夏場に多い胃腸のトラブル
「胃腸には○○漢方胃腸薬」というテレビコマーシャルをよく見かけます。
コマーシャルを見ていると、胃腸薬にはこれがすべてで、漢方だから安心と言うイメージを受けます。
果たしてそうでしょうか。
○○漢方胃腸薬と言っている製品の主成分は、ほとんどが「安中散」と言う処方です。
安中散には消化を助けるような生薬が何も入っていません。
胃腸病と言っても状態は様々で、胃の粘膜が荒れて炎症を生じたり、潰瘍を生じているものもあります。
その反対で、冷えて消化機能が減退して、胃液の分泌の少ない方もいます。心配事があると食欲が無くなるという経験をした方も多いと思いますが、過度のストレスは胃腸の働きを減退させます。
したがって、○○漢方胃腸薬がすべてに効果があるとはいえませんし、反って副作用を生じる場合がありますので、注意が必要です。
暑いからと言ってビールを飲むのは快適ですが、飲みすぎて吐気や胃痛・下痢で悩まされた場合、漢方ではどのように考えるのかを判りやすく説明してみましょう。
東洋医学では、西洋医学で言う胃腸のことを「脾胃
(ひい)」と言います。「脾」は消化機能のことで、お腹がすいた、何か食べたい、食べて美味しいと感じるのは脾の働きで、食べたものを完全に消化して吸収し、その水穀精微な栄養のエッセンスを肺に送り届ける働き(上行性)が脾の重要な働きなのです。
脾は過度の湿気を嫌い、冷えると働きが悪くなります。
「胃」は食べたものの初期消化をして、十二指腸に送り、食べ滓を便として排泄するように、下行性の働きがあります。
胃は熱を帯びやすく、過ぎると炎症を起こし、これを表層性胃炎と呼びます。
中医学では、「脾は升精をつかさどり、胃は降濁をつかさどる」と言います。
暴飲暴食(酒の飲みすぎ)の場合、冷たいもの、水分の過多により脾の働き(升精)が損なわれ、下痢になります。
胃の働き(降濁作用)も損なわれ悪心・嘔吐の症状が現れます。
アルコールの飲みすぎで、胃粘膜が荒れ、胃痛を生じます。
漢方薬は、冷えを温めるために「
乾姜(かんきょう) 」を、炎症を抑えるために「
黄連(おうれん) ・
黄芩(おうごん) 」を、過度な水分(東洋医学では痰飲
(たんいん)と呼ぶ)を排泄するために「
半夏(はんげ) 」を、暴飲暴食で損なわれた脾の働きを回復させるために「
人参(にんじん) ・
大棗(たいそう) ・
炙甘草(しゃかんぞう) 」を使用して、脾胃の調和を回復するように致します。
以上のように、東洋医学の治療は「脾胃の調和」を図ることを目標に致します。
ここで使う処方は
『半夏瀉心湯(はんげししゃしんとう)』 と言います。
惠木 弘・著 『快適な夏の過ごし方 四季の養生法』より