きぐすり.com は、漢方薬、女性の健康、サプリメント、ハーブの情報を専門家がやさしく解説しています。

病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

腰痛の漢方

(1)基礎知識
(2)慢性腰痛

1.腰痛の危険度

 腰痛は二本足で歩くようになった人類の宿命的な疾病です。8割以上の人が一生のうちに腰痛を経験するそうです。
 腰痛の漢方医療では危険度を判断することが重要になります(図1)。


 漢方製剤は、特異的腰痛の中で加齢と関連する脊柱管狭窄症の腰痛の症状軽減に役立ちますが、変形した病態を元に戻す効果は期待できません。痛みが顕著であれば鎮痛薬局所麻酔薬神経ブロックなどを併用する必要があります。

 漢方製剤の主な適応になるのは、 変形など客観的器質変化が認められない非特異的腰痛です。漢方製剤は、冷えを温めて、血流を整え、筋肉の緊張を緩和する薬剤に相当します。

2.腰痛治療に用いられる主な生薬

 腰痛に用いられる主な生薬を西洋薬と対比しました(図2)。


 非ステロイド性消炎鎮痛剤は身体を冷やしますので、高齢者に連用するのは好ましくありません。漢方には温めながら痛みを軽減する散寒止痛薬(サンカンシツウヤク)があります。

 末梢循環改善薬筋緊張改善薬が腰痛に用いられます。これは疎経(ソケイ)や活血(カッケツ)や舒筋(ジョキン)という薬能に相当し、気血の循環を調えて痛みを軽減する漢方の考え方に通じます。

 腰痛に用いられる主な生薬を図3に示します。


3.腰痛治療に対する漢方医療の考え方

 漢方が注目するのは、腰痛に伴う気血の循環不全加齢による虚弱冷えです。これらの病態を軽減する薬能を以下に例示します。

3.1)活血(カッケツ) 血液循環を調整して痛みを軽減する。

 腰部脊柱管狭窄症の腰痛には血流改善薬PGE1誘導体)が用いらます。
 血流改善剤に相当するのは活血剤桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)や疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)です。牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)も活血薬牡丹皮(ボタンピ)と牛膝(ゴシツ)を含みます。

3.2)補腎(ホジン) 加齢による足腰の衰えを遅らせる。

 慢性腰痛患者の倦怠感や足腰の衰えに補腎剤(ホジンザイ)を活用することは漢方医療の特徴です。腎虚は加齢や慢性疾患による虚弱や退行性変化です。

 補腎散寒止痛薬附子(ブシ)と補腎生津薬(ホジンセイシンヤク)の熟地黄補腎強筋骨薬牛膝を含む牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)が頻用されます。生津薬は椎間板の水分を保って柔軟性を維持する効果が期待できます。

3.3) 温経(ウンケイ)散寒止痛(サンカンシツウ)  冷えを温める。

 冷えを温めることも漢方医療の特徴です。経絡内の気血の循環を促進する温経薬桂皮(ケイヒ)は散寒止痛薬呉茱萸(ゴシュユ)と組み合わせて当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)を構成します。

 これらの治療方針に関する個別の方剤は次回に解説します。

4.慢性期の腰痛に適する理気補気剤(リキホキザイ)

 3ヶ月以上継続する慢性腰痛では、長引くことに対するいらだち不安抑うつ傾向が伴います。現代科学医療ではこのような症状に対して図2に示したように抗不安薬抗うつ薬に加えて認知行動療法も実施されます。

 認知行動療法では考え方の見直しが指導されます。簡単ではありませんが、
 1)原因の追及に拘るよりより痛みを軽減する治療に専念し、
 2)痛みゼロという完璧を目指さず、痛みがある中でなんとか過ごす方法を工夫してください。

※慢性腰痛に理気補気剤 (リキホキザイ)の活用:
 体力低下者の認知行動療法を補完する理気補気剤には、
 ・柴芍六君子湯(サイシャクリックンシトウ ≒六君子湯+四逆散 シギャクサン)や
 ・香砂六君子湯(コウシャリックンシトウ ≒六君子湯+香蘇散 コウソサン)や
 ・加味帰脾湯(カミキヒトウ:帰脾湯柴胡 サイコ、山梔子 サンシシ)などがあります。

 これらの理気補気剤は腰痛を直接に軽減するのではなく、慢性腰痛患者の精神神経症状を含む虚弱状態の軽減を目指して使用されます。
 同じような考え方は関節リウマチ(2)ちょっと一言でも示しました。

ちょっと一言:(トピックス)

腰痛受診時に話してほしい症状

1)前屈すると痛みが増強する
  腰部椎間板ヘルニアの可能性(太股裏のしびれ、痛みは?)

2)前屈すると痛みが軽減する
  腰椎変形スベリ症の可能性(身体を反ると痛みが増強)
  腰部脊柱管狭窄症の可能性(前かがみになると痛みが軽減)

3)続けて長く歩けない:間歇性跛行(カンケツセイハコウ)
  腰部脊柱管狭窄症の可能性(歩くのを休むと痛みが軽減)

(2021年7月30日 公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
谿 忠人先生のプロフィール
谿 忠人先生

漢方医療とは

症状と漢方薬

(あ行)
RSウイルス
足腰の衰え(虚弱)
足のむくみ
アトピー性皮膚炎
アルコール性肝炎
アルツハイマー型認知症
アレルギー性鼻炎
胃食道逆流症
胃腸かぜ
胃腸虚弱
胃腸虚弱(高齢者)
胃腸虚弱(フレイル)
胃痛
胃もたれ
意欲の低下
意欲低下(虚弱)
イライラ
イライラ(産後)
インポテンツ
ウイルス肝炎
うつ感
運動器症候群
円形脱毛症
おしっこの悩み(前立腺肥大)
(か行)
顔色不良(虚弱)
過活動膀胱
過換気症候群(過呼吸)
霍乱
かぜ(風邪)
肩・首筋のこり
過敏性腸症候群
下部尿路症状
花粉症
がん
かんしゃく
関節痛(冷え症)
関節リウマチ
感染性胃腸炎
乾燥肌
肝臓病
気うつ
気うつ(産後)
気管支炎
機能性ディスペプシア
虚労
起立性調節障碍
緊張型頭痛
筋肉減少症
軽度認知障碍
月経周期の乱れ
月経痛(冷え症)
月経痛(冷えのぼせ症)
月経不順(周期の長短)
月経不順(血の道症)
月経前症候群(PMS)
げっぷ
下痢
下痢(ゲンノショウコ)
高血圧
高血圧傾向(虚弱)
高血糖
好酸球性副鼻腔炎
口内炎
後鼻漏
高齢者
五十肩
呼吸困難(COPD)
こじれた咳(感冒)
骨粗鬆症
子どもがほしい
こむら返り
コロナ後遺症
(さ行)
サルコペニア
産後の回復不全
残尿感(前立腺肥大)
CFS(慢性疲労症候群)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
湿疹
脂肪肝
しもやけ
しゃっくり
主婦湿疹
暑気あたり
女性不妊
自律神経失調症
脂漏性湿疹
尋常性乾癬
尋常性ざ瘡
頭重感
頭痛
頭痛(しめつける痛み)
頭痛(低気圧)
頭痛(婦人更年期障碍)
ストレス胃
生理痛(冷え症)
生理痛(冷えのぼせ症)
生理不順(血の道症)
精力低下(男性)
せき(咳)
咳(こじれた感冒)
脊柱管狭窄症
喘息
喘息(発作)
喘息(寛解)
前立腺肥大
GERD
(た行)
たん(痰)
男性更年期障碍
男性不妊
蓄膿症
血の道症
チック
痛風
手足口病
手足のしびれ(糖尿病)
低気圧頭痛
天気痛
動悸
凍瘡
糖尿病
(な行)
内臓脂肪症候群(糖尿病)
ながびく咳(感冒)
夏かぜ
NASH
夏バテ
夏やせ
2型糖尿病
にきび
尿意切迫
尿失禁
尿路結石
尿路不定愁訴
妊娠力をつけたい
認知症
脳血管性認知症
熱中症
脳梗塞と脳出血
のぼせ感
ノロウイルス下痢
(は行)
肺気腫(COPD)
排尿異常
鼻アレルギー
鼻かぜ
鼻づまり
鼻水
非アルコール性肝炎
冷え症
冷えのぼせ症
鼻炎
皮膚炎
皮膚瘙痒症
肥満
肥満(糖尿病)
疲労感
頻尿
PMS(月経前症候群)
不安定膀胱
プール熱
腹痛
副鼻腔炎
婦人更年期障碍
不眠
不眠(産後)
フレイル(虚弱)
ヘルパンギーナ
変形性膝関節症
片頭痛
便通異常
便秘
膀胱結石
(ま行)
マタニティー・ブルー
慢性胃炎
慢性気管支炎(COPD)
慢性の咳(COPD)
慢性疲労症候群(CFS)
慢性閉塞性肺疾患
むくみ(足のむくみ)
無月経
胸やけ
メタボ肥満
メタボリック・シンドローム(糖尿病)
めまい
めまい(婦人更年期障碍)
(や行)
夜間頻尿
やせと栄養失調
腰痛
抑うつ感
抑うつ感(虚弱)
夜泣き
(ら行)
冷房下痢
老年症候群
ロコモ

漢方薬名を選ぶ!

TOP