病気の悩みを漢方で

１．麦門冬湯（ﾊﾞｸﾓﾝﾄﾞｳﾄｳ）名の意味

　麦門冬湯の名は､麦門冬が主薬であることを意味しています。麦門冬は､ジャノヒゲの根の肥大部です（図１） 。

　麦門冬は､津液不足（ｼﾝｴｷﾌｿｸ）による乾性咳嗽や口乾を軽減する潤肺止咳薬（ｼﾞｭﾝﾊﾟｲｼｶﾞｲﾔｸ）です。肺以外に胃､心（ｼﾝ）の乾燥病態を潤す養胃､養心･清心の薬能もあります。

　本方には､麦門冬以外にも乾燥を潤す粳米（ｺｳﾍﾞｲ：玄米）と人参と大棗が含まれています（図２）。

　半夏（ﾊﾝｹﾞ）は､咳き込み（肺気上逆）や吐き気（胃気上逆）を軽減する化痰降逆薬（ｹﾀﾝｺｳｷﾞｬｸﾔｸ）です。

　このことから方剤名は､本方が口乾（口腔機能低下症）や乾性咳嗽に適することを示唆しています。

２．麦門冬湯の適応

　麦門冬湯は､乾燥病態を背景にした感冒の亜急性期や気管支喘息発作後の乾性咳嗽､声がれ､咳き込みに用いられています。
　顔を赤くして咳き込む様子を古典では大逆上気と記載しています。

　本方は､鎮咳作用や気道粘液分泌と粘液繊毛輸送など気道クリアランス機構を改善する末梢性鎮咳薬です。この作用は気道炎症時に発現する特性があります（薬学雑誌, 2003; 123: 987-1006）。かぜ（３）を参照してください。　　

2.1）かぜ症候群後やその他の咳嗽に対する麦門冬湯の研究例

2.2）気管支喘息に対する麦門冬湯の研究例

2.3）口腔乾燥症に対する麦門冬湯の研究例

３．乾性咳嗽に用いられる麦門冬湯の関連方剤

3.1）竹葉石膏湯（ﾁｸﾖｳｾｯｺｳﾄｳ）は､麦門冬湯の５生薬に清熱薬の竹葉（ﾁｸﾖｳ）と石膏（ｾｯｺｳ）を加味した方剤です（図３）。

　竹葉石膏湯が､加齢に伴う口内乾燥感を軽減した報告があります（日東医誌., 1993; 43: 533-538）。麦門冬湯より熱証傾向で乾燥が強い病態に適します。

3.2）滋陰降火湯（ｼﾞｲﾝｺｳｶﾄｳ）は､麦門冬に加えて､乾燥を潤す地黄（ｼﾞｵｳ）､津液不足（ｼﾝｴｷﾌｿｸ）による虚熱（ｷｮﾈﾂ）を冷ます天門冬（ﾃﾝﾓﾝﾄﾞｳ）知母（ﾁﾓ）を含む滋陰降火止咳剤（ｼﾞｲﾝｺｳｶｼｶﾞｲｻﾞｲ）です。

　滋陰降火湯は､麦門冬湯の適応より乾燥病態が顕著で､夕方の微熱､寝汗､掌や足裏のほてり（虚熱）を伴う乾性咳嗽に適します（日東医誌., 2006; 57: 661-667）。夜間の咳嗽が特徴です。津液不足による便秘傾向の病態に適します。漢方薬名の意味：滋陰降火湯を参照してください。

3.3）滋陰至宝湯（ｼﾞｲﾝｼﾎｳﾄｳ）は､麦門冬に加えて､柴胡（ｻｲｺ）を含む理気剤の逍遙散（ｼｮｳﾖｳｻﾝ）の生姜以外の７生薬（図５の●を付した７生薬）と理気薬の香附子（ｺｳﾌﾞｼ）を含む方剤です。　

　滋陰至宝湯は､滋陰降火湯より体力の低下した人の気滞症状（抑うつ､不安､いらだち）を伴う乾性咳嗽に適します。
　本方は､慢性閉塞性肺疾患（COPD）のうつ傾向を伴う乾性咳嗽に用いられています（日東医誌., 2011; 62: 329-336）。
　本方と滋陰降火湯は､虚労（３）で比較しています。

3.4）炙甘草湯（ｼｬｶﾝｿﾞｳﾄｳ）は､麦門冬以外に熟地黄（ｼﾞｭｸｼﾞｵｳ）などの生津薬（ｾｲｼﾝﾔｸ：図６の灰色枠内の４生薬）を含む補気補血生津剤です（図６）。

　炙甘草湯の主な適応は､乾燥病態を伴い体力が低下し疲れやすい人の動悸､息切れです。動悸（２）を参照してください。
　本方は､咳嗽が主たる適応ではありませんが､乾性咳嗽を伴う気管支喘息にも用いられています（漢方の臨床, 2002; 49: 892-894）。