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病気の悩みを漢方で
鼻炎の漢方
1.慢性鼻炎と治療の概要
慢性鼻炎には、感染性の急性鼻炎が長引いた時に起こります。慢性単純性鼻炎と鼻の粘膜が厚くなってしまう慢性肥厚性鼻炎があります。
慢性鼻炎の主な症状は粘稠性黄色鼻汁と鼻づまり(鼻閉)です。さらに粘稠性の鼻汁がのどに落ちる後鼻漏(コウビロウ)とそれに伴う咳が出ることもあり、頭重感、息苦しさ、物の匂いなどが分かりにくい、寝づらい、などの症状も伴います。
慢性鼻炎に用いられる市販の内服薬は主に血管収縮薬と抗ヒスタミン薬を含みます。ステロイド薬のスプレー剤もあります。保険診療では抗菌薬も使用されます(図1)。
漢方治療では、鼻水・鼻汁の性状や鼻づまりの程度、鼻周辺の熱感などの症状の経時変化(病期 ビョウキ)に応じて、麻黄(マオウ)を含む方剤から辛夷(シンイ)や桔梗(キキョウ)および石膏(セッコウ)や黄連(オウレン)を含む方剤を使い分けます。
2.葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)
・・・慢性鼻炎(鼻づまりとやや粘稠性の鼻汁、頭重感
葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)は、鼻づまりとやや粘稠性の鼻汁、頭重感を伴うに亜急性期の鼻炎と慢性鼻炎に頻用されます。
本方は、適応時期や領域を広げるために
1)石膏(セッコウ)を含む桔梗石膏エキス、小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)や消風散(ショウフウサン)、
2)桔梗(キキョウ)を含む十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)や排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)と
併用されます。
3.葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)の配合生薬
葛根湯加川芎辛夷は、麻黄(マオウ)を含む葛根湯(カッコントウ:図2の中段と下段の7生薬)に、頭痛を軽減する川芎(センキュウ)と鼻づまりを軽減する辛夷(シンイ)を加味した方剤です(図2)。
4.辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)
・・・鼻周辺に熱感のある慢性鼻炎の鼻づまり、粘稠性の鼻汁、後鼻漏
辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)は、頭重感、のどの渇き、鼻周辺の熱感、粘稠性の膿性鼻汁、鼻閉感を伴う慢性鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)に用いられる方剤です。
また、本方は粘稠性の鼻汁がのどに落ちる後鼻漏(コウビロウ)に伴う咳嗽や鼻が乾燥する慢性萎縮性鼻炎にも適します。
本方も辛夷(シンイ)を含む方剤です。なお図4に示したように石膏(セッコウ)や山梔子(サンシシ)など赤字の清熱薬(セイネツヤク)が多く含まれ、鼻周辺の熱感や膿性粘稠鼻汁のような熱証(ネツショウ)に適します。
本方は、適応時期や領域を広げるために、麻黄(マオウ)・石膏(セッコウ)剤の越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)と併用されます。
5.荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)・・・慢性鼻炎の鼻づまり、粘稠性の鼻汁
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)は、慢性鼻炎や蓄膿症(副鼻腔炎)に用いられます。本方の適応病態には皮膚が(浅黒く)乾燥傾向にあります。
荊芥連翹湯と辛夷清肺湯はともに炎症性の粘稠性鼻汁と鼻づまりに用いられますが、
・荊芥連翹湯は、扁桃炎、中耳炎、にきび、湿疹皮膚炎を併発する慢性鼻炎に、
・辛夷清肺湯は、後鼻漏による咳嗽を伴う場合にも適します(図5)。
荊芥連翹湯は、温清飲(ウンセイイン:黄連解毒湯オウレンゲドクトウ+四物湯シモツトウ)や柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)の関連方剤です。
漢方薬名の意味:温清飲や漢方薬名の意味:柴胡清肝湯を参照してください。
また、にきび にも荊芥連翹湯の解説があります。
6.辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)と荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)の配合生薬
荊芥連翹湯と辛夷清肺湯はともに炎症性の粘稠性鼻汁と鼻づまりに用いられますが、
・荊芥連翹湯は、乾燥傾向を潤す地黄(ジオウ)や芍薬(シャクヤク)や当帰(トウキ)を含み、
・辛夷清肺湯は、咳嗽を軽減する枇把葉(ビワヨウ)、百合(ビャクゴウ)、麦門冬(バクモンドウ)
を含みます(図6)。
一般的に、慢性鼻炎には、香辛料のような刺激の強い物、脂っこい物、甘い物の食べ過ぎはよくないようです。便秘の解消も慢性鼻炎の養生法に含まれます。
鼻うがい: 鼻(鼻腔)の中を洗浄液で洗う家庭用の機器が販売されています。洗浄液を片方の鼻の穴から注入し反対側から(あるいは口から)出します。
血管収縮薬を含む市販薬は点鼻薬は長期に連用すると返って慢性鼻炎を起こします。血管収縮薬は症状の強い時の噴霧にとどめて、病期に応じた漢方製剤を服用すると良いでしょう。薬剤師さんに相談してください。
(2017年1月26日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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