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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

1.無月経

 今まであった月経が来ない(無月経)場合、既婚の成人女性では妊娠を考えるのが普通です。
妊娠ではない無月経の病態は、
  1) 原発性無月経:性機能が成熟する18歳になっても初潮が来ないような場合と、
  2) 続発性無月経:今まではあった月経が来なくなってしまった場合
の2種類に分類されます。
 漢方相談の前に、1)も2)も、まず婦人科で受診してください。視床下部や脳下垂体からのホルモンの分泌レベル、卵巣や子宮の発育状況、および、多嚢胞性卵巣症候群のような卵巣の病変や抗うつ薬のような医療用薬剤の副作用など原因を明らかにした治療が必要です。

2.続発性無月経の原因

 漢方医療の適応になるのは、主に続発性の無月経です。
 産婦人科学会の調査によると、続発性無月経の原因は、図1に示すように、
  a)過度のダイエットや拒食によって体力の低下した「体重減少性無月経」
  b)受験、就職、失恋、引越しなどによる心理社会的因子(ストレス)の関与の大きな無月経
  c)過度の練習と食事制限によって体脂肪率が低下した運動選手の「運動性無月経」
  d)過食による肥満が関与する無月経
などが報告されています。c)は体脂肪率を低く抑えなければならないマラソンのような種目の選手に起こり、体重減少性無月経の特殊な例といえます。

3.無月経に対する漢方方剤に配合される生薬

  漢方医療の適応になるのは、図1の原因a)からc)による無月経です。
 胃腸が弱く、あるいは過度のダイエットによって体力が低下し、月経周期が延長し、経血量が少なくなって無月経になっている病態です。
 この場合の漢方医療の狙いは「身体を丈夫にする」ことです。食習慣を是正することが基本になるのはいうまでもありません。

 元気がなく疲れやすい、血色が悪い、動悸、息切れ、めまい などを伴う無月経患者には、まず、人参(ニンジン)や黄耆(オウギ)を中心とする補気(ホキ)薬の適応が考えられます。胃腸機能を調えて体力をつけます。
 さらに
 ・当帰(トウキ)、地黄(ジオウ)、芍薬(シャクヤク)など栄養と水分不足を補う補血(ホケツ)・生津   (セイシン)薬と
   ・川芎(センキュウ)などの活血(カッケツ)・理気(リキ)薬
を含む漢方方剤の適応になります。この4生薬が補血活血を担う四物湯(シモツトウ)です。

4.十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)・・・胃腸虚弱で貧血傾向の人の無月経

 十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)は、胃腸虚弱で貧血傾向の人の無月経の人に用いる基本方剤です。日頃から体力虚弱で貧血傾向、疲労倦怠感、食欲不振、手足の冷えなどを伴う人の月経不順や無月経に適します。
 本方と月経不順に関しては、血の道症(3)月経不順(2)を参照してください。

5.十全大補湯と温経湯(ウンケイトウ)

 十全大補湯は月経不順に用いられる基本方剤の温経湯(ウンケイトウ)の配合生薬と共通するものが多く、両者は関連方剤といえます。

 十全大補湯温経湯は、冷え症で皮膚が乾燥傾向、月経不順、月経血が少ない傾向は類似します。
 温経湯(ウンケイトウ)は、足腰は冷えるが、手の平がほてり、口乾き皮膚も乾燥傾向で肌荒れしやすい人の月経不順や無月経に適します。

 温経湯に関しては、血の道症(2)月経不順(1)や、血の道症(5)月経不順(4)および漢方薬名の意味:温経湯を参照してください。

6.帰脾湯(キヒトウ)・・・ストレス疲れと不眠に悩む人の無月経

 帰脾湯は、心身が疲れ、胃腸虚弱で血色の悪い人の不安、動悸、夜の寝付きが悪く、日中に眠くなるなどの症状を伴う月経不順や無月経、不正出血に用いられます。
 本方は、胃腸を調えて元気をつけ精神的に安定させる方剤です。

7.帰脾湯(キヒトウ)の配合生薬

 帰脾湯(キヒトウ)の主な配合生薬は、十全大補湯と同様に補気薬人参黄耆(オウギ)、さらに補気薬当帰を含む方剤です。

 帰脾湯の特徴は、気うつ傾向や心労や不眠を軽減する竜眼肉(リュウガンニク)、酸棗仁(サンソウニン)、遠志(オンジ)、木香(モッコウ)を含んでいることです。

 なお、心身の疲労感に加えて、冷えのぼせ、イライラ、焦燥感を伴う場合には本方に柴胡(サイコ)と山梔子(サンシシ)を加えた加味帰脾湯(カミキヒトウ)が適します。

~ちょっと一言:無月経は先ず、受診。

 正常な月経周期を維持する女性ホルモン量は、極度の「やせ」でも「肥満」でも乱れます。「やせ」ではホルモンの分泌量が少なくなり、「肥満」ではホルモンの働きが低下します。
 無月経期間が長引くと、不妊につながり、また、女性ホルモンは骨塩量の保持に関与していますので、疲労骨折や骨粗鬆症の原因にもなります。
 無月経が3ヶ月以上続く場合は、まず婦人科で受診してください。


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
谿 忠人先生のプロフィール
谿 忠人先生

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