鳴り響くほら貝の音 山伏姿の修験者 一歩そしてまた一歩 山道を行く。
吉野地方は山岳信仰の聖地 大峰山系に抱かれた歴史の故郷でもある。
殊に山上ヶ岳は今なお女人禁制を貫く厳しい修行の山であり
体をロープで結えて命を確保し切り立った頂近くから 
はるか真下を覗いて一心に拝む「西の覗き」行は実に恐ろしい。
私も30年以上前に体験したが、未だに鮮明に記憶に残っている。

そんな修験道の開祖 役行者(えんのぎょうじゃ)が民を救うために
創製したとされるのが吉野に自生していたミカン科の落葉高木 キハダの樹皮を
煎じたエキスを主成分にした陀羅尼助丸(だらにすけがん)である。
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                        旅先に携行するのに便利な包入りタイプもある

陀羅尼経というお経を読むとき この丸薬を口に含んで眠気防止に使ったという事から
陀羅尼助丸という名前がついたとか。
このキハダ 漢方では黄柏(おうばく)といい、漢方的には熱を冷まし解毒するとされる。
その薬効は苦味健胃 整腸 抗炎症作用 抗菌作用 抗潰瘍作用 などが報告されている。

陀羅尼助丸は若いころ暴飲暴食の際、結構お世話になった思い出があり、
今なお子供達には健胃整腸の目的で少量継続服用させている。
吉野ではそれこそ一軒にひとつ置いてあるというくらいメジャーな和漢薬である。
少なくとも私は副作用報告を聞いたことなく、旅行代理店の人曰く、
「海外にも持って行けてお客様の要請に安心して渡せるのがいいです」
 
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                            刻んで煎じ薬調剤用にした黄柏

そして黄柏はというと黄色の染色材料としての顔もあり
染色して写経用紙や保存文書に用いたり、
外用薬として粉末を酢などで練って布に延ばし
打ち身に使ったりと用途はいろいろある。

吉野固有のものではないキハダではあるが、
こうして見ていくとやはり吉野と切っても切れない縁なのだと思う生薬である。

 

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