東洋医学が明かす脾胃と肺と「元気」の密接な関係
私はグルメの過食による胃のトラブルの解決には、「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」をおすすめしています。
安中散が「気(き)」をめぐらせて温めるという2つの作用の処方であるのに対して、半夏瀉心湯は温める、冷やす、そして気をめぐらせるという3つの作用があるからです。
胃腸薬になぜ3つの作用がひつようなのでしょうか。
東洋医学では胃腸を「脾胃(ひい)」という概念でとらえます。
脾はものを代謝(消化)させてエネルギーを作る役目を持つ部位で、これを「臓(ぞう)」といい、胃はそのエネルギーを蓄えたり運んだりする役目の部位で、これを「腑(ふ)」と言います。
脾は五臓の一つ、胃は六腑の一つで表裏の関係にあります。
東洋医学の胃は現代医学でいう胃と同じものですが、脾は現代医学でいう脾臓を指すのではなく、姿かたちの見えない「胃腸の黒子(くろこ)」のようなものと考えてください。
脾胃は生理的に正反対の働きをしています。
つまり、脾は気を上部の肺のほうへ運ぶ働きを、胃は気を下の方へ運ぶ働きをしているのです。
ですから脾から出る気は上に上昇するのが正常で、食物から得たエネルギーを肺に運びます。
肺はそのエネルギーを原料にして呼吸をし、酸素を取り入れて「元気」の原料とするのです。
一方、胃から出る気は下に向かって消化した滓(かす)を運び、便として排泄させます。
脾胃はまさに、現代医学でいう胃腸ですが、東洋医学はこれを単なる消化器官としてとらえるのではなく、気の流れと合わせてとらえるところに特徴があります。
すなわち、我々の体は気が動くことによって成り立つとするのです。
胃腸を健全に保つことがいかに大切か、お分かりいただけると思います。
ここで、少し気について解説しましょう。
気はエネルギーと同じ概念ですが、上に昇るのが正常な気もあれば下に降りるのが正常な気もあり、それぞれが逆の働きをすると体に異常が起こると考えられています。
そして気には衛気と栄気の2種があるとされ、衛気は体表や血管の周りで活躍し、外からの侵入者を防ぐ免疫的な働きをしていると考えます。
一方栄気は、血管の中に入って血液になる気で、体の中の全細胞に栄養を与える気ととらえています。
解説:惠木 弘(恵心堂漢方研究所所長)