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病気の悩みを漢方で

人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
1.人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)名の意味
人参養栄湯は、人参が主薬であることを意味しています。人参は、消化吸収機能(脾 ヒ)と呼吸機能(肺 ハイ)を調える補脾益肺薬(ホヒエキハイヤク)です。補気に加えて養栄(ヨウエイ)の薬能もあります。
養栄は栄を扶養する薬能です。栄は、栄養機能を担う血(ケツ)と滋潤機能を担う津液(シンエキ)の総称です。養栄は補血(ホケツ)と生津(セイシン)に相当します。
人参養栄湯の主な配合生薬は、
・胃腸虚弱を軽減する補気薬(図1下段左の四君子湯と黄耆の5生薬)と、
・顔色不良を軽減する補血生津薬(図1下段右の灰色枠内の3生薬)と、
・不安、不眠を軽減する安神薬(アンシンヤク:図1上段黄緑枠内の2生薬)です。
安神は、こころの不安定病態(心神不安 シンシンフアン)を軽減する薬能です。疲労感(1)やコロナ後遺症(2)を参照してください。人参、大棗、茯苓にも安神の薬能があります。

本方に含まれる安神薬の遠志(オンジ)と五味子(ゴミシ:図2)には、咳嗽を軽減する薬能もあります。

以上から方剤名は、本方が、虚弱と乾燥状態(気血両虚 キケツリョウキョ)と、抑うつ、不安、不眠(心神不安)と咳嗽に適することを示唆しています。
2.人参養栄湯の適応

人参養栄湯は、食欲不振、疲労倦怠感(気虚)、顔色不良、貧血傾向、皮膚乾燥、乾性咳嗽(血虚)、不安、抑うつ、無関心、意欲低下、不眠(心神不安)に用いられます。フレイル(3)と(6)を参照してください
本方の【効能又は効果】には病後の体力低下があります。
2.1)がんの虚弱状態を軽減する支持療法への人参養栄湯の応用例
・肺がん手術と気管切開後の頻便・下痢を軽減し、経口摂取が可能となり、一般状態を改善。
日東医誌., 1994; 44: 421-425
・大腸がん術後の補助化学療法による末梢神経障碍と貧血を軽減。
Int. J. Clin. Oncol., 2020; 25: 1123-1129
・消化器がん術後補助化学療法による骨髄機能低下を軽減し、休薬や減量することなく化学療法を継続可能。
癌と化学療法, 2022; 49: 789-792
2.2)認知症の抑うつ型行動・心理症状(BPSD)への人参養栄湯の応用例
高齢者の栄養不良、筋力の低下したフレイル状態は、BPSDの危険因子です。認知症(6)を参照してください。
・アルツハイマー型認知症患者の食事量を増加、アパシー(無気力)を軽減、介護者の介護負担感を軽減。
J.Altzheimers Dis.Rep., 2017; 1: 229-235
・認知症患者の食欲や意欲の低下を改善。
薬局薬学, 2019; 11: 114-118
・認知症患者の食欲低下、体重減少、ADLの低下を軽減。
脳神経外科と漢方, 2019; 5: 1–9
基礎研究
・ストレス負荷によるアパシー様モデルマウスの食欲不振や巣作り行動低下(意欲低下の指標)を改善。
薬理と治療, 2018; 46: 207–216
・コリン作動系を介した大脳皮質血流を増加。
自律神経, 2022; 59: 231-237
・老化促進マウスの体重減少、筋力低下、運動機能低下を抑制。
外科と代謝・栄養, 2025; 59: 43-47
2.3)慢性閉塞性肺疾患(COPD)への人参養栄湯の応用例
人参養栄湯は、長引くCOPDの低栄養状態による筋肉量の低下(血虚)や不安、抑うつ(心神不安)を伴う病態に適します。COPDを参照してください。
・COPD患者の低下した筋肉量を増加。
Front Nutr., 2018; 5: 7.
・フレイル状態のCOPD患者の食欲不振、QOL低下、抑うつ、不安を改善。
J. Alternative Complement. Med., 2020; 26: 750-757
2.4)その他の領域への人参養栄湯の応用例
・シェーグレン症候群の眼の乾燥感、凍瘡様皮疹、手足の冷え、疲労感を改善。
西日本皮膚科, 2008; 70: 516-521
・新型コロナウイルス感染後の微熱感、咳嗽、倦怠感、思考力の低下を軽減。
漢方の臨床, 2021; 68: 709-721
・未破裂脳動脈瘤クリッピング術後の倦怠感、活気低下、不眠を軽減。
脳神経外科と漢方, 2022; 7: 40‒43
3.人参養栄湯 の関連方剤
3.1)十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)は、顔色不良を伴う虚弱状態に用いられる補気補血剤の基本方剤です。本方が、周術期の感染性合併症を軽減した報告があります(外科と代謝・栄養, 2022; 56:73-76)。フレイル(3)や漢方薬名の意味:十全大補湯を参照してください。
本方と人参養栄湯は、9生薬が共通です(図3)。
人参養栄湯が、化痰止咳安神薬の遠志と五味子を含み、不安や抑うつ、咳嗽に適することが十全大補湯との相違点です 。

3.2)帰脾湯(キヒトウ)は、貧血傾向の虚弱状態と不眠や不安、動悸、不眠に用いられる方剤です。本方が、疲労感、不安、不眠、うつ状態を軽減した報告があります(漢方の臨床, 2000; 47: 1599-1602)。
本方は、人参養栄湯と同じ補気薬(図4の黄色枠内の5生薬)と、補血性の安神薬の竜眼肉(リュウガンニク)と酸棗仁(サンソウニン)を含む補気補血安神剤です。不眠、不安に適します。漢方薬名の意味:帰脾湯を参照してください。

3.3)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)が、慢性期のCOPDのフレイル状態を軽減した報告があります(診断と治療, 2011; 99: 823-827)。COPDを参照してください。
本方は、気虚が進展し気の上昇力が低下した中気下陥(チュウキカカン)の筋肉の緊張低下症状(手足のだるさ、胃下垂、子宮脱、脱肛)に適した方剤です。
中気下陥を改善する昇提薬(ショウテイヤク)の柴胡(サイコ)升麻(ショウマ)を含むことが本方と人参養栄湯との区別点です(図5)。疲労感(2)や漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。


人参養栄湯の口訣(クケツ)(引用抜粋)
・食欲不振、倦怠感(脾気虚)、息切れ、咳嗽(肺気虚)、不眠、驚悸(心血虚)を呈する虚寒証に用いる。十全大補湯に安神止咳薬が加味された方剤(髙山宏世)。
・消化機能低下(脾虚)による滋養不足(血虚)と呼吸機能低下(肺気虚)こころの不安定(心神不安)を軽減する益気補血、寧心安神剤(三浦於菟)。
・体力衰弱、貧血、皮膚乾燥があり、不眠、精神不安定、気力低下、倦怠感、軽度の乾性咳嗽を伴う場合に用いる(巽浩一郎)。
(2025年9月1日 改訂公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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