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病気の悩みを漢方で

辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)
1.辛夷清肺湯(シンイセイハトウ)名の意味
辛夷清肺湯の名は、辛夷(シンイ:コブシの仲間のつぼみ、図1)が主薬であることを示しています。
辛夷は、鼻づまり(鼻閉)を軽減する通鼻竅薬(ツウビキョウヤク)です。
方剤名の清肺は、肺熱の症状(粘稠性鼻汁・喀痰を伴う鼻閉や咳嗽)を冷ます薬能です。
辛夷清肺湯の配合生薬は、辛夷以外は赤字の清熱性の生薬です。清肺に関わるのは、辛夷と図2下段右側の3生薬と、上段5種の清熱薬です。
このことから方剤名は、本方が熱証の粘稠性の鼻汁や喀痰に適することを示唆しています。

2.辛夷清肺湯の適応
辛夷清肺湯は、粘稠性鼻汁、鼻閉、後鼻漏を伴う慢性鼻炎、副鼻腔炎、鼻茸(ハナタケ)に用いられます。頭痛や湿性咳嗽を伴うこともあります。鼻の周りに熱感のある病態に適します。
副鼻腔炎(2)や花粉症(2)や鼻水と鼻づまりを参照してください。
2.1)辛夷清肺湯の鼻閉、鼻漏への使用報告をまとめました。
・慢性副鼻腔炎の鼻閉、鼻漏を蛋白分解酵素製剤より有意に改善。
ランダム化比較試験。
耳展., 1984; 27補3: 301-310
・副鼻腔炎の症状を緩和。鼻茸を縮小。
耳鼻臨床, 1994; 87: 561-568
・副鼻腔の真菌塊を排出(上顎洞の洗浄と併用)。
日東医誌., 2021; 72: 124-129
・好酸球性副鼻腔炎の副鼻腔粘膜浮腫を軽減(ロイコトリエン阻害薬と併用)。
日耳鼻免疫アレルギー感染症会誌., 2024; 4: 61-66
辛夷清肺湯が、副鼻腔炎患者の鼻粘膜粘液繊毛輸送能を改善した臨床薬理研究があります(耳鼻臨床, 1992; 85: 1333-1340)。
2.2)辛夷清肺湯は、その他の領域でも活用されています。
・アレルギー性鼻炎の症状軽減。
Prog. Med., 1995; 15: 2617-2618
・副鼻腔気管支症候群の後鼻漏、湿性咳嗽を軽減。
医療, 1996; 50: 97-101
・慢性副鼻腔炎を合併する反復性中耳炎を軽減。
日耳鼻., 2015; 118: 78-79
・副鼻腔炎を伴わない透明な後鼻漏を軽減。
耳鼻と臨床, 2024; 70: 243-247
副鼻腔気管支症候群は、慢性副鼻腔炎症状の粘稠鼻汁、後鼻漏、鼻閉と、下気道炎症の喀痰を伴う湿性咳嗽を合併した病態です。
3.辛夷清肺湯の関連方剤
副鼻腔炎の治療は、図3のように症状の経時変化(病期)に応じて方剤を使い分けます。

3.1)葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)は、かぜ初期に用いられる葛根湯(図4下段の※を付した7生薬)に、頭痛を軽減する川芎(センキュウ)と鼻閉を軽減する辛夷を加味した方剤です。漢方薬名の意味:葛根湯加川芎辛夷を参照してください。

本方は、葛根湯を基本にすることから図3の3方剤の中で初期の粘稠鼻汁、鼻閉に適します。かぜ(5)や鼻水・鼻づまりを参照してください。
本方が、感冒様症状後の鼻閉塞を改善した報告があります(日東医誌.,1995: 46: 83-89)。
3.2)荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ:一貫堂方17味)は、感染症にかかりやすい体質(腺病質、解毒証体質)の改善を目指して創案された日本独自の方剤です。補血清熱剤の温清飲(ウンセイイン)が基本です(図5)。漢方薬名の意味:温清飲を参照してください。

荊芥連翹湯(一貫堂方17味)は、慢性副鼻腔炎患者の後鼻漏、鼻汁量(耳鼻臨床, 1993; 86: 1499-1508)や、花粉症に続発した副鼻腔気管支症候群の湿性咳嗽(漢方の臨床, 2024; 71: 651-661)を改善した報告があります。副鼻腔炎(2)を参照してください。
荊芥連翹湯は、多数の生薬を含み皮膚科領域のにきびや、耳鼻咽喉科領域の副鼻腔炎など慢性の炎症性病態に適することが辛夷清肺湯との相違です。にきびや鼻水・鼻づまりも参照してください。
本方と葛根湯加川芎辛夷と荊芥連翹湯は、漢方薬名の意味:葛根湯加川芎辛夷でも比較しています。
3.3)清肺湯(セイハイトウ)の方剤名は、辛夷清肺湯に類似していますが、図6に示すように共通生薬は多くありません。
本方は、鼻症状よりも咳嗽に用いられます。多量の粘稠痰を伴う慢性の湿性咳嗽や、咽の痛みに用いられる第一選択薬です(日東医誌., 2006; 57: 661-667)。かぜ(3)やCOPDを参照してください。
本方は、清肺を担う4生薬(図6桃色枠内)や、止咳薬と化痰排膿薬の(ケタンハイノウヤク)を多く含み熱痰(粘稠痰)を伴う湿性咳嗽に適した内容になっています。漢方薬名の意味:清肺湯を参照してください。


辛夷清肺湯の口訣(抜粋)
・本方は、肥厚性鼻炎、鼻閉塞、鼻茸、上顎洞化膿症に応用されます。葛根湯加川芎辛夷より熱毒の強い病態に適します(三谷和合)。
・本方は、肺に熱があり、粘稠な痰が咽喉にからんで咳や咽痛を呈する場合や、膿性の鼻汁、鼻閉、頭痛、口渴に用いる(髙山宏世)。
・本方は、慢性副鼻腔炎の代表的治療薬である。鼻閉、膿性鼻漏、嗅覚障碍、頭重感に適する。実践的にはマクロライド系抗菌薬と併用する(稲葉博司)。
2025年11月10日 改訂公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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