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病気の悩みを漢方で

夏の悩みの漢方
1.夏の悩み(諸症状)の漢方治療
夏(夏季)に起こる熱中症、夏ばて、夏やせ、夏かぜなどの悩みを軽減する主な漢方方剤を考えます。
熱中症には熱感と口渴を軽減する対症療法に適した方剤を使用します。その後の夏ばてなどには消化吸収機能の低下を軽減する補益剤(ホエキザイ:図1黄色枠内の方剤群)を使用します。

2.軽い熱中症

2.1)熱感、ほてり、口渴
白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)は、軽度熱中症の熱感、ほてりと、発汗後の口渴(津液不足)を軽減する方剤です。熱中症(1)を参照してください。
本方は、清熱薬(図2上段2生薬)と、補気生津薬(ホキセイシンヤク:下段3生薬)からなります。
漢方薬名の意味:白虎加人参湯を参照してください。
2.2)吐き下し、下痢
・五苓散(ゴレイサン)は、急性の吐き下しに適します。冷たい飲食後の心窩部痛や嘔気、軟便を軽減した報告があります(日東医誌., 2010; 61: 722-726)。
本方の特徴的な目標症状は、水を飲むと噴き出すように嘔吐する水逆(スイギャク)です。霍乱を参照してください。
・胃苓湯(イレイトウ)は、五苓散と平胃散(ヘイイサン:理気和胃)の合剤です。急性の冷飲食による下痢(日東医誌., 2019; 70: 247-253)に用いられています。
霍乱を参照してください。

2.3)冷飲食や過剰冷房による下痢
・人参湯(ニンジントウ)は、冷たい飲食の摂取や過剰冷房による下痢と倦怠感に適します(日消誌., 2010; 107: 1577-1585)。
本方は、乾姜(カンキョウ)で温めて胃腸機能を整える温中補気剤です(図3)。冷えが顕著な時には真武湯(シンブトウ)と併用されます。冷え症(2)を参照してください。
3.夏ばて、夏やせ:補益剤(ホエキザイ)
熱中症に続発する夏ばてや夏やせは、蒸し暑さによる食欲不振と消化吸収機能の低下が続いて栄養状態が悪化した虚弱状態(気血両虚:キケツリョウキョ)です。夏やせを参照してください。

3.1)食欲不振
六君子湯(リックンシトウ)は、夏ばての主要症状の食欲不振に適します。
本方は、消化吸収機能を高める補気剤の四君子湯(シクンシトウ:図4下段の6生薬)と、胃もたれ、吐き気を軽減する化痰薬(ケタンヤク:図4上段の2生薬)を含みます。
漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
3.2)倦怠感
・清暑益気湯(セイショエッキトウ)は、軽い熱中症の口渴や下痢を伴う夏ばて症状(食欲不振、疲労倦怠感)に頻用されます。
本方は、補気薬の人参、黄耆(オウギ)と、発汗後の口渴を軽減する生脈散(ショウミャクサン:人参、五味子、麦門冬)を含む補中益気生津(セイシン)剤です。熱中症と夏ばて(1)や漢方薬名の意味:清暑益気湯を参照してください。
・補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は、清暑益気湯の原方となる補気剤です。体や四肢の重だるさや内臓下垂を伴う虚弱病態に適します。漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
本方と清暑益気湯は、漢方薬名の意味:清暑益気湯でも比較しています。
・十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)は、補血生津薬の熟地黄(ジュクジオウ)を含み、補中益気湯より疲労倦怠感、栄養不足が進んだ病態に用いられる補気補血剤です。夏やせや漢方薬名の意味:十全大補湯を参照してください。
3.3) 便通異常
・啓脾湯(ケイヒトウ)は、倦怠感と、消化不良性の下痢が続く病態に適します。漢方薬名の意味:啓脾湯を参照してください。
・桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)は、下痢傾向の便通異常と腹痛に用いられます。漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。
・小建中湯(ショウケンチュウトウ)は、便秘傾向の便通異常、腹痛、倦怠感に用いられます。本方は、桂枝加芍薬湯に水飴(膠飴コウイ:補中・緩急止痛)を加味した方剤です。
虚弱児や高齢者に適した人参を含まない補益剤です。漢方薬名の意味:建中湯類や疲労感(2)を参照してください。
4.夏の胃腸かぜ
夏の胃腸かぜに用いられる主な漢方製剤を示しました(図5)。

4.1)参蘇飲(ジンソイン)は、悪寒と発熱が顕著でない感冒様症候群に適する漢方の総合感冒薬です。胃もたれ、心窩部の痞え、湿性咳嗽を伴う夏かぜに適します。六君子湯の関連方剤です。漢方薬名の意味:参蘇飲を参照してください。
4.2)藿香正気散(カッコウショウキサン)は、吐き気、下痢を伴う湿度の高い時期の夏かぜに頻用されます。夏かぜ(1)や霍乱を参照してください。
本方と参蘇飲は、漢方薬名の意味:藿香正気散で比較しています。
4.3)柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)は、胃腸かぜや小児のかぜ症候群に用いられています(漢方の臨床, 2006; 53: 265-277)。漢方薬名の意味:柴胡桂枝湯を参照してください。
5.口腔内症状を伴う夏かぜ
小児のプール熱やヘルパンギーナ(喉頭炎)のような夏かぜに伴う口腔内粘膜の炎症症状に用いられる方剤を紹介します。夏かぜ(2)を参照してください。
5.1)桔梗湯(キキョウトウ)は、のどの腫痛、扁桃炎、扁桃周囲炎に用いられます。懸濁させた薬液は甘いので小児の含嗽服用に適しています。
患部の赤みが強い時には桔梗石膏(キキョウセッコウ)エキスが適します。
含嗽(ガンソウ)服用: 漢方エキス剤を水に懸濁させた薬液を口にしばらく含んでブクブクしてから服用します。
5.2)小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)は、小柴胡湯+桔梗、石膏からなり、桔梗湯や排膿湯(桔梗湯+大棗、生姜)を含んでいます。
小柴胡湯の適応病態に加えて扁桃炎などの長引く炎症性疾患に適応されます(耳鼻臨床, 1996; 補89: 35-36)。ヘルパンギーナを参照してください。
6.その他の夏の諸症状
芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)は、炎天下の運動後の発汗・脱水によるこむら返りに適します(漢方と最新治療, 2014; 23: 121-124)。こむら返りを参照してください。

暑熱関連死の予防
暑熱関連死は、暑さに対処できていれば助かっていたかもしれない命です(橋爪真弘)。
蒸し暑さによる発汗過多や睡眠障碍は、心臓や血管系疾患の悪化要因になります。高血圧や糖尿病を持病とする人は、とくに暑さ対策が大切です。
高血圧や糖尿病の持病のある高齢者の「暑熱関連死」予防
・5月頃から散歩などで少し汗をかき、暑さに慣れる準備をしましょう。
・最高気温が30度以上の真夏日には、エアコンで室温を下げましょう。
2025年6月25日 公開
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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