病気の悩みを漢方で

１．やせと栄養不足傾向の高齢者のフレイル（frail：虚弱）

　フレイル（frail、frailty：虚弱）は、加齢とともに心身の活力が低下した虚弱状態のことです。
　フレイルは図１の点線で囲んだように、自立して生活できている健常状態と要介護状態の中間段階です。やせと栄養不足を伴う高齢者の健康寿命を延ばす予防医学の立場から、日本老年医学会によって2014年に提唱された新しい概念です。

　図１の左向きの緑色の矢印は、栄養や運動を見直し社会参加を増やすことでフレイルから健常状態に回復できることを意味しています。

２．３種類のフレイル：身体的､精神的､社会的フレイル

　フレイルには身体的､精神的､社会的フレイルの３種類があり､認知症や要介護状態の前段階の病態です（図２）。

　1）身体的フレイルは体重が減少し筋肉量･筋力や生活活動量が減少し身体能力の低下した虚弱です。この状態は加齢に伴うサルコペニア（筋肉減少症）やロコモティブシンドローム（ロコモ：運動器症候群）と関連しています。

　2）精神的フレイルは、抑うつ傾向で意欲や判断力が低下した状態です。
　3）社会的フレイルは、精神的フレイルと関連して社会的との関わりが減って引きこもり社会的に孤立する状態です。
　精神的､社会的フレイルは軽度認知障碍（MCI）から認知症を経て要介護状態につながります。MCIは健常者と認知症の中間段階で物忘れがあるが日常生活には支障がない状態です。認知症の漢方（４）軽度認知障碍を参照してください。

３．健康寿命を延ばすためのメタボとフレイルの管理

　健康寿命を延伸するためにはメタボリック・シンドローム（メタボ：内臓脂肪症候群）とフレイルの管理が重要です（図３）。
　肥満した中年期のメタボでは「過剰を減らす」管理が行われます。
　一方、「やせて栄養不足」を伴う高齢期のフレイルでは「不足を補う」管理が必要になります。

　高齢期になっても「過剰を減らす」メタボ管理を継続する必要のある人もあれば、やせてきて「不足を補う」フレイル管理に変更するべき人もあります。
　健康寿命を延伸するためには、個人の生活習慣や行動様式に起因する病態に対応する必要があります。

４．フレイル管理に用いられる主な生薬

　３種類のフレイルを、漢方医学の目で診ると、
　・疲労倦怠感、だるさ、食欲不振には、人参（ﾆﾝｼﾞﾝ）、
　・顔色不良で皮膚の乾燥した栄養不足状態には、熟地黄（ｼﾞｭｸｼﾞｵｳ）、
　・不安、不眠や抑うつ感には、遠志（ｵﾝｼﾞ）や柴胡（ｻｲｺ）、
　・足腰の衰えや冷えによる運動器系の機能低下や痛みには、附子（ﾌﾞｼ）
などの適応になります（図４）。

　フレイルの漢方医療では個々の症状に応じて図４に示した生薬を核としてその他の生薬を組み合わせた方剤が用いられます。
　次回以降に具体的な方剤を解説します。