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病気の悩みを漢方で
機能性ディスペプシアの漢方
1.機能性ディスペプシア(FD)の概要
機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)のディスペプシアは、消化不良や胃もたれなど不快な腹部の症状ことです。
FDは、内視鏡検査でびらん(粘膜の欠損)や潰瘍が軽微で、食欲不振、早期の満腹感、食後の胃もたれ、吐き気などの上腹部不快感を伴う機能性胃腸症です。かつて慢性胃炎や非潰瘍性消化不良(NUD)といわれていた病態に相当します。
ここではFDに用いられる六君子湯(リックンシトウ)を中心にして方剤を考えます。
2.六君子湯(リックンシトウ)
六君子湯は、食欲不振、食後の胃もたれ・早期満腹感、吐き気を伴う食後愁訴型のFD治療に用いられる第一選択薬です。みぞおち(心窩部)がつかえることも投薬の目標になります。胃もたれ(3)を参照してください。
六君子湯は8生薬で構成されています(図1)。
図1の上段と中段の5生薬が、胃もたれや吐き気を軽減する化痰剤の二陳湯(ニチントウ)です。
中段と下段の6生薬が、体力虚弱で胃腸虚弱や倦怠感を整える補気剤の四君子湯(シクンシトウ)です。
結局、六君子湯は四君子湯(6味)に化痰薬の陳皮と半夏を加味した補気化痰剤ということになります。漢方薬名の意味:六君子湯や漢方薬名の意味:二陳湯を参照してください。
本方の口訣(先達の経験談)によれば「舌の白苔、むくんだ胖大舌や歯痕舌の所見」が投与指針になるとされています。
3.FD症状と六君子湯
医療用六君子湯は、機能性ディスペプシア患者の胃痛をプラセボ群より有意に改善し、食後の膨満感は改善傾向が認められた。
二重盲検ランダム化比較試験。Neurogastroenterology and Motility. 2014; 26: 950-61.
六君子湯のFD症状を軽減に寄与する主な配合生薬を図2にまとめました。
4.胃酸分泌抑制薬と六君子湯
FDや非びらん性胃食道逆流症(NERD)や胃食道逆流症(GERD)の第一選択薬は胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害剤:PPI)です。
ところがPPIで軽減し難いPPI抵抗性の病態があります。その場合には六君子湯がPPIと併用されます。胃食道逆流症(2)を参照してください。
この併用療法における六君子湯の薬効薬理を図3にまとめました。食欲亢進ホルモンのグレリンを介した作用は、漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
5.FD治療における六君子湯の「次の一手」
六君子湯は、FDの運動不全による食後愁訴と背景にある胃腸虚弱や倦怠感に適します。FDの多様な症状に対する六君子湯の「次の一手」を図4に示します。
5.1)理気剤との併用: FDは心理社会的因子の関与する心身症の側面がありますので六君子湯に理気剤を併用します。漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
・腹部膨満感、抑うつ、頭重:香蘇散(コウソサン)との併用します。これは香砂六君子湯(コウシャリックンシトウ)の代用です。
・抑うつ、不安:半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)と併用します。
半夏厚朴湯は、FD患者の胃排出能を増加することが明らかにされています。漢方薬名の意味:半夏厚朴湯を参照してください。
5.2)止痛剤との併用:心窩部に痛みを伴うFDには、安中散(アンチュウサン)を併用します。冷えで悪化する症状の軽減に有用です。漢方薬名の意味:安中散を参照してください。 医療用安中散製剤は、酸分泌抑制剤と消化管運動改善剤とを4週間併用してFD患者の胃もたれ、胃痛を軽減した報告があります。
その他に、六君子湯は四逆散(シギャクサン)や柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)などの理気止痛剤とも併用されます。
なお、芍薬甘草湯は甘草の重複による副作用を考慮しながら併用します。
5.3)NERDやGERD治療薬への変方:
六君子湯はNERDやGERDにも使用されていますが、げっぷ、呑酸など逆流症状が顕著な場合は、半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)や茯苓飲(ブクリョウイン)への変方を考慮します。胃食道逆流症(2)を参照してください。
本方と半夏瀉心湯の合方は、半瀉六君子湯(ハンシャリックンシトウ)と称されます。
半夏厚朴湯に関しては胃食道逆流症(3)を参照してください。
※ ピロリ菌の検査: なお、よく噛んでゆっくり食べるなどの食習慣の見直しを1ヶ月程度続けながら漢方治療をしてもFD症状が軽減しない場合は、医療機関でピロリ菌の検査を受けてください。
機能性ディスペプシア(FD)とストレスと生活習慣
FDは、心理社会的因子(ストレス)によって発症し増悪します。
ストレス軽減策: ストレス解消は理気剤だけでは限界があります。
食後に軽く歩いて気分転換するなど生活習慣を調えてください。
・食事を楽しく食べていますか?
・気うつを感じながら孤食をしていませんか?
なおFDの予防には、大食いを控える、よく噛んでゆっくり食べる、胃部を圧迫する猫背を解消するなどの生活習慣の見直しも大切です。
(2023年2月14日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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