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病気の悩みを漢方で
インフルエンザの漢方
1.インフルエンザの概要
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染症です。日本では冬の12月から翌年の2月にかけて流行します。
インフルエンザは、かぜ(普通感冒)より激しい全身症状(高熱、寒け、筋肉痛や関節痛)があり、肺炎や脳症など命に関わる合併症を引き起こします。
インフルエンザとかぜ(普通感冒)の共通点と相違点をまとめました(図1)。
インフルエンザに対して、
・幼児や高齢者は、ワクチンを接種して感染予防と感染後の症状と合併症を軽減することが大切です。
・抗インフルエンザ薬は、発症後2日以内に内服することで発熱期間を短縮できます。早めに受診して処方してもらってください。
3.インフルエンザの初期治療:解表剤
3.1)銀翹散(ギンギョウサン)には、インフルエンザの発熱を軽減した報告があります( 漢方の臨床, 2012; 59: 1425-1429)。
3.2)麻黄湯(図3)の適応となる症状は、感染症の初期の悪寒と発熱頭痛、喘(ゼン: 喘ぐような呼吸困難)や関節痛です。無汗が使用目標です。
これらはインフルエンザの症状に類似しますのでインフルエンザに用いられています。漢方薬名の意味:麻黄湯を参照してください。
麻黄湯は、小児インフルエンザ患児の寒け発熱を軽減した報告があります(漢方の臨床, 2008; 55: 1835-1844)。この報告では麻黄湯は、2時間毎に3回服用し、その後は発汗して気分が良くなるまで3時間毎に3回服用する方法が示されています。
麻黄湯の投与時期は、抗インフルエンザ薬と同じように、発症後の早期(48時間以内)に開始するのが望ましいとされています。
(日本病院総合診療医学会雑誌, 2013; 5: 5-9)
麻黄湯は、インフルエンザの発熱、頭痛、筋肉痛、咳を抗インフルエンザ薬(オセルタミビル)と同程度に軽減した報告もあります(Health, 2011; 5: 300-303)。
現在では麻黄湯は、抗インフルエンザ薬と併用されています。
・麻黄湯とオセルタミビルの併用群は、オセルタミビルと西洋薬併用群とほぼ同様な効果を示す。 漢方と免疫・アレルギー, 2005; 18: 47-53
・麻黄湯と抗インフルエンザ薬(オセルタミビル)の併用群は、オセルタミビル単独群と同程度に軽減。 治療学, 2006: 40(4): 37-40
漢方製剤と抗インフルエンザ薬の併用は、治癒期間を短縮し、抗インフルエンザ薬の使用量を節減することによって、副作用の軽減や耐性インフルエンザウイルスの出現を予防する意義があります(漢方の臨床, 2006; 53: 2033-2042)。
3.3)大青竜湯(ダイセイリュウトウ)は、大正時代に流行した新型インフルエンザウイルス感染(スペイン風邪)に使用されていました(日東医誌., 2020; 71: 272-283)。
本方は、麻黄湯の適応症状に加えて、熱が高く口渴があり、重だるく、座っておれないほどのつらい症状のある病態に適します。
エキス製剤では、麻黄湯+越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)で代用されて、発熱、無汗時のインフルエンザに用いられています(『日常外来の漢方380例』, 2014; p.78)。麻杏甘石湯+桂枝湯で代用する場合もあります(日東医誌., 2010; 61: 59-62)。
3.4)桂麻各半湯(ケイマカクハントウ)は、小児の初期発熱(日東医誌., 1985; 36: 35-42)や、赤ら顔、自汗、口渴なしの病態に適します(日東医誌., 2010; 61: 63-67)。
エキス製剤では、麻黄湯+桂枝湯(ケイシトウ)で代用されます。この両剤と抗インフルエンザ薬(オセルタミビル)の併用が、発熱、筋肉痛を軽減し、オセルタミビルの使用量を節減した報告があります(漢方の臨床, 2006; 53: 2033-2042)。
大青竜湯と桂麻各半湯は、漢方薬名の意味:麻黄湯も参照してください。
3.5)麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)は、桂枝湯と併用してインフルエンザの咽頭痛、水様鼻漏、倦怠感に用いられています(日東医誌., 2010; 61: 360-365)。
この併用は、桂姜棗草黄辛附湯(ケイキョウソウソウオウシンブトウ)の代用です(日東医誌., 1995; 46: 105-107)。
4.亜急性期の治療:和解剤(ワカイザイ)
感染症の亜急性期は、小柴胡湯(ショウサイコトウ)など和解剤の適応になります。病期や漢方薬名の意味:小柴胡湯を参照してください。
4.1)小柴胡湯が、抗インフルエンザ薬で解熱後の口苦、吐き気、食欲不振、倦怠感を軽減した報告があります(漢方の臨床, 2015; 62: 2038-2042)。
小柴胡湯と他剤との併用したインフルエンザ治療も報告されています。
・小柴胡湯+麻黄湯の効果は、抗インフルエンザ薬(オセルタミビル)に匹敵。
日本補完代替医療学会誌, 2010; 7: 59-62
・小柴胡湯+麻杏甘石湯は、咳、痰を軽減。 漢方の臨床, 2008; 55: 1835-1844
4.2)柴葛解肌湯(サイカツゲキトウ)は、日本の大正時代に流行したスペイン風邪に使用されていました(日東医誌., 2020; 71: 272-283)。
本方は、葛根湯の適応病態(悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛)と小柴胡湯の適応病態(吐き気、食欲不振、寒熱往来)に加えて石膏(セッコウ)の適応となる熱感や口渴などの熱証の顕著な時に使用されます(日東医誌., 1994; 44: 607-611)。
エキス製剤では、小柴胡湯加桔梗石膏+葛根湯(カッコントウ)で代用されます。漢方薬名の意味:葛根湯を参照してください。
4.3)竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)も、大正時代に流行したスペイン風邪に使用されていました(日東医誌., 2020; 71: 272-283)。
本方が、インフルエンザ感染後のせん妄(幻覚、幻聴、睡眠障碍)と不穏興奮状態を軽減した報告があります(日東医誌., 2022; 73: 303-307)。
5.補益剤(ホエキザイ)
5.1)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)が、インフルエンザ感染後の慢性疲労症候群の食欲不振を改善した報告があります(日東医誌., 2014; 65: 87-93) 。
5.2)十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)が、インフルエンザワクチン接種後の感染者割合を低下させた報告があります(日東医誌., 2007; 58: 847-852)。
補益剤の意義: ウイルス感染後の回復には、体力(正氣 セイキ:生命維持活動と自然治癒力)が寄与します。
安静と養生が必要: そのため療養の要点は、通常の活動を軽減する安静です。消化の良い温かい食材の摂取や栄養、水分補給、保温、睡眠にも注意してください。
インフルエンザの漢方治療
以下は、日本東洋医学会の啓発公告の抜粋です。
麻黄湯にはインフルエンザウイルスの増殖を抑制し、発熱の日数を短くします。タミフル等抗インフルエンザ薬と併用しても良いことが知られています。
麻黄湯には交感神経を興奮させる作用があります。排尿障害を来したり緑内障を悪化させる危険性もあります。特に高齢者では注意が必要です。
インフルエンザ=麻黄湯ではありません。随伴症状に応じて他の方剤を使用します。漢方を専門とする医師・薬剤師に良く相談して下さい。
日本東洋医学会のホームページを参照してください。2024/11/4 閲覧確認
https://www.jsom.or.jp/universally/pdf/influenza_universally.pdf
2024年12月3日 公開
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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