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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

藿香正気散(カッコウショウキサン)

1.藿香正気散(カッコウショウキサン)の名の意味

 藿香正気散の名は、藿香(カッコウ)が主薬であることを意味しています。藿香は、中国南部から東南アジアで栽培されているシソ科の香料原料植物(パチョリー)の地上部です(図1)。

 藿香は、体表に侵襲した湿邪(シツジャ)や暑邪(ショジャ)による頭痛重だるさを除く解表薬(ゲヒョウヤク)です。
 また、湿邪による吐き気胃もたれ食欲不振下痢を軽減する化湿(≒利水 リスイ、化痰 ケタン)でもあります。
 正気は、(キ)を正常にする薬能です。は、生命維持活動を担う五臓(肝・心・脾・肺・腎)の機能です。

 本方には、理気化痰剤(リキケタンザイ)の二陳湯(ニチントウ)平胃散(ヘイイサン)半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ:図2の黄緑色枠内の5生薬)が含まれています。
 このことから本方の正気は、消化吸収機能(脾胃 ヒイ)と呼吸機能()と情緒調整機能( カン)を正す薬能と考えられます。

 以上のことから方剤名は、本方がかぜ(とくに夏かぜ)に伴う吐き気胃もたれ食欲不振下痢に適することを示唆しています。

2.藿香正気散の適応

 藿香正気散の主な適応は、蒸し暑い夏期の胃腸かぜに伴う軽度の頭痛や重だるさ食欲不振吐き気下痢です。夏かぜかぜ(6)を参照してください。
 本方は、急性胃腸炎による吐き下し夏ばてによる倦怠感にも適します。霍乱胃腸かぜを参照してください。

 中医学では、本方の適応病態は、風寒湿邪による外感病(ガイカンビョウ)と考察されています(日本中医薬学会雑誌, 2021; 11: 9-18)。

 藿香正気散は、中国において新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の肺炎症状が出ていない軽症の倦怠感が主体の病態に使用されています。(COVID-19 感染症に対する漢方治療の考え方。改訂ver 2。日本感染症学会のHP: 
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/covid19_tokubetu2_0421.pdf  
2025/5/10 閲覧)。

 藿香正気散は、香蘇散(コウソサン)と平胃散で代用できると解説されています。

3.感冒様症候群に用いられる藿香正気散の関連方剤

(ジンソイン)は、胃腸虚弱食欲が落ち倦怠感が強く、のある湿性咳嗽を伴うかぜに用いられています(日耳鼻, 2013; 116: 388-389)。胃腸かぜ夏かぜを参照してください。

 参蘇飲は、藿香正気散と同様に理気化痰剤二陳湯を(図3の水色枠内の5生薬)を含みます。補気薬人参を含むことから、補気化痰剤六君子湯(リックンシトウ)の方意を含む解表補気化痰止咳剤です。
 本方の適応症状は、藿香正気散と類似しますが、急性期から亜急性期のかぜの湿性咳嗽に適します。かぜ(4)漢方薬名の意味:参蘇飲を参照してください。

(サイボクトウ)は、かぜ亜急性期の湿性咳嗽日東医誌., 2003; 54: 29-46)や、気管支喘息の発作後咳嗽や寛解の維持日東医誌., 1991; 41: 233-239)に用いられています。かぜ(4)喘息(3)を参照してください。
 本方は、小柴胡湯(ショウサイコトウ:図4の7生薬)と半夏厚朴湯図4の黄緑枠内の5生薬)の合剤です。清熱性の小柴胡湯を含むことから、藿香正気散より気管支の炎症など熱証傾向の病態に適します。

(ゴシャクサン)は、胃腸虚弱者のかぜ症状をはじめ冷えで悪化する症状食欲不振月経痛関節痛腰痛日東医誌., 1979; 30: 247-252)や不定愁訴に用いられています。この多様な愁訴に適することが本方の特徴です。胃腸かぜ漢方薬名の意味:五積散を参照してください。

 本方は、桂枝湯(ケイシトウ:図5の▼の5生薬)と平胃散(ヘイイサン:図5の青色枠内の6生薬)を含み、半夏厚朴湯当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)の方意を含む表裏双解剤(ヒョウリソウカイザイ)です(図5)。

4.下痢に用いられる藿香正気散の関連方剤

(イレイトウ)は、急性胃腸炎の下痢吐き気漢方の臨床, 2013; 60: 827-832)や、冷飲食による下痢日東医誌., 2019; 70: 247-253)に用いられています。霍乱を参照してください。
 本方は、平胃散利水剤五苓散(ゴレイサン:図6の◆の5生薬)を組み合わせた理気和胃利水剤です(図6)。

(ケイヒトウ)は、消化吸収機能の低下倦怠感と、吐き気胃もたれ膨満感下痢に用いられる補気剤四君子湯を基本とする消食止瀉剤です。主な適応は、冷え症傾向の軟便泥状下痢です。霍乱を参照してください。
 本方と藿香正気散は、漢方薬名の意味:啓脾湯で比較しています。

ちょっと一言:(トピックス)

藿香正気散の口訣(抜粋)

・夏月、脾胃水湿の気を蓄へ、腹痛下痢して頭痛悪寒等の外症を顕す者を治す(浅田宗伯)

・湿気の多い時期の表湿の感冒に適した方剤。湿困脾胃症状の悪心嘔吐腹満下痢を伴う胃腸型感冒に用いる解表化湿化痰利水剤(森雄材)。

風寒湿邪による外感病初期症状(体表の痛み咳嗽)、湿邪困脾症状(嘔気げっぷ下痢)に用いる(加島雅之)。

2025年5月26日 公開


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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