますが、それはそれとして、「秋に草」と書き、秋を代表する花です。
萩と名のつく植物は数多いがここで言われる萩は、山萩か。
葉を落とした枝は束ねてホウキギ同様、箒(ほうき)にしたといいます。
根は「夜関門」といい咳止め、去痰、胃の痛み、下痢などに用いた。
尾花(おばな)
ススキの穂を動物の尾に見立てて、尾花とか。
野山で手足を切ったことが、数限りなくあります。
屋根を茅(かや)で葺く(ふく)とか、家畜の餌として利用することが多かったため、集落の近くに定期的に刈り入れをするススキ草原が見られました。東京の茅場町も昔はススキの原だったのかもしれません。
このところ茅葺屋根も少ないのに、やたらススキ草原が目立ちます。
月見には欠かせないが、時にフクロウにも化けております。
ススキはイネ科の植物で、同属の別種もいくつかありますが、ひょっとすると全てススキで済ませているかもしれません。
- 水辺に生えて、綿毛が純白のものにオギ。
- ススキよりさらに大きく、堤防などに大きな株を作るものにトキワススキ。
- 染色に使われるカリヤス、カリヤスモドキ
などが数種知られています。
根茎を利尿薬として用いたとある。
葛花(かっか)
クズは、わがもの顔にはびこり、つる性で絡みついたら樹木を枯死させるマウント植物です。
好まれることは少ないですが、昔から葛餅、葛湯などとして利用されてきました。
地下部から晒してできた葛でんぷんは風味がよいため製菓用として重宝がられます。
紫紅色の、マメ科特有の蝶形花だけを見てクズを言い当てる人は少ない。
葛花は酒を出すとあり、そのため二日酔い止めに飲む人もいます。
葛花の薬用酒を飲むと、悩みは解決するかもしれません。
漢方では、地下部は有名な葛根湯に処方される。
背中や首筋が硬くなって、無汗で寒気を感じ発熱がある風邪症状のときによく出される処方であるが、肩こり症にも汎用される。
そのため「♪葛根お肩を叩きましょう♪」と、教えている。
撫子(なでしこ)
カワラナデシコの可憐で、上品な花が草原になびいている姿を見ると忘れがたい。
カワラといっても河原付近にしか生えていないわけではない。
中国から渡ってきた石竹などをカラナデシコと呼び、区別する為にヤマトナデシコと呼ばれたが、花の可憐さから、物腰柔らかい古風な日本女性を形容するようになりました。
このごろ山間では数少なくなってきたが、町中では、ひょっとすると絶滅危惧種である(?)。
源氏物語では、撫子は幼児のことらしい。
漢方では全草を瞿麦(くばく)、種子を瞿麦子といい、むくみや高血圧に煎じて飲む。
女郎花(おみなえし)
オミナエシの花を秋風の中、遠くから眺めるにはいいが、咲き乱れていたり、花瓶にでもいけようものなら、大変。鼻つまみものである。
その訳は、オミナエシの別名は敗醤といい、つまり醤油の腐ったようなにおいということらしい。
醤油が腐るかドーかは知らないが、さぞかしであろう。
古い時代、黄色の花を粟に例え、粟飯は女が食べるとしてオンナ飯がオミナ飯、オミナエシ。よく似たオトコエシの白い花を白米に例えて、オトコ飯からオトコエシ。
時代を反映してか、野山にはオトコオミナエシもあるとか。オミナ(ヲミナ)女、エシ(ヘシ)減しで、あまりにも花が美しいので、女性の美しさを減らす。と考えては。
根は敗醤根といい、消炎、排膿作用があるという。
藤袴(ふじばかま)
キク科フジバカマは中国原産とも言われますが、万葉の昔から日本人に親しまれてきました。
生草のままでは無香ですが、乾燥すると茎や葉はクマリンという桜餅に似たさわやかな芳香があり、お湯に入れたりします。
中国では、唐の時代には香草として重用された為、沢蘭とか、蘭の別名もあります。
かつては日本各地の河原などに群生していましたが、今は数を減らし、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧II類(VU)に指定されています。
地上部は、お風呂に入れると、かゆみをとるほか、糖尿病に用いたとある。
朝がほの花(あさがほのはな)
“朝がほの花”は古来より、桔梗であろうと言われています。
園芸植物として親しまれているので、日本に自生があるというと驚かれる。
それほど、山野では少なくなってきています。
古書にはアリフキという名があり、栽培してみたら納得します。
根元にアリの山が必ず数個できます。
韓国ではトラジの名で親しまれ、白花が好まれたようです。
「トラジ、トラジ」と歌いながら採集していたのです。
アリランとならぶ有名な歌にもなっているほどで、食用にもされています。
漢方では、根を去痰や排膿を目的に処方します。
扁桃炎などで、のどが腫れて痛むときや痰を伴う咳に桔梗湯。
蓄膿症や化膿症には排膿散。
誰が考えたのか、「ハスキーなおふく(ろ)」とか「あなたの(オスキナフクハ?)」とか、秋の七草を憶える語呂も紹介されているが、それが覚えられるようだったら、万葉集の歌を思い出すのに苦労はしない。
「夏の七草」や「冬の七草」をとりあげるとしたら、どんな植物が並ぶのだろうか。
山萩を街中に植えたら追剥そんな馬鹿な。
無駄を省け 叫ぶ私は 腰脂(詠み人:山の飢えのオクラ)