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病気の悩みを漢方で
安中散(アンチュウサン)
1.漢方方剤を漢字で記載する意味
漢字で記載された漢方方剤は「読みにくい」、「親しみにくい」などという声を聞きますが、漢方方剤を漢字で記載することには、大きな意味があります。例えば、
・葛根湯(カッコントウ)とあれば、方剤中の主要な生薬が葛根であることが分かります。
・小青竜湯(ショウセイリュウトウ)は、青竜が麻黄(マオウ)の異名であることから、麻黄を主薬にした方剤だと理解できます。
・安中散(アンチュウサン)の名は、効能を示しているので使用するヒントが得られます。
このように漢方方剤の漢字は、その方剤の特徴を表しています。今回からはじまる「漢方薬名の意味」では、方剤名の由来・故事・意味を解説します。とくに効能にちなんで名付けられた方剤を中心にする予定です。
2.安中散(アンチュウサン)の謂われ・・・中を安らかにする散剤(サンザイ)
安中散の「中」は、胴体(体幹)の中央部の意味です。いわゆる「おなか」に相当します。
漢方用語の中焦(チュウショウ)の「中」に由来します。臍から上部の腹部に相当し、五臓六腑の脾(ヒ)と胃(イ)、すなわち上部の消化機能を担う部位です。
「安」は、やすらかにする、安定させる、という意味ですから、安中散は、胃腸機能を調える薬効を有する散剤であることが分かります。
散剤は生薬末を混合した方剤です。古典には温めた酒で服用するよう記載されています。
3.安中散の適応・・・胃腸虚弱と冷え
安中散は胃痛、腹痛、胸やけ、げっぷ、胃もたれ、食欲不振などを伴う「神経性胃炎、慢性胃炎、胃腸虚弱」に用いられます。
とくにイラストのような冷え症で体力の余力の乏しい人の機能性胃腸症の胃痛や腹痛に適します。
漢方医療の経験では、「甘い物を好む」人の胃腸虚弱や痛みに適すると言われています。
本方は、一般用医薬品として市販されている漢方胃腸薬の基本となる方剤です。
4.安中散の配合生薬・・・温めて胃腸機能を調える
安中散はもともと散剤でした。配合生薬はいろいろと変遷がありますが、現在では以下の7生薬を煎じた後、エキス化した製剤として用いられています。
図1で桂皮(ケイヒ)のように青字で記載した生薬は、エネルギー不足や冷たい物の摂り過ぎで冷えている胃腸を「温めて」痛みや機能低下を改善する効能があります。この効能を散寒(サンカン)、温中(オンチュウ)、温胃(オンイ)と言います。
5.安中散・・・香りで胃腸機能を調える
安中散に含まれる桂皮、縮砂(シュクシャ)、良姜(リョウキョウ)、茴香(ウイキョウ)は香りで胃腸の機能を調える芳香性健胃薬です。
縮砂(シュクシャ)は径1cm程度の球形で、10個で約9g程度の種子の塊です。
茴香(ウイキョウ)は長さ約1cm、幅2-3mmの長円柱形で、50個で約0.6g程度の小さな軽い果実です。香りで胃腸の機能を調える芳香性健胃薬です。香辛料のフェンネルに相当します。
6.安中散・・・胃痛・腹痛を痛みを軽くする
安中散は、ストレスによる気うつ感を軽減して痛みを軽くする方剤です。鎮痛効果を担うのは延胡索(エンゴサク)で、その鎮痛作用は薬理学的に明らかにされています。
延胡索(エンゴサク)は径1-2cm程度の偏球形で、10個で約20g程度の質の重い塊茎です。
安中散や延胡索(エンゴサク)に関してはストレス胃(2 胃痛腹痛)も参照してください。
安中散は主に機能性胃腸症の胃痛・腹痛に用いられます。慢性の胃腸症状には柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)と併用され、体力が低下し疲れを伴う場合には補中益気湯(ホチュウエッキトウ)や六君子湯(リックンシトウ)と併用されてきました。
さらに、冷え症傾向の月経痛にも適し、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)や加味逍遙散(カミショウヨウサン)と併用されます。
漢方薬名を選ぶ!
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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