健康には減塩しなさいとよく聞かされます。
塩は全くの悪者にされてしまっていますが、果たしてそうでしょうか。
病院では、危篤の病人に点滴している「リンゲル液」と言うクスリがありますが、これは約1%の塩水です。
つまり、塩化ナトリウムの溶液に少量の塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどを加えた液です。
この液でまさに生命の火が消えようとしている重病人が救われるのです。
こういう現実があるにもかかわらず、塩は悪者にされています。
実は、平成九年専売制が廃止されるまで、手に入る塩と言えば、専売局の食卓塩しかありませんでした。
これはほとんど純粋な塩化ナトリウム(99.7%)という化学薬品です。
食養で言う塩は昔から用いられてきた海水塩すなわち自然塩で、専売局の食卓塩と混同されていたのです。
現在日本で作られている塩は、海水を煮詰めて作る「膜濃縮せんごう塩」で世界一安全で綺麗な塩になっておりますが、塩化ナトリウムは99.2~7%で、自然塩として売られているものは93~95%です。
人類の先祖は海から生まれてきたと言われています、
人間の血液中には0.85%の塩分が含まれ、PH(ペーハーと言って、酸性、アルカリ性の度合いを示す数値。7が中性でより少ないと酸性)7.4の弱アルカリ性です。
また、羊水も塩水です。
太古の海水にそっくりだと言います。
この塩水の中で胎児が育ちます。
生命を次の代に引き継ぐ胎児は最高の環境の中で育てられるはずで、それが塩水なのです。
高血圧には減塩せよと言われていますが、確かに食卓塩(精製塩・塩化ナトリウム99.5%)をとると血圧が上がります。
しかし、自然塩をとると血圧は下がるし、低血圧は上昇し正常値になると言う実験があります。
精製塩と言うのは食物ではなくて有害な「化学薬品」と言う認識が食養の世界に広まっています。
人間が普通食べている食物には純粋なものは一つもありません。
こうした食物に順応して出来ている体には、自然にない純粋な物質をとっても、体にはそれに順応する力がありません。
様々な副作用が起こるのが当然で、精製塩は毒性を持っているとも言えるでしょう。
白砂糖・白米を含めて食養では、三白追放と言って忌み嫌っています。
血液の酸性化が悪いことは良く知られていますが、これを弱アルカリにするには自然塩を取れば良い事は、あまり知られておりません。
特に冬季は、体を陽性化するためにも、もっと用いたい調味料です。
東洋医学では塩の味を「鹹(かん)」と言います。鹹味の食品は、腎・膀胱と骨・歯を丈夫にし、肺・大腸を助ける薬能があり、小便・汗などの体液の排泄には欠かせない要素です。
一番合理的に余分の体液を排泄できるのは小便ですが、それには一リットルの排泄に七グラムの食塩が必要です。
口から余分な水分を取ったときは、咳・くしゃみなど皮膚や呼吸器から塩分がなくても気体として排泄できる手段で逆流(尿から排泄しないで身体上部から期待として発散すること)しなければならないことが、忘れられています。
頭痛持ちや鼻炎・痰・咳などは水分の取りすぎと塩分欠乏のための逆流現象なのです。
日本は、欧米のような大陸性気候とは異なって、年中湿度の高い気候ですので、日本漢方では体内の余剰水分を「水毒(すいどく)」と言って、漢方での治療対象としています。
「水を良く飲め」などと水分摂取を推奨している人もいますが、特に冷たい水は陰性で、体を冷やすばかりでなく、水分排泄のために体に大きな負担をかけることにもなりますので、水分摂取はほどほどにしたいものです。
ケンブリッジ大学のホジキン教授らの実験では、動物の神経や筋肉の活動性は、それらの細胞を浸している体液(細胞外液)のナトリウム(塩)の濃度に左右され、生体内にナトリウムが不足すると、神経の活動が遅れ、筋肉の収縮力が弱まることが近代医学的にも実証されています。
これは塩分の不足した人は、行動がスローになり、筋肉の活動が低下し、頭脳の働きがにぶり、しまりのない人になることを示すもので、塩分には人の心や体も引き締める作用のあることが判っています。
解説:惠木 弘(恵心堂漢方研究所所長)