病気の悩みを漢方で

１．夜間頻尿の発症要因と治療の概要

　夜間頻尿は排尿のために夜間に目覚める回数が多く困っている状態です。
50歳代の約半数の人が２回以上の夜間頻尿に悩んでいるそうです。

　夜間頻尿は多様な要因で発現するので治療法も様々です（図１）。

　漢方医療は、夜間頻尿に随伴する全身症状を踏まえて適方を選びます。
加齢による虚弱や冷えを軽減する補腎剤（ﾎｼﾞﾝｻﾞｲ）と散寒剤（ｻﾝｶﾝｻﾞｲ）が頻用されています。

２．補腎剤（ﾎｼﾞﾝｻﾞｲ）： 加齢に伴う泌尿器系の衰えによる夜間頻尿

2.1）牛車腎気丸（ｺﾞｼｬｼﾞﾝｷｶﾞﾝ）は、疲労倦怠感、腰や四肢の冷えや痛み、下肢のむくみやしびれ感を伴う人の夜間頻尿に用いられます。

　本方は、加齢に伴う泌尿器系の衰え（腎虚 ｼﾞﾝｷｮ）に用いられる八味地黄丸（ﾊﾁﾐｼﾞｵｳｶﾞﾝ）に、牛膝（ｺﾞｼﾂ）と車前子（ｼｬｾﾞﾝｼ）を加味した方剤です（図２）。
排尿異常の漢方（１）前立腺肥大症を参照してください。

　両方剤は共に男性の前立腺肥大症の初期症状としての頻尿に使用されてきました。女性の頻尿にも用いられています。

2.2）清心蓮子飲（ｾｲｼﾝﾚﾝｼｲﾝ）は、上記２方剤と同様の排尿異常に加えて、日頃から胃腸が弱い傾向の人に適します。
漢方薬名の意味：清心蓮子飲を参照してください。

３．散寒剤（ｻﾝｶﾝｻﾞｲ）： 冷え症とむくみを伴う夜間頻尿

3.1）当帰芍薬散（ﾄｳｷｼｬｸﾔｸｻﾝ）は、冷え症、貧血傾向、頭重、めまい、動悸、むくみを伴う月経異常や更年期障碍の女性の頻尿に用いられます。

　冷えが顕著で頭痛、腹痛、腰痛を伴う頻尿には、関連する当帰四逆加呉茱萸生姜湯（ﾄｳｷｼｷﾞｬｸｶｺﾞｼｭﾕｼｮｳｷｮｳﾄｳ）が適します。
婦人更年期障碍の漢方（10）頭痛を参照してください。

　冷えによる頻尿に関しては、不眠の漢方（４）安眠を妨げる症状も参照してください。

3.2）苓姜朮甘湯（ﾘｮｳｷｮｳｼﾞｭﾂｶﾝﾄｳ）は、腰から下肢にかけて冷えと痛みがある人の頻尿に用いられます。
　本方は、乾姜（ｶﾝｷｮｳ）と甘草（ｶﾝｿﾞｳ）の薬対で温める方剤です（図３）。

４．睡眠障碍（中途覚醒）で誘発される夜間頻尿

4.1）抑肝散加陳皮半夏（ﾖｸｶﾝｻﾝｶﾁﾝﾋﾟﾊﾝｹﾞ）が、不眠による 夜間頻尿を軽減した症例報告があります。

　本方は、夜間頻尿に頻用される方剤ではありませんが、いらだちを伴う不眠（入眠障碍や中途覚醒）に使用したところ、夜間頻尿も改善されたとのことです。

4.2）柴胡桂枝乾姜湯（ｻｲｺｹｲｼｶﾝｷｮｳﾄｳ）も、神経質で過緊張、不安、動悸、息切れなどの自律神経失調症状を伴う不眠に用いられます。熟眠障碍による夜間頻尿への効果も期待できます。

　両方剤に関しては、婦人更年期障碍の漢方（11）不眠も参照してください。

　なお図１に示したように夜間頻尿は多様な要因によって発現します。
漢方医療では、補腎剤が第一選択薬ですが、全身の冷え、睡眠障碍、むくみ、疲れなどに対応し、結果的に夜間頻尿も軽減することを目指します。
　そのため人参湯（ﾆﾝｼﾞﾝﾄｳ）や補中益気湯（ﾎﾁｭｳｴｯｷﾄｳ）も使用されることがあります。