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症状と漢方薬

五十肩の漢方


1.五十肩(肩関節周囲炎)

 五十肩(肩関節周囲炎)は、肩甲骨(ケンコウコツ)と上腕骨との肩関節周囲組織の炎症です。40~60代に多く発症することから加齢と関係があるようです。
 五十肩の急性期は、肩から上腕部の安静時の痛みと、腕を動かせない可動域制限があります。一方、肩こりには、肩の痛みは軽微で可動域制限がありません。

 五十肩の治療は、初期の鎮痛薬ステロイド薬局所麻酔薬ヒアルロン酸および非薬物療法初期の安静と、慢性期以降のリハビリ運動療法)が主体です。

2.五十肩の漢方治療概要

 五十肩の適応が認められている漢方製剤は、独活葛根湯(ドッカツカッコントウ)と二朮湯(ニジュツトウ)です。この2方剤だけでは五十肩に対応し難いので、関節痛に適応のある疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)なども応用されています。

 今回は、五十肩の病態の経時変化(病期 ビョウキ)や痺証(ヒショウ)の病態を踏まえて、これらの方剤群の使い分けを考えます(図1)。

 痺証は、気血(キケツ)が不通となり痛む病態です。漢方では不通則痛(通じざれば痛む)と考えます。理気剤(リキザイ)活血剤(カッケツザイ)利水剤(リスイザイ)の適応になります。漢方薬名の意味:疎経活血湯を参照してください。

 五十肩の漢方治療では、気血の循環を促進するために、扶正祛邪(フセイキョジャ)の治療を行います。
 祛邪(キョジャ)は、停滞した外邪湿邪 シツジャや寒邪 カンジャ)と発病後に生成した水滞(スイタイ)や瘀血(オケツ)や気滞(キタイ)を除く方策です。
 扶正(フセイ)は、低下した正氣(生命維持活動)を補う補気補血などの補益法です。これを組み合わせた方策が扶正祛邪です。
 慢性期には瘀血寒証に着目します。

3.祛邪を主体にする方剤

は、祛邪を担う発表利水薬(ハッピョウリスイヤク)の麻黄(マオウ)と祛風湿薬(キョフウシツヤク)の独活(ドッカツ)を主体にした方剤です(図2)。

 本方は、首筋、肩、上腕の痛みや運動制限を軽減する祛風湿止痛薬です。補血薬(ホケツヤク)の乾地黄(カンジオウ)は血流を整えます。「夜になって疼痛する者」に適するとの口訣(クケツ:先達の経験談)があります。

(ヨクイニントウ 7味)は、独活葛根湯麻黄を含む4生薬を共通して含み、独活の代わりに祛風湿薬蒼朮(ソウジュツ)と薏苡仁(ヨクイニン)、乾地黄の代わりに補血活血薬当帰(トウキ)を含みます。

 両方剤の適応病態は風湿痺(フウシッピ)です。薏苡仁湯地黄を含まないので胃腸症状のある人にも適します。

薏苡仁湯は、可動域制限のある肩関節周囲炎、両膝関節炎、足の冷えを軽減した報告があります(八味地黄丸との併用)。

4.扶正祛邪の方剤

(ケイシカジュツブトウ)は、扶正を担う桂枝湯祛風湿薬蒼朮(ソウジュツ)と散寒止痛燥湿薬附子(ブシ)を加味した方剤です。
 体力が低下し四肢のむくみがあり、冷えると悪化する痛みしびれ(五十肩、筋肉痛、関節痛、腰痛)に適します。適応病態は寒湿痺(カンシッピ)です。

(ニジュツトウ)は、補気の薬能を有する祛風湿利水剤です。
 本方は、補気利水の薬能を有する二陳湯(ニチントウ)と(ジュツ)に加えて祛風湿薬威霊仙(イレイセン)天南星(テンナンショウ)を含みます。
 本方はむくみ痛みしびれを伴う風湿痺に用いられます。慢性化した場合には活血剤(カッケツザイ)の桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)や薏苡仁補気除痺)を含む桂枝茯苓丸加薏苡仁と併用されます。

(ソケイカッケツトウ)は、補血の薬能を有する祛風湿利水活血剤です。腰痛(2)を参照してください。
 本方は、祛風湿薬威霊仙(イレイセン)羗活(キョウカツ)および活血薬牛膝(ゴシツ)桃仁(トウニン)を含み痛みむくみしびれを伴う風湿痺に用いられます。
 さらに、扶正のための補血活血剤四物湯(シモツトウ)を含み慢性病態にも適した内容になっています。

疎経活血湯は、めまい、動悸、いらだち、高血圧を伴う外転時の左肩の夜間痛歩行時の腰痛を軽減した報告があります(女神散 ニョシンサンとの併用)。

(ダイボウフウトウ)は、補気補血補腎(ホジン)の薬能を有する祛風湿補益散寒剤です。フレイル(4)を参照してください。
 本方は、補気補血剤十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ 10味)の人参熟地黄など8生薬に、補腎薬附子杜仲(トチュウ)および祛風湿薬を含みます。
 筋肉減少痛みしびれを伴う虚証の人の風寒湿痺に用いられます。

5.理気(リキ)を主体にする方剤

 痛みを伴う疾病が長引くと、それがストレスになって抑うつ、不安、いらだちを伴い心因性疼痛になって慢性化・難治化します。
 漢方ではストレスも気血の巡りを阻害し痛みを持続させていると考えます。以下に理気によって不通則痛を軽減する方剤を紹介します。

(シギャクサン)と(コウソサン)を併用して(心身症傾向の)肩の長引く痛みを軽減した報告があります。

四逆散香蘇散は、不安感、抑うつ傾向、頭痛、目の痛みを伴う右肩から頸部鎖骨部の9年来の痛みを軽減した報告があります。

 これは、柴胡疎肝湯(サイコソカントウ)の薬能を代用する併用です。本方は、理気剤四逆散香附子(コウブシ)川芎(センキュウ)青皮(セイヒ)を加味して理気を強化した方剤です。漢方薬名の意味:四逆散を参照してください。

(チケンパイコウキュウホウ)は、抑うつ不安いらだちなどの精神神経症状を伴い、肩や背部がこわばるように痛む病態に用いられます。

 本方は、理気薬香附子烏薬(ウヤク)青皮理気活血薬莪朮(ガジュツ)など理気薬主体の方剤です。「神経質な人の肩こり症背・肩の疼痛」を適応とする一般用のエキス製剤として市販されています。

ちょっと一言:(トピックス)

五十肩の予防と養生

発症予防:パソコン作業など同じ姿勢を続けない。
     作業休憩時に肩を軽く上下に動かす、腕をゆっくり回す。
痛みを伴う時期:安静。無理に肩を動かさないで受診。
        (これが普通の肩こりとの相違点!)
        鎮痛成分配合の湿布剤(貼付剤)
痛みが軽減した慢性期:(医療者と相談しながら)適切なリハビリ運動。

(2022年10月12日 公開)


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